パープルゴリラが気になって
家に帰ったらパープルゴリラがソファーに座っていた
カーテンが妖しく囁く
来るぜよ来るぜよ
なんにもなくなった広い部屋には
不思議と懐かしいものが入り込む
くたびれたコウモリに
ボロボロの蛾に
死にそびれた虫が
分厚い埃の絨毯が
捨ててきた穢いゴミも
無くした石ころさえも
部屋いっぱいに犇めきあう
ウホッホッー
パープルゴリラは踊り出す
コウモリが二の腕をガブリ
パープルゴリラはドラミング
蛾が頭の上にヒラリ
パープルゴリラがはにかんだ
虫が額にペタリ
パープルゴリラは鼻息ならす
今ここに埃のステージ君臨
穴だらけのミラーボールが回りだす
パープルゴリラがハミングすると
ゴミ吹雪が散り遊ぶ
『甦るのは悪いこと?』
石ころは熱くなってパチパチ弾ける
『現在に繋がるための大切な”しるし”じゃないの?』
パープルゴリラは惚けた顔で口笛吹いた
懐かしいものたちは堪え切れなくて泣き出した
パープルゴリラは抱きしめた
そっと壊さないように
今ここに在るものたちを抱きしめた
パープルゴリラは歌い出す
愛しいものたちよ
それを惨めだとは言わせない
たとえ逃避だと言われようと
たとえ腐っていると言われようと
まるごと愛しいと認めているからこそ
君たちの歌をわたしは歌えるのだ
それになんてったってそれは
わたしにとって唯一の娯楽なのだから
ウッホッホー
パープルゴリラは歌うことを止めやしない
やがて訪れる新しい明日
黒いゴリラのぬいぐるみがソファーで眠る