第四話 Roaring of a severe battle
龍太&空VS石田&緑川、中盤戦です。
今回は龍太がいろいろはっちゃけます。
空も、がんばります。
龍太は急いで、倒れたまま振り返り、相手を見た。
――思っていたより辛いな
やはり、ゲームとは違う。本当に気を少しでも抜いたら死ぬかもしれない。
なんとか、その場で立ち上がる。少し息を整えればまだまだ戦える。
反対側を見ると、どうやら、空もやられているようだ。空も、なんとか立ち上がって緑川と向き合っている。空もまだ戦える事が分かれば、後はどうでもいい。本人が何とかするだろう。それよりも、目の前の敵だ。
「へっ、大した事ねえな。ルーン武器も」
「痩せ我慢はよすんだな。随分と足が震えているようだが?」
石田が龍太の足元を指差してくる。
確かに、少し足が震えている。
しかし、これはびびっているからではない。強大な相手に挑戦するという武者震いに近い。
「心配すんな。まだまだ戦えるぜ」
「楽しませてくれよ?」
ニヤリとお互いに笑う。
同時に、また龍太が石田に向かって走り出した。さっきと同じだ。これ自体に特に策があるわけではない。だが、向かっていかなければ目の前の敵は倒すことはできない。
龍太が突進してくるのを見て、また、『Z』を龍太に向かって掲げた。
「――加速せよ」
龍太の目の前で石田の姿が消えた。
気が付くと石田はまた、後ろに回りこんでいた。
「何度やっても同じだぞ」
「それはどうかな?」
龍太は前を向いた姿勢のまま何歩かそのまま進み、後ろを横目でチラリと見てポケットから、鉛筆を取り出した。それも、芯がものすごく尖った地味に痛そうなものだ。
その鉛筆をそのまま後ろに投擲。
だが、石田は当然、意にも介さない。
「そんな物でやられるわけ無いだろうが!」
ルーン武器を使うまでも無く、左手で脇に弾き飛ばす。
鉛筆が弾かれたのを一瞬だけ確認し、視線を前に戻す。
今度は、カッターが二本、刃全開で飛んできた。
「うおっ!!」
間一髪のところで頭を下げ、二本ともかわす。
ちょうどその時、何か硬いものが下げた後頭部に当たった。
「っ……、何だ?」
カツンと地面に何かが落ちた。
見てみるとそこには、テープで巻きつけられた何枚もの硬貨があった。
「けっ、くだらねえ真似しやがって、こんなのでダメージが入ると思ってるのか?」
石田は一度立ち止まり、呆れたような声で言った。
「おいおい? 止まってる暇あるのか?」
龍太が石田の目の前まで詰めて来ていた。
右の手で握り拳を作り、顔面目掛けて拳を振り放つ。
だが、直撃する瞬間、またしても石田の姿が消えた。龍太の後ろに回りこんでいた。
「もう終わりにしようか?」
全力で、一切の妥協も無く、石田のルーン武器による打撃が行われた。
石田の攻撃が龍太の後頭部を打撃し、前のめりに倒れこむ。
そして、倒れこんでいる途中で、背中を思い切り蹴り飛ばす。
勢いで床に叩きつけられて、頭を強く強打する。
「少しは期待したんだけどな、素手でどこまで出来るのか」
龍太はしばらく立ち上がれなかった。
●
空は、床に沈んだ龍太を見た。
あまりにも早くやられてしまった。
だが、空も今は龍太に何かしてやることは出来ない。目の前の敵をどうにかしないといけないからだ。
――あの野郎、考えがあるとか言って速攻でやられやがって…………
空も空で、さっきから緑川に一方的に押されている。
何せ、空には策なんてものは無かった。
緑川のルーン武器『TH』、相手の動きを封じてくるのは厄介だ。まともに相手に近づく事も出来なかった。
――せめて…………せめて、樹が戦ってくれれば…………
戦っている最中、樹の姿を時々横目で確認していたが、ただ呆然としているだけで、とてもじゃないが戦える状態じゃない。
龍太もかなりやばい状態だ。
空もかなりやばい状態だが、まだ戦えるという点で、龍太より幾分かマシだ。
どうすればいいものか……。
「おい! お前とあっちの……石田とか言ったか。どっちが強いんだ?」
時間稼ぎも兼ねて緑川に問いかける。もちろん、闘いながらではあるが。
「さあて、どうだったかな? たぶん、俺じゃねえかな。まあ、つまり、お前は不運だったわけだ。強い方と当たったんだからな」
緑川が答えつつ、空を縛り上げる。
空は苦しそうに顔を歪めつつも相手に視線を向けて必死に言葉を作る。
「はっ! 強い方に当たって、幸運だな。なんせ、ここでお前は俺に倒される。そして、あいつは俺よりも強い。つまりお前達に勝ち目は無い」
緑川が溜め息をつく。そして、空の腹を思い切り殴る。
「あんまり、強がり言うなよ。向こうのお前の仲間、倒れてんじゃねえかよ」
すぐさま立ち上がる。
「お前知らないのか? 必殺”死んだふり”だ、馬ー鹿!!」
「随分と長い”死んだふり”だなあ?」
「…………”死んだふり”だ、馬ー鹿!!」
「反応が遅かったぞ? 図星のようだな」
空が立ち上がって、緑川に突っ込む。それを緑川が縛り上げる。そして、殴り飛ばす。それの繰り返し。もう、闘い始めてから十ループ目になる所まできた。
「どうした? お前の攻撃は全然当たらないな」
十一回目の縛り上げ。緑川が、龍太を殴り飛ばしつつ、挑発してきた。
「ほら、もっとかかってこいよ? これじゃあ、倒すまでに地球が滅ぶぞ?」
緑川が、逆さに握った拳の人差し指をくいっと曲げてかかってこいの合図を出した。
「それじゃあ、お前達を死ぬまで足止めできるんだな? 俺達の勝ちだな!!」
「へっ、言ってろ!!」
十二回目が叩き込まれた。
●
石田は、目の前の倒れている男を見ていた。
肩にルーン武器を引っ掛け、余裕の表情で相手を見ている。
もう、半ば勝負は決まっている。誰から見てもそうだ。
おそらくは、向こうで戦っている二人もそう思っていることだろう。
――起き上がる気配は無いか……、本気で叩き込んだんだから当然といえば当然だが
「どうした? さっきから倒れこんだままだが、さっきまでの威勢はどうした? 本当にもう終わりなのか? 死んだふりなんじゃないだろうな? 俺の勝ちでいいな?」
石田も、殆ど自分の勝ちを確信していた。
向きを変えて、緑川の方へ行こうとした。
「……うっ、ゲホッ! ふう、きつかったぜ…………」
なんと、西崎が、ゆっくりと体を起こした。
衝撃の展開に、石田も一瞬言葉を失った。
「立ち上がっただと……?」
西崎が完全に体を起こして、床に痰を吐き、石田を視線で捉える。
「ふう、感謝するぜ? 倒れこんでる間、一切攻撃しなかったな。意外とやさしいんだな。おかげで随分休憩できたぜ」
「何、馬鹿な事言ってんだよ? お前完全に気を失ってただろ?」
「何言ってんだよ? 必殺”死んだふり”だ馬ー鹿!!」
●
空と緑川は、お互いに闘いつつも龍太と石田の会話に耳を傾けていた。
「どうだ! 見たか!? これが必殺”死んだふり”だ馬ー鹿!!」
「お前ら、まじめに戦うつもりあるのか? ふざけすぎだろ……」
●
「何が必殺”死んだふり”だ。死んだ”ふり”どころか本気で気を失ってたじゃねえか。それに、必殺って何だ必殺って」
「分かってねえな。全然分かってねえ。そういうもんはなあ、ノリと勢いで行くんだよ!!」
「全然、意味分からねえよ…………」
石田がルーン武器を構える。『Z』の効果を発動しようとした。
しかし、直前、西崎が蹴りを入れてきた。
それも、余裕を持って回避動作に入る。首を頭一個分後ろに下げた。
「必殺!! 伸びる足!!」
言うと、西崎の蹴りが石田の顔とすれ違う直前に蹴りが伸びてきた。
否、実際は西崎の履いていた靴が伸びてきたのだ。
さすがに、石田も予想をしていなかったのか、もろに顔面に右足の靴が直撃した。
「っ!?」
顔面に靴が当たり、視界が消えてしまった。
直後、腹に重たい衝撃が加わった。
周りが見えないが、何が起こったのかは簡単に分かった。
西崎の蹴りだ。石田の視界が靴で消えたと同時に、石田との距離を一気に詰めて、腹に思い一撃を放ってきたのだ。素足な分、さらに衝撃が強くなる。
石田も、無防備でもろに受けてしまい、よろけて二歩、三歩後ろに下がった。
靴も下に落ち、視界が戻った。
目の前に西崎がいた。二発目が来ようとしていた。
微妙に吐きそうな気持ちを抑えて、ルーン武器を発動させた。
高速で移動し、相手の後ろに回りこむ…………と見せかけて後ろに一瞬現れた後、また前に戻る。
案の定、西崎が左足を後ろ向きに小さく蹴り上げた。
靴が飛んできたが、今回は空中を滑走した。
相手は、三歩後ろにバックした。
おそらく、咄嗟に距離をとろうとしたのだろう。
だが、あまり意味は無い。その程度の距離なら、ルーン武器の打撃の射程範囲内だ。
「おっと、一周ぐるっと回ったのか? ご苦労なこった」
「余裕のようだがいいのか? ルーン武器の射程距離だぞ?」
それでも、西崎は余裕の表情。
今度は西崎に向かって一直線に加速。加速した勢いで拳を相手の鳩尾に叩き込もうとした。
「馬ー鹿!! 上を見ろよ!!」
西崎がグイっと上を指差す。
当然、上を見るはずも無く……。
「そんな古典的な方法で騙されるか!!」
「俺警告したからな? いいな? 後で文句言うなよ?」
西崎が妙に押してくる。
しかし、ここは屋内であり上は天井しかない。そもそも、何かができるわけではない。
ただ、先ほど西崎が蹴り上げた靴がまだ落ちてきていないので、靴の落下があるのみだ。そんなものは石田には簡単に除けられる。
「脅すつもりか? 上にあるものはお前のもう片方の靴のみだろう。警戒するに値しない」
それを聞いて、西崎がニヤリと笑う。
「やはり馬鹿のようだな」
「何がだ!?」
西崎はゆっくりと説明する。
「まだ、分からないか? ここのデパートはそれなりに天井が高い。だが、それでも高さは七メートルから八メートルってところだ。今、靴を蹴り上げてから、どれ位経っていると思う? いくらなんでも、とっくに落下している。つまり、天井に何か仕掛けがあると考えるのが普通だろう?」
改めて、西崎が上を指差す。
本当に何かあるのか? 罠のような気もするが、気になってしょうがない。
石田は上を向いた。
石田は目を疑った。
目を向けた先、天井には何かしらの細工がある靴があると石田は思い、上を向いた。
気になる事はどうしても確認したくなるため、何があるのか半分ワクワク感も込めて上を向いた。あらゆる期待を込めて上を向いたのだ。
それが、裏切られた。悪い意味で。
何も無かったのだ。あるはずのものが無く、天井には何も無かった。
「何、余所見してんだ?」
前方から疑問の声。
直後、顎を靴が直撃した。上にあるはずの靴が何故か下から飛んできた。
石田は一瞬、思考が止まった。
――何が起こった? 何故、下から飛んできた?
「お前!! 何したんだ? どうやって、下から靴を蹴……ぶっ!!」
続けて、顎を狙った強烈なアッパーが直撃した。
思い切り頭を揺らされ、倒れこんだ。
頭痛を必死に抑え、起き上がる。
そして、再度問いかける。
「どうやって下から蹴り上げた!? 確かに、天井に向けて、靴を蹴飛ばしただろう? 俺を狙って、空振りしたんだからなあ!!」
西崎が、殴りかかりつつも答えた。
「そんなもん、簡単だろう。最初から天井になんて無かったんだよ!! 最初から下にあったんだ!!」
ルーン武器の加速で西崎の拳よりも早く、そして速く鋭く、腹に拳を突き刺す。
「だが! お前は、あの時に靴を蹴り上げたじゃないか!!」
西崎が倒れこみ、すぐさま起き上がる。
「ああ、確かに蹴り上げた。すぐに、後ろ手でキャッチするつもりでな」
「どういう事だ!? 俺が避けたのを見て、咄嗟にキャッチしたのか!?」
石田がうろたえる。
「だから、最初からキャッチするつもりで蹴り上げたといっただろう、今」
石田は言葉が出ない。さすがに、石田の予想を上回っていた。
相手は言葉を続ける。
「俺はお前が避けることなんて最初から分かっていた。というより、誰でもわかるだろう。同じ手が二回も通用するはずが無いからな。まあ、恐らく、左右どちらかの脇辺りに回り込むだろうと予想していた。まさか、一周するとは思っていなかったがな」
一息。
「そして、後ろ手でキャッチして、その後、バレないように後ろで持っておき、適当にお前の気を散らしたり、それっぽい気迫で惑わせたりして、隙を作って、靴を叩き込んだ。まさか、こんなに上手くいくとは思わなかったがな」
「この糞餓鬼……! じゃあ、警告も靴を空振りしたのも全てわざと、演技だったのか? あそこまで言っておいてか?」
西崎が口笛を吹く。全然鳴っていないが。口元が口笛を吹くみたいに少しだけ口を突き出している。
「そういうことだね。騙されてやんの」
「結局は嘘だったのか!? あれだけのことを言っておいて!!」
「別に、俺嘘付いてないなんて一言も言ってないし、それにここ今はもはや戦場だし。何でもありだね」
今度は、石田が溜め息。
「そうか。お前がそのつもりならいい。俺はもう一切の油断も手加減もしない。お前を全力で殺す!!」
「やってみろよ!! ミニマム脳味噌め」
闘いはヒートアップしていった。
●
空は、目の前の敵との延々とした動作を繰り返していた。突っ込んでは縛られ殴り飛ばされ、また立ち上がり突っ込んで、縛られ、殴られ。この動作にいい加減飽きていた。時間稼ぎなど、もうあまりやりたくはなくなってしまった。
――今すぐ逃げ出したい!
向こう側、龍太と石田がよく分からない動きをしている。
――あれは、何をしているんだ?
龍太が靴蹴飛ばしたり、敵が何もない方向すごい勢いで見たり、空が見ただけでもこの有様なので実際はもっと酷い、もとい、よくわからない闘いを繰り広げていた。
動きだけ見れば、龍太が押しているのだろうが、石田もあまりダメージはくらっているようには見えない。心なしか、顔色が悪いようだが。
「さっきから、何をチラチラ余所見しているんだ? 随分と余裕のようだな」
「ん? お前との殴り合いにも飽きてきたから、あっちに混ぜてもらおうかと思ってな」
緑川の打撃が腹にぶつかる。
執拗に腹ばかり狙ってくるので、そろそろ、腹が限界だ。なので、逃げる意味も込めて、あっちに行きたいのは本当だった。
「まるで、自分が勝ってるかのような物言いだな。殴り合いと言いつつ、殴ってるのは、俺ばかりだ。いや、お前の拳はまだ俺には届いていないな。殴り合い? 笑わせんな」
「別に笑わせちゃいねえよ。俺の勝ちとも言っていない。ただ、お前との殴り合いがつまらないとしか言っていない。つまり、お前がつまらない人間ということだ」
腹を押さえ、立ち上がる。吐きそうな気持ちを抑え、必死に立つ。意識が飛びそうになる。
「痩せ我慢は辞めろ! 見るからに立っているのもやっとの状態じゃないか!」
緑川がルーン武器を剣のように構え、能力を使わずに殴りかかろうとした。
「このくらいのハンデがあった方がいいだろう?」
「調子に乗るな!!」
緑川のフルスイングが腹を捕らえ、空の体が飛ぶ。
そして、そのまま倒れこむ。
「ふう、一切手加減してないぜ? これで終わりか……」
「何が……終わりだって?」
まだ、倒れない。
足をふらつかせながらも、なんとか立ち上がる。
膝を曲げ、手を乗せ、荒い息遣い。
何もかもが限界に近い。
しかし、まだ諦めるわけにはいかない。
まだ、何も出来ていない。
今終わるわけには行かない。
「ば、馬鹿な!! 一切の手加減の無い、全力の一撃だった。それに、今までも、散々、『TH』で縛り上げた無防備状態で何度も殴った。何故立てる? いや、何故立つ? そこまでして何の意味がある? 何の得がある?」
空は口から血を吐き出す。
そして、ゆっくり語り始める。
「意味はあるさ。お前らみたいな奴に自分の住んでる町をめちゃくちゃにされたくない。だから、俺達は阻止しようとしている。それに、『正義は勝つ』って言うだろ? だから闘うんだ。…………もちろん、正義ってのは俺のことな。そして、得は……ある」
「それは何だ!?」
「俺の自己満足とその他諸々!!」
緑川は呆れかえった様子だ。
「くだらない」
「くだらなくなんかねえさ。大事な事だ。向こうの馬鹿だって同じだろうよ」
そういって空は龍太の方を指す。
「今はあいつらのことなんてどうでもいい。あいつらは馬鹿だからな」
「ああ、そうだ。馬鹿だな」
お互いにニヤリ
「だが、だからこそお前達に勝てる」
「それは、無謀って言うんだ!!」
緑川が咆える。
空は一切動じない。
震える手で、緑川を指差す。
「無謀だろうと!! 俺達は闘う! そして勝つって決めたんだ!! お前達なんかに負けるわけねえんだよ!!」
空は、ゆっくりと歩き出す。
お互い、決着が近いであろう事を理解していた。
いかがでしょうか?
ちなみに、龍太がぶつけた硬貨は設定上、十円硬貨十枚組です。
投げ辛いかもですけどたぶん当たったら痛いんじゃないかと?多分ですけど。
そして、まだまだ続きます。この戦い。
どうなることやら?
「ルーン武器弱くね?」とかいう突っ込みは無しです。フィクションですので、ええ、はい。