第六話 硝煙弾雨
VS緑川・石田終盤戦です。
今回は存在が空気と化し始めていた樹が活躍します。
やっと、樹が書けました。
…………一応主人公なのに。
樹は、十数本のタバコを手でまとめて握り、なるべく煙が天井に行くように上に掲げた。
すぐに、スプリンクラーが作動する。
――これで少しはあいつらの動きも鈍るだろう
手にしたタバコを水を溜めておいたトイレの洗面所に投げ込み、走って、龍太の所に行く。
龍太がかなりやばい状態だ。あれでは、本当に殺されてしまうかもしれない。だから、友達として助けに行かないといけない。……空はどうでもいい。別に龍太に比べればまだピンチでもない。
走っている途中に樹は感じた。
手に震えが走っている。
手は小刻みに揺れ、足はガタガタ揺れている。心臓も鼓動が速くなって、止まらない。汗もダラダラと流れている。
樹は自分でもはっきり自覚している。
――俺はあいつらに恐怖している
だけど、ここで逃げるわけにはいかない。震える体を押さえ込み、必死に足を進める。
――しかし、素手で行くには無謀だな
走っている途中の脇の食器売り場を見た。
樹はニヤリとした。
●
天井のスプリンクラーが作動し、だんだんと床が水浸しになってきた。
空は、この突然の事態に樹が関係している事をすぐに悟った。
「これ、お前のどっかいった連れのしわざか?」
「さあ、知らないな。そんな事も分からないんじゃ、どうしようもないな」
「やっぱりあのヘタレ野郎の仕業か……全く、何の意味があるんだ? こんなことに…………」
緑川が天井を見上げる。
大量の水が顔を打ちつける。大量の水が緑川の動きを止めているかのように顔の他、両肩、両手、両足、そしてルーン武器に降り注いだ。
「さあ、続きと行こうぜ? 早くしないと風邪引くぞ?」
指をくいっと曲げて挑発をする。
「全く、何がしたいんだか良く分からない奴らだ。――拘束せよ」
空が縛り上げられる。その場で、きつく結ばれ、身動きを封じられた。
緑川が歩き出す。
しかし、十歩ほど歩いて緑川が急に足を滑らして、その場でこけた。
そうしたら、なんと、空に掛かっていた拘束が解かれた。おそらく、緑川がこけたことが原因だろう。どういう理屈かは分からないが。集中力が途切れたとか視界から外れたとかそんなとこだろう。
そして、空はこのチャンスを逃さなかった。
拘束が解かれた瞬間、全力で走り出し、緑川に詰め寄った。
そして、起き上がろうと、少し体を起こした所を鳩尾辺りを全力で蹴り上げた。
緑川は呻き声を上げ、奥に飛ばされ、その後、大量にむせ返した。
追い討ちをかけるように駆け寄り、もう一度蹴り飛ばそうとしたが、蹴るよりも先に、緑川がルーン武器を床すれすれを水平に振って空の足を引っ掛けた。
そうすると、前のめりに倒れこみ、丁度、緑川の目の前で倒れている状態になった。
「けっ、スプリンクラーのせいで足を滑らせちまったじゃねえか」
緑川が立ち上がる。
「さっきはよくも蹴飛ばしてくれたな」
空の服を掴み持ち上げる。
「――拘束しろ」
ルーン武器で動きを封じ、全力で鳩尾に蹴りを叩き込む。
空が勢いよく飛んでいき五メートルほど先のところで倒れて止まった。
「このスプリンクラーのせいで俺の足場が悪くなっているのは確かだ」
しかし
「お前の足場も悪いんだよ」
●
石田は突然のスプリンクラーの作動にもあまり動揺せず、西崎をいたぶり続けていた。
足場が水溜りになり少し足が滑りやすくなった気がするが、目の前の敵は既に先頭不能だ。大した問題ではない。
大分蹴り続けて、西崎が全く動かなくなってから、やっと石田は蹴りを止めた。
――ふう、俺としたことがこんな奴に取り乱すなんて……
息を整え、深く深呼吸、西崎を放置し、緑川の援護に行こうとした。
――たぶんいらないだろうけど、一応行くか。
すると、石田はふと異変に気付く。
それは、さっきまでいたはずのあのヘタレがいなくなっているということである。
どこへ行ったのか?
西崎との戦闘中何度か視界の端に捉えていたが、何故だか、今になって姿が消えている。
――あいつ、どこへ行った? もしかして、このスプリンクラーもあいつの仕業か……くだらない真似して
しかし、何も出来ない奴が一人いなくなった所で別に石田にとって大した問題ではない。
緑川に声をかける。
「緑川! そっち、大丈夫か? 今、そっち行くぞ」
緑川も答える。
「ああ、見ての通り大丈夫だ」
緑川が一度下を向いて倒れている月島を指差した。
そして、もう一度、石田の方へ顔を向けると、突然顔を強張らせた。
「石田!! 後ろだ!!」
「えっ!?」
石田がサッと後ろを向く。
石田の頬スレスレを小さな皿が一枚通過して行った。
「お前は……」
西崎の近くに立つ、そこには、あのどこかに消えていた筈のあのヘタレが立っていた。
「いつまでも、なんもしないと思ってんなよ?」
「へっ、今更出張ってきて何が出来るって言うんだ? 見ろよ。お前の友人はもう倒れちまってるぜ?」
相手の足元の倒れている西崎を指差した。
「あー? こいつ? こいつはどうでもいいや。うん」
その言葉に石田は呆気に取られ、言葉を失った。
口をあんぐりと開け、一瞬茫然としてから気を取り直して言葉を作った。
「おい! お前の友達じゃねえのかよ? どうみても瀕死じゃねえか。助けなくていいのかよ? 死んでもいいのか? 友人が」
それなのに、あの馬鹿は平然と答える。至極当然とでも言いたげな感じで。
「ん? 瀕死なの? どうもね。手間が省けたよ。こいつとあそこでまだ倒れてる大馬鹿は日頃の恨みも込めて制裁加えておこうかと思っていたんだ。それを、お前達が変わりに代行してくれたのなら感謝するしかないな」
●
緑川は、石田の会話をそっと聞いていた。
あまりの予想の斜め上展開の会話にあやうくルーン武器を足元に落としてしまった。
運の悪い事に落としたルーン武器が月島の後頭部を直撃した。
ゴッっという鈍い音がした。
――あっ、やば…………
緑川は急いで、ルーン武器を拾い上げ、息を呑んだ。
「うっ……」
月島がうめき声を上げた。
そして、意識が戻った。
「…………う~ん…………全身が痛い。……はっ、やばい。戦闘中だった!」
急に起き上がる。
そして、起き上がると同時に石田の奥の方を見て、『おっ!』と声を出した。
「あれ? 樹いんじゃん」
月島が奥のヘタレの男の樹とかいう奴を指差した。
「おーい! 樹ー! なんだ? 急にやる気出たのかー!?」
たまらず、声を張り上げる。
「おいっ! 俺は無視か!?」
すると、うんざりしたように、こちらに視線を移した。
「あ? ちょっと待ってろよ? 短気な野郎だな。今、俺は樹と話してんだ」
「今、お前の相手は俺だろうが!」
「だから、俺は今、樹と話していると言っている。少し黙っててくれ」
全く話の通じない相手に苛立ちを感じ、ルーン武器を構える。
「――拘束せよ」
瞬時に月島が拘束された。
だが、月島はこちらに向こうを向いたまま、一言言ってまた構わず喋り続ける。
「どうせ、口は動くんだ。そのまま縛ってくれ。そうすれば大人しくしてくれるんならな」
全く調子が合わない。
苛苛して、攻撃する気も起きない。
自分が今、完全に蚊帳の外になった。
●
「樹ー! 何やってんだよ? せっかく闘う気になったのなら、目の前の奴倒しちまえよ」
遠くから空が樹に対して喋りかけてくる。
正直な所、黙ってそのままぶっ倒れていればいいものを無駄に起き上がりやがって、マイペースに喋り続けてくるから、大分ストレスが溜まる。
見れば、向こうの空の相手も必死に冷静な態度を装っているが顔が苛立ちに満ちているのが分かる。敵ながら同情するしかない。
「お前は、少し黙ってろ!! 今、いい所なんだよ!! お前うるさいんだから、そのままたおれてろ馬鹿!」
大声で言い返すと、また、返事が返ってきた。
「あー? 薄情なこと言ってんじゃねえよ!! さっきまで腰抜かしてたくせに!」
「さっきまではな!! 今は違えよ! 事実、俺は今、龍太の危機を救った」
「そんなものは救ったうちには入らないだろう! ただ、後ろか奇襲かけただけじゃねえか!」
「それでも、救った事実に変わりはねえ!」
「じゃあ、何だこのスプリンクラー? 何の意味があるんだよ!!」
「はあ? そんなのも分からないのかよ!? 相手の足場が悪くなってこっちが有利になるだろうが!!」
「相手だけじゃなくて、こっちの足場も悪くなるに決まってんだろう!! 同じ場所で戦ってるんだからな! この単細胞め!!」
「その程度、自分で何とかしろよ! ガキかよお前は!?」
延々と、樹と空で口論が始まった。
それを石田と緑川が、耐え切れなくなって、先に石田が声をあげる。
「お前等いい加減にしろよ!! 俺達を無視すんな!!」
すると、樹が横目で石田を見てから空に視線を戻す。
「おい! こいつら、この程度しか我慢できないらしいぞ。遊園地のアトラクション乗ろうとしたらストレスで死ぬな、たぶん」
「あー、どうやらそのようだな。随分と短気のようだ二人とも」
それを聞いて、石田に視線を戻す。
「まあ、時間稼ぎもこのくらいにして、そろそろ闘うかな」
「行くぜ?」
樹が軽く伸びをして、右手を後ろに回す。
それを見て、石田が呆れた声を出す。
「おい。何だその後ろの右手は? お前もそこの馬鹿みたいになんかくだらない小細工でするのか? そういや、さっきも皿ぶん投げてきたな」
「もっと、別のも見るか?」
「はっ! やってみろよ」
石田がそういうと、樹は無言でフォークを投げつけた。
後ろから一本取り出し、石田に投げつける。
その後、時間差でもう一本。
ラストはもう一度皿を二枚同時に投げつけた。
「小細工だな……――加速せよ」
石田はフォークと皿を意にも介さず軽く頭をずらして避け、ルーン武器を発動させた。
「! うわっ!」
一瞬で樹の目の前まで詰めて来て、ルーン武器で殴ろうとした。
「ほいっ!」
今度は左手から刺身包丁を取り出した。
樹は、思いっきりルーン武器に突き刺そうとした。
突き刺されば、おそらく、性能が落ちるだろう。そう考えたからだ。
しかし、金属音がぶつかり合ったような高い音を立てて、刺身包丁が弾かれた。
「なっ…………!」
見れば、なんとルーン武器は全くの無傷、だが、刺身包丁はかなり刃こぼれしてしまった。
見た目以上に相当硬い作りになっているようだ。どうやったらここまで硬くなるのだろう?
樹は、冷や汗をかき始めた。包丁ですら弾かれたとなると、かなりやばいのだ。
さっき、樹がここに来る前、食器売り場で食器や調理道具をある程度拝借していた。その中で、一番攻撃力のあるのが包丁だった。状況はあまり良くない。
「残念だったな! どうやら、当てが外れたようだな!」
石田がもう一度、ルーン武器で殴りなおしてきた。咄嗟に、腕をクロスさせ、無防備で受ける事だけは避けた。
だが、防御も空しく、吹っ飛ばされてしまった。
樹が倒れこむ。そして、すぐさま起き上がる。
「あぶねえな。意識が飛びそうになるな……ましてや、足場も悪い」
「足場はお前がやった事だぞ?」
石田が、小馬鹿にするように樹を見た。
石田は、もう一度ルーン武器を構えた。
「たって来る以上手加減はしないぜ? ――加速せよ」
今度は、ルーン武器を樹に向けたまま、加速の流れに乗って、突っ込んできた。
だが、今度は樹はガードしようとせず無防備でルーン武器の攻撃を受ける。
普通なら吹っ飛ばされて、最悪気絶するが、樹はその場で膝を突く。
「ん? なんか腹に仕込んでるのか?」
石田が怪訝そうな顔をする。
すると、樹の腹からまな板が落ちてきた。しかし、ルーン武器に砕かれたのか、真っ二つに割れていた。
「くっ……鎧代わりになると思ったんだけどなあ」
石田が呆れて溜め息をつく。
「馬鹿か? お前。包丁よりも硬い物をまな板程度で防げるわけ無いだろう」
「くそっ、ここまでか…………」
万策尽きた。樹が諦めかけた。
まさにその時だった。
「全員、そこを動くな!!」
突然、四方八方から怒号が飛び込んできた。
誰なのか?
声のほうを見て、樹は安堵した。
「やっときたか。疲れたぜ。……お前達の負けだ!」
樹はその場で倒れこんだ。
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緑川と交戦していた空も怒号を聞いた。
そして、すぐに姿を確認して、安堵の声を漏らす。
「ふう、俺達の役目も終わりだな。俺らが戦闘開始してから、十五分とちょっと。さすが、早いな。予想してたより少しばっかりは早かった。この勝負、俺達の勝ちのようだな」
というわけで、第六話「硝煙弾雨」、いかがでしょうか?
今回は、全体的に会話が多いのは単純な時間稼ぎです。作中でも言っているように。
そして、樹が第一話の頃と比べると龍太、空と変わらない位の外道っぷりを発揮していました。キャラ崩壊? どうなることやら。
そして、次の第七話でVS緑川・石田は終了になる………………予定です。どうぞご期待ください。
《追伸》
先日、初めて感想を貰いました。
感想をくださった不治鯛世界さんありがとう御座いました。
これからも、作家として頑張ってください。




