第十二話 カムイ
第十二話どうぞ
「『その犯罪集団ってどんな奴らなんですか?』」
樹が紙に文字を書いて時雨さんに見せる。
「『実はあまり良くわかっていない。城に報告が来たのもつい最近でな? こちらも、公務であまり手を割けなかったんだ。摂津は新幹線で三時間とはいえ公務もこなさないといけないと考えると遠いしな』」
「『なんとも、不気味なことにそいつらは、摂津の至る所で被害報告があるが、尻尾が全く掴めない。少なくとも、その変態集団の本部は極東の連中じゃない。イングランドではない筈だし、おそらくは”天竺”か”ルーシ・カガン”だろうが……まあ、摂津で暴れてる奴らを捕まえて拷問して吐かせればいいか』」
「『仮にも、国の機関がそんな一見非人道的なことして大丈夫なんですか?』」
樹が時雨さんに恐る恐る聞くが、時雨さんは、何言ってんだ? くらいの呆れた表情を樹に見せた。
「『極東の平和の為ならどんな手段も辞さない。人道的だの非人道的だのは偽善だ。悪者に人権など無い』」
「『よくそんなんで衛士団に入れましたね……性格ぶっ飛んでません?』」
「『何言ってんだ。この国を守る力がある。それだけで十分だろう』」
空が割り込む。
「『殆どダークヒーロー的思想ですね』」
「『別に構わん。それより、浅川優希の方だが、交渉には私は参加しない。それは王様の話から知っているな? だが、そこまで苦労はしないだろうが、気を抜くな。慎重に相手の機嫌をなるべく損なわず、かつ、こちらは最大限遠慮はしないで交渉をしろ。まあ、すぐに回収できるとは思っていない。そうだな……、世界滅亡は今年の年末、つまり十二月三十一日。平均すると、まあ、約六日で回収しなければいけない。浅川優希の住んでる場所を見つける時間も含めると、まあ、運が悪けりゃ、三日から四日、最悪一日しか交渉期間が無い場合もありえる。死ぬ気でやれよ』」
そこまで、ずらずら書いて見せた後に、空がびっくりして慌てた様子で質問した。
「『住んでる場所教えてくれないんですか? 城なら、国民全員分把握しているでしょ? ましてや、ルーン武器所持者なら尚更』」
「『教えてやるのは簡単だ。だが、これからお前達は浅川優希からルーン武器を回収した後に、今度は外国のルーン武器回収に向かうんだぞ? 外国は私達も完全に分からなくなる。今のうちに人探しの練習をしておけ』」
「『世界が滅ぶかもしれないってのに随分のん気な……』」
「『それが、国王の意思だからな』」
「『さて、たいした話はびっくりするほど全くしてないけどまあとりあえずいいだろう。これで終了だ』」
そう言って、時雨さんは紙を自分の荷物にしまい込んだ。そして、樹達の紙もついでに回収した。
「まあ、摂津に着くまで二時間半もある。今ぐらいは存分に遊んでおけ」
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「お主はこれで良かったのか?」
「なんの事ですか?」
「何を言っておる。あのボウズじゃよ」
「送り出したのはあなたでしょう」
「止めることはできた筈じゃ」
「止めたとしたら私達は役目放棄をしたのと同じですよ」
「そうかの」
「でも、あいつには悪い事をした。そう思ってますよ」
「そう思っているのならいいのじゃよ」
●
新幹線に乗ってから一時間、後ろの向かい合わせの四人席は地獄と化していた。
一時間前、たいして重要じゃない話が済んで、存分に遊ぶように言われていたのだが、到底、今は一般的に言う”遊ぶ”という行為は満足に出来ていないのが現状だ。なにしろ、途中から大人気無く参加してきて場を荒らして無双した挙句、罰ゲームまで決行し始めていた。曰く『ただやるんじゃ面白くない。毎日の稽古と一緒だ。やるなら、罰ゲーム込みじゃないとな』という事らしい。全く恐ろしい限りである。衛士団の方々、南無。
「次は龍太の番だぞ?」
「くっ…………」
恐る恐る、カードを引き抜く龍太。
手が振るえ、汗を流し、そっと自分の手札に加える。
そこにあったのは……
「よし、私の勝ちだ。よって、龍太が罰ゲームだ」
龍太の罰ゲームが確定した。
今、樹、空、龍太、時雨さんの四人はトランプのババ抜きをしていた。最後まで残っていた、龍太と時雨さんがジョーカーを取るか取らないかで命がけの死闘が繰り広げられていたが、生憎、龍太が負けてしまった。実に嬉しそうに時雨さんは罰ゲーム執行の為の道具を手に取った。鉛筆だ。
「よし、樹、空、押さえろ」
樹とそらが両脇から腕をがっちりホールドする。そこを時雨さんが鉛筆の両端をしっかり握り、龍太のでこに近づける。そして、片方の手を放し、てこの要領で勢いよく振りかぶる。でこに鉛筆が直撃した。これで通算四回目になる。龍太のおでこは完全に真っ赤に染まって見るからに痛そうである。ちなみに、空は三回、樹は六回、あろうことか時雨さんは零回だった。完全に時雨さんの主導権のままゲームが進んでいった。
四人で地獄のトランプゲームで盛り上がっていると一人の男がこちらに近づいて来た。見た目は樹達より少しだけ年上に見えた。二十歳か二十一歳くらいだろうか。背中には、樹達と似たようなでかい布に包まれたものを背負っている。
「君達…………随分盛り上がってるね。この車両に乗ってる人が結構君達を見てるよ? 何をしているの?」
突然に男から話しかけられ、樹達の反応が若干遅れると、時雨さんが返事をした。
「ああ、それはすまなかった。いやはや、随分盛り上がってしまって周りに迷惑をかけてしまったようだね。こいつら、何やらしても弱くてな、今もトランプに興じていたら私の無双でな。なんとも弱い。まあとにかく、すまなかった。少し落ち着くとしよう」
時雨さんが笑顔で返事すると、男もニコッと笑顔で返した。
「まあ、別に構わないよ。僕はあまり気にしていないし、今話しかけたのも、君達に若干興味があったからなんだ」
「ほお? どうしてだ?」
興味深そうに時雨さんが返事をする。
男が笑顔のまま、樹達の後ろ、ルーン武器の方を指差して答えた。何か、不気味さすらも感じる。
「そうですねえ、例えば、あなた方の後ろ、その布で包まれたものとかすごく興味がありますね。僕は今、大学生をしていますが、長期休暇中は趣味で世界中を旅しているのでそういう珍しそうなものはすごく興味があります。よければ見せてもらってもいいですか?」
樹達に緊張が走る。
今ここで、ルーン武器を見せるわけにはいかない。三人して、時雨さんの方を見る。体から汗が流れる。
だが、樹達とは正反対に、時雨さんは至って冷静だった。
「悪いが、これはとても大事なものでな? これから、摂津に住む友人の家にこれを届けに行く所なんだ。そんな珍しいものではないが、割りと傷付きやすいもので、外では布を外したくは無い。だから、今回は諦めてくれ。それと、君、名前は?」
「あ、失礼しました、まだ自己紹介がまだでしたね。僕の名前は神無威、氷室神無威。まあ、神無威って呼んでください」
「神無威、私の名は霧島時雨だ。この馬鹿共は右から順に大神樹、月島空、西崎龍太だ。まあ、これに乗っているって事は君も目的地は摂津なんだろう? まあ、縁があればまた会うだろう」
神無威は諦めたように一歩下がった。
「そうですね。では、またの機会を。それは諦めます。いずれ見せてください」
そう言って、その場を離れた。
神無威が居なくなったのを確認してから時雨さんが無言でさっきの紙を取り出し、なるべく、神無威に見えないよう特に意識して樹達にメッセージを送った。
「『名前からいって、蝦夷出身だろうからルーン武器所持者ではないだろうが、気を付けろ。あいつは怪しい』」
時雨さんから、空が紙を渡してもらい返事を書く。
「『どういうことですか?』」
「『証拠は何もない。だが、今までの衛士団としての人生経験上からくる勘だ。あくまで、そんな気がする、という程度だ。だから今はまだ必要以上に警戒する必要はない。だが、最低限警戒してくれ。偶然でも、ルーン武器に興味を持ったんだ。何か得体の知れない何かがあるかもしらん』」
今度は樹が紙を見せた。
「『なんとなく、不気味さはありました』」
「『まあ、今は関係のない人間だ。心の隅に留めておいてくれ。それに、確かに少し騒ぎすぎたようだ。摂津に着くまで各自静かにしていよう』」
紙をしまい、各自で時間潰しをすることになった。
樹は特にやる事がなかったので寝る事にした。
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どうして…………?
なんでなの…………?
こんな世界は…………
こんな未来は…………
私はどうすれば……
私はどうしたら……
救われるの…………?
教えてよ…………!!
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「……きろ…………起きろ!」
龍太に肩を揺すられ、樹が目を覚ました。どうやら、かなり長い時間ぐっすり寝ていたようだ。
欠伸をして、腕を上に伸ばし、目を擦る。
「やっと起きたか…………、もう摂津に着いたぞ」
「ふわああぁぁ、もうそんな時間か」
「お前、全く起きる気配もなくぐっすり寝てたぞ」
「ああ…………」
荷物を持ち、新幹線の出口へ向かう。
他の三人はもう出口の方へ向かっていた。
――あの夢は…………
新幹線を出ると、時雨さんが樹達三人に向かって激励を言った。
「さて、摂津に着いたわけだが、まあ、とにかく頑張ってくれ」
「おー!」
気合を入れる空と龍太、樹も一応合わせておく。
――今は考えないでおこう
樹達のルーン武器探しの旅が今始まった。
やべえ、新キャラ出すのはいいけど、女成分が足りなさすぎる……
浅川さん早く登場してくれ…………




