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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四節 雪女
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100話記念特別編・潜入恐怖の上下家

 ある日のこと。

 私は友人との会話中に大変な事をしてしまった。

 会話のノリで、皆で勉強会を開こうってことになったんだ。


 私の家はほら、親父がいるから一人くらいならともかく複数の友達なんて呼べない訳だし。

 よっちーの知り合いである三人は彼氏やら弟やら妹がいるからという理由で断られ、よっちーの家はお爺さんが怖いから無理という訳のわからない理由で拒絶された。

 つか家に彼氏とかなんだよリア充め。いやリア獣め。めぐめぐ爆死しろ!


 となると、一つしかないんだわ。

 そう。真奈香ズハウスである。

 冗談ではない。行ったが最後私限定でホラーハウスに早変わりだ。


 絶対無理だと涙目で断っていたのだけど、よっちーの援護射撃や真奈香の押しに結局流され、私はついつい決断してしまったのだ。

 真奈香の家に、向うと。


 頷いてしまった瞬間から史上最大の後悔が押し寄せてきたが、場のノリというのは恐ろしいモノである。

 たった一言仕方ないというだけで死亡フラグが湯水のごとく連立することになろうとは。


 真奈香の家に向う。それはつまり、死出の旅路へ向うということを意味していた。

 私、生きて帰れないかもしれない。


 だから、父さん。もし、私が居なくなったとしても、しっかり生きていくんだよ。母さんと、できれば仲直りしてね。

 うぅ。思えば短い人生だった。


 なんだろう、この寂寥感。今まで生きてきた日常が凄く愛おしいモノだったんだと気付けて感動するような、そしてこれから確実に訪れる現実に絶望するような気持……

 清水の舞台から飛び降りるって、こういう気持ちなのかね?


 放課後。珍しくグレネーダーの休日を利用して、私は真奈香の家へと向かうこととなった。

 よっちーたちに連行される私は、必死に逃げようともがくが、拘束が強すぎて逃げられない。


「ただいまー」


 真奈香が一件の家に入ったことで、ゴルゴタの丘に着いた事を知った。

 嫌だ。私はキリストさんのように復活なんてできないんだ。

 頼むよっちー、後生です代官様っ。この家だけは、この家だけはぁっ!


 なぜだろう、ただの一軒家でしかないはずなのに、その建物が魔物のように揺らいで見える。

 禍々しいオーラのようなものが立ち上がり、玄関という名の巨大なあぎとを開き獲物の到達を今か今かと待ち構えているようだった。


「んじゃ。おじゃまします」


 私の抵抗空しく、家の中へと通される。

 真奈香の家の正式な外観など、もがくのに必死で見れちゃいなかった。

 今さらながらどうでもいいので帰りも見る事はないだろう。


 いや、果たして私は無事に脱出する事が出来るのだろうか?

 ああ、ドナドナが、ドナドナが聞こえる。

 これは幻聴か? いや違う。耶伊香と響子が楽しそうに歌いながら私の両腕を引っ張っている。


 チクショウっ。ここには味方は居ないのか!?

 絶対に、絶対に穢される前に脱出してみせる! もう、誰の力も借りない! と、決意する私の前で、背中越しに真奈香が呟く。


「……は有伽ちゃんで出来ている」


 何がッ!?


「血潮は願いで、心は一筋」


 あ、これどっかで聞いた気がする。何かの言葉を捩ってるな。

 なんだっけ、ゲームの主人公が使ってた固有結界の呪文だ。

 疑問に思っている間に私は真奈香の家へと連れ込まれ、靴をよっちーに脱がされ、そのまま真奈香の部屋がある二階へと運ばれる。


「幾たびの戦場を越えて接吻。ただの一度も交尾はなく、ただの一度も返事はない」


 何だ? 何か凄く危険な予感が……


「彼の者は常に独り、偽りの彼女で妄想に酔う」


 本能が警鐘を鳴らす。

 このまま向ってはいけない。この先は危険な聖域だ。

 固有結界が展開されている。


「ゆえにその生涯に奇跡は不要ず」


 ある部屋の前で、真奈香が立ち止まる。

 ドアに手を掛ける真奈香。

 私の頭の中で警鐘が最大級に鳴り響く。

 開くべきじゃない。その扉は危険だ。

 最大級の、宝具あくむが――――


ただ、二人だアンリミテッド・けの世界ありかちゃんワールド


 地獄の扉が、今、開かれた……




 それは、怖気の走る部屋だった。

 壁、天井、窓、床、その全てを覆い隠す写真の数々。

 その全てに、私の姿が写っていたりする。


 おかれた机には写真立て、当然ながら真奈香と私のツーショット。

 どうやってつくったのか私の姿をした人形が十体くらい飾られている。

 内三つくらいはポーズがエロい。なんで裸ワイシャツで見上げる格好してんだよ? 肖像権の侵害ですよ!?

 そして無造作に机に置かれた数多のジャ○ニカ恋愛帳。机の棚には同じようなノートが目一杯詰め込まれている。


 女の子らしい部屋という言葉は皆無に等しい。

 そのおぞましい部屋にあるクローゼットは開けるのも躊躇う程に写真が張られ、ベットのシーツは写真をプリントしたのか私の巨大な顔が……布団の方もポーズは違うが私の刺繍。当然枕もだ。

 そしてその傍らには抱き枕用の人形。


 唯一私の顔がないのは部屋の中央に鎮座する四角い白テーブル。

 勉強を行うならここしかないのだろうが、五人で使うにはちょっと小さい。しかも座布団がまた……私かよ。


 悪夢――とでもいうべきだろうか。予想以上の衝撃に、戦慄したまま軽く記憶が飛んだ。

 やはり来るべきではなかった。

 いや、それよりも……


 ベットの上に乗っかってる等身大人形みたいなのが……私に似ているのは気のせいだろうか?

 いや、気のせいだと思いたい。気のせいだと言って下さい。

 いや、きっと幻覚だ。あそこには何もない。うん、何もないんだ。あは、あはは。あはははははははははははは……


 その部屋は私の正気度をガリガリ削り取っていく。

 私限定究極殲滅用宝具。真奈香の部屋が発動し、私の精神ばかりかよっちーたちの精神力も根こそぎ圧し折っていく。


 かなり引いていたよっちーたちも部屋の内装には放置を決め込んだようで、私同様気にせず部屋に上がると、無言で教科書を出し勉強を始めた。

 全員、死んだ魚の眼になっていた……


 そして、二時間くらいだろうか?

 ナニかに耐えきれなくなった私達は競うように真奈香の家から脱出した。

 そして以後、真奈香の家に向おうという友人は誰も居なくなった。

 この日、異常な程集中して勉強が頭に入った事だけは……感謝している。

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