第三話 欲望の相対者
とりあえず、第三話です。
今回は、ルーン武器についてちょっとだけ分かります。
ほんのちょっとだけ、大して意味はありません。
それではどうぞ。
「あいつらは正真正銘の魔法使いだ」
樹は、目の前の敵から目を離さず、そっと後ろに一歩下がった。
すると、樹達から見て右側に立っている茶髪が肩にかかるぐらいの髪を持った男のほうが自分の腰ぐらいまである杖を軽く掲げた。
「その通りだ。俺の名は、緑川篤也。俺の持つルーン武器は『TH』。効果は、相手の動きを封じる」
そして、左側にいる黒髪短髪の男が自分の右手を前に突き出した。その手には、緑川篤也の持つ杖と同じ大きさの杖が握られていた。下のほうが鋭利な剣状になっていた。
「そして、俺の名は、石田和斗。俺の持つルーン武器は『Z』。効果は、自分の足を瞬間的に加速させる」
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緑川は、相手三人の姿を興味深げに見ていた。
――ルーン武器所持者だと言っても逃げようとしないとは
真ん中のまじめそうなのは緑川と石田がルーン武器所持者と名乗り、ルーン武器を見せたら、一目散にあわてて逃げ出したが両脇の二人が来たら少し落ち着いてきた。だが、それでも、両脇の二人に比べてまだ逃げ腰だ。
――面白い
緑川がそう思い、相手に問い返す。
「お前ら、名を名乗れよ」
「緑川! 何でわざわざ名前を聞くんだよ? 別にいいだろ。すぐどうせやられるんだから、聞く必要ないだろ!」
隣で、石田が緑川の発言を咎めた。
緑川は石田の言葉を無視した。石田はかなり好戦的だが、頭が固い馬鹿だ。相手にすると、頭が固くなってしまう。
そして、目の前の三人を見た。目の前の奴らも変な顔をしている。
緑川から見て一番左端のかなり馬鹿そうな男が口を開いた。
「『名を名乗れ』って、いつの時代の人間だよ!? ここ、戦国時代じゃねえぞ? 元の時代に帰れ!」
どうやら、かなり頭が悪いようだ。
溜め息をついて、少し呆れ気味になると頭の悪い男がさらに言葉を続けた。
「――まあ、名乗りぐらい別にいいけどな。俺の名は西崎龍太だ」
西崎とか言う男が一歩前に出た。そして、右端の男も前に一歩出た。
「ったく、何で一々あいつらに付き合って名乗りなんかするんだが……。まあいい、俺も名乗るとするか、俺の名は月島空だ」
「………………」
そして、真ん中の男が前に出る…………と思ったが、その場に突っ立ったままだ。
緑川や石田としては別にどうでもいいことだが、協調性が無い奴なのか?
それを向こうも感じたのか、両端の二人が思い切り振り返った。
「おい! 今、俺と空でかっこよくきめたんだからお前も名乗れよ! ノリが悪い!!」
「そうだぞ! 敵も黙ったままじゃないか!! ある意味、精神攻撃としてはありだ!!」
どうやら、両端の二人も相当の馬鹿のようだが、真ん中の男はどういうことだ? 二人に比べてやる気があまり感じられない。
――びびっているのか?
二人が現れる前、緑川や石田の力を見ているから腰が引けてびびっているのかもしれない。両端の二人ももしかしたら、ルーン武器の力を見たら、びびってしまうのだろうか?
すると、両端を交互に見て真ん中の男が口を開いた。
「お前ら、何戦う気でいるんだよ!? 逃げるに決まってるだろ!! こんなやばい奴ら、わざわざ俺達が相手する事ねえだろ!!」
普通の人間なら正常な判断だ。かっこつけて命がなくなる様じゃ何の意味も無い。
だが、ここにいるのは異常な人間ばかりだ。緑川と石田も含めて。
「俺らが今こいつらと戦わなくて誰が戦うんだ? 俺達がここで逃げ出したらもっと被害が拡大する。我先にと逃げ出していくような大人共はあてにならない。今、ここにいる俺達がやるしかないんだ。分かるか? 俺達が英雄になれるんだぞ?」
月島という男が真ん中の男に対して説得するように説明した。
隣の西崎も何度も頷いている。
月島は今度はこっちに向きなおした。
「お前ら、二人!! 緑川と石田といったか。お前らは何でこんな事をしているんだ? 世の中に失望しているとかありがちなくっさい理由じゃないだろうな?」
緑川が答える前に、西崎が先に月島に対して口を開いた。
「お前、なんでそんなノリノリなんだ? ここに来る前は全然やる気無かったくせに」
「いや、なんかお前について来て、さっきの兄ちゃん見たらやる気出てきて、そしたらテンションあがってきた」
兄ちゃんというのは、おそらく緑川と石田で軽く痛めつけた奴の誰かだろう。
それより、この二人はなんか今の状況を何か勘違いしている気がする。
――こいつら、これをロールプレイングゲームか何かと勘違いしているんじゃないか? 現実はゲームほど甘くはないし残酷だぞ
だからといって、負けてやる道理も無いのだが。
「で? 俺たちがこんなことしてる理由だっけか? そんなのは簡単だ。このルーン武器の力を試してみたかったからだ」
その答えに、相手は首を傾げる。
「ん? お前らは最近そのルーン武器を手にいれたのか?」
緑川は頷いた。
「ああ、ルーン武器は最近手に入れた。手に入れたといっても、そこら辺に落ちてたのを拾ったわけじゃないんだがな。びっくりしたぜ? まさか、親父がルーン武器所持者だったなんてな」
緑川の発言に相手の三人は全員目を見開いて驚いていた。
「親父がルーン武器所持者だったって!? じゃあ、何だ? お前達は、親父からそのルーン武器を借りてきたのか?」
「正確には借りたんじゃなくて、親父から俺らに所有権が移ったらしいがな。それで、数日前に親父からルーン武器を手渡された」
さらに、相手は驚きの表情を見せる。
「所有権なんてものがあるのか? じゃあ、どこかでルーン武器所持者の情報を管理している奴らがいるのか?」
脇から、月島が言葉を作る。
「普通に考えたら、警察かもしくは城の連中だろう」
その答えに緑川も頷く。
そして、月島がさらに言葉を続ける。
「だが、そうすると、これだけの騒ぎだ。お前達の身元も全て割られているんじゃないのか? こいつらがどんなにすごい武器を持っていても数には勝てないだろう。だから、捕まるのも時間の問題だ」
そこで、一息入れて続ける。
「改めて聞く。何故こんなことをする? こんな事をしてお前達に何の得があるんだ?」
そこで、今までずっと黙ったままだった石田が口を開いた。
「先の事なんて何も考えてねえよ。今を楽しめればそれでいい。それに今はこの力があるんだ。いける所までいってやるよ」
「そんな事をして!! お前達の親は納得すると思っているのか!?」
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軽く笑む石田に対して空が声を荒げた。
「まあ、親父からはあまり馬鹿なことをするなとは言われているけどな。だが、俺はこの力を使ってみたい衝動の方がでかかった。俺は、この力に魅せられたんだ。緑川もな」
石田がチラリと緑川を見る。
石田の発言を聞き、空は言葉にし難い、納得のいかない気分になった。
――こいつらは何故、ここまで力に拘る? なぜそうまでして自分の欲求を満たす?
いくら空ほどの馬鹿でも目の前の奴らほど大馬鹿でもない。こんなことをし続けてもいつかは自滅するか滅ぼされるだけだ。こんな事に何の意味も無い。
何故こんなことをするのか? 今を楽しみたいだけに暴れまわって何が得られる? 何が見えるというのか。
いつかは、他のルーン武器所持者にも会うだろう。その時、緑川と石田は果たして勝てるのか? 生き残れるのか? 勝てたとしても自分の身も壊すことになるだろう。
――それなら、いつか壊れるというのなら…………
「俺達が今ここでお前達を倒す!!」
空が気合を入れたところで、また隣から気の抜けた声がする。
「『倒す』って、だから何言ってんだよ!? お前は!? 頭おかしくなったのか!?」
「俺の頭がおかしいのは昔からだろ? ……それに、自分の生まれ育った町が襲われていて黙っていられるほど、お人好しでもない!!」
「自分の命とどっちが大事なんだ!?」
「自分の町だな。だが、お前は戦いたくないのなら戦わなくていい。ちょうど向こうも二人だ。お前がいなくても二対二だ。問題無い」
そう言って、空は二歩前へ進み出た。
それを見て、龍太も二歩前へ進み出て、空の隣に立った。
樹だけが後ろに残った。
「…………か、勝手にしろよ…………」
樹は、二歩後ろに下がった。
「さあ、始めようか」
空は相手を見る。
相手はこちらの瞳をしっかりと捕らえる。
「いつでもいいぜ? だが、お前ら素手だな? それでも、俺達は容赦なく攻撃するぞ?」
緑川が俺達に脅しをかけてきた。しかし、今更びびるはずも無い。
「いらねえ気使うなよ? 俺達は最初から覚悟して来てんだ!」
言って、緑川がそっと笑った。
同時に、脇の少し大きめの洋服籠を手元に力強く引き寄せた。
そして、それを足の裏で緑川と石田に向かって蹴った。洋服籠は、勢いよく滑り出した。
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「ふっ、くだらねえ真似を」
緑川は、こちらに向かってきた洋服籠を軽く右に飛んで回避した。どうやら、石田も簡単に避けたようだ。当然だが。
目の前を見ると、月島がこちらに向かって突撃するかのように走り出してきた。
緑川は『TH』を前に軽く突き出した。
「――拘束しろ」
緑川がそっと唱えると、月島の体が急に停止した。
緑川のルーン武器『TH』が月島の体を認識し、捉え、縛った。
月島は、急な停止に頭だけが前に振り出され、すぐさま戻す。そして、気を付けの姿勢でロープに縛られたかのように立ち止まっている。
月島を捕らえたまま、月島に近づき杖の頭、刃の部分ではない方で腹を殴り飛ばした。
月島が2メートルほど飛ばされて床に倒れこんだ。
「…………ぐっ」
月島は腹を押さえ込んでいる。
ふと、石田のほうを見ると、向こうでも石田が西崎の背後に高速で回りこんで、杖で殴り飛ばしていた。
――問題は無いな
相手は最初に、障害物をこちらに投げ出してきたが、ほぼ素手なのだ。
普通に考えれば、大量破壊兵器とまで言われたルーン武器に、敵うわけは無い。小学生でも分かる事だ。
だが、それでも相手は向かってきたのだ。何か特別な格闘技術、もしくは、秘策があると踏んでいたのだが
――俺の考えすぎだったか?
現に襲い掛かってきた二人は無様に倒れこんでいる。
油断は出来ないが、あまり良い策を持っているとも思えない。
このまま、普通に戦えば俺達の勝ちだ。
「どうした? この程度か?」
緑川と石田は相手を見下すように笑った。
どうでしたでしょうか?
感想いろいろあると思います。
「大量破壊兵器(笑)」
「樹、臆病すぎ」
などなどあると思います。
特に前者はちょっと、マジですいません。
作者の創造力不足です。