第十一話 加速する紙芝居
では、第十一話です。
どうぞ。
「えーーーーーー!!」
樹たちに衝撃が走った。
「何をそんなに驚いているんだ?」
時雨さんは何事も無いような平然とした表情で聞いてきた。
「いや、だって何で時雨さんが付いてくるんですか? 衛士団長じゃないですか!?」
「衛士団長が護衛に付くんだぞ? 心強いだろう?」
時雨さんは今度はニコニコ顔になり、すごい自信満々な表情だ。
「そうじゃなくて!! この国の……いや、この町は誰が守るんですか!?」
時雨さんは『はあ……』と溜め息を付いて呆れた表情で返事をした。
「お前らなあ…………私達は一応、入るのも難しいと言われている衛士団だぞ? あまり舐めるな。私一人居なくなったところで大した問題じゃない。総戦力の十分の一も減らないって。だから問題ない。というか、私一人居なくなったくらいでこの国ぐらい守れないようだったら、帰ってから全員死刑だ。超死刑。つまり、全員地獄行きということだ」
その言葉に近くで待機していた何人かの衛士団のメンバーが背中を振るわせた。樹達も想像しただけで恐怖に身を振るわせた。
一頻り震えた後に、そっと樹が答えた。
「まあ、大丈夫ならいいです…………」
結局、樹、空、龍太、時雨さんの四人で行動することになった。
そこで、布に包まれた一メートル程の何かでかい物が運ばれてきた。
「やっと来たか」
時雨さんがでかい布を見て嘆息したように呟いた。
「なんですか? あれ」
「分からないか? ルーン武器だ。見たら分かるだろう」
樹達は一斉に肩を落としてうなだれた。
「正直、ルーン武器を持ち歩くという現実から目を逸らしたかった」
樹たちが三人揃ってうなだれた。
そんな様子を見て、また時雨さんは溜め息を付く。
「はあ……ルーン武器は悪い奴が使えば性質の悪い最悪な兵器だが、使い方を間違えなければ、最高の武器なんだ」
「そりゃあ、そうかもしれないですけど……」
この言葉に、時雨さんはさらに言葉を付け加える。
「それにな? これからルーン武器所持者とルーン武器の譲渡について交渉していくことになると思うが、『譲ってくれ』と言って素直に譲ってくれる人ばかりと思わない方がいい。むしろ、素直に渡さない人の方が多いだろう。なんせ、絶大な力を持った武器だからな。その時に、そのルーン武器所持者が緑川や石田みたいな極端に好戦的な奴だったら戦闘になることもあるだろう。そうしたら、対抗する力が必要だ。そのためにもルーン武器は持っておく必要がある」
時雨さんが説教の如く、長々と説明をし始めた。
樹たちはただ黙って聞く以外に無かった。
「確かに……時雨さんの言うとおりです…………」
樹達三人のその言葉を聞いて、時雨さんは納得したようににっこり笑ってうなずいた。
「うんうん。物分かりが良くて、私は嬉しいよ。それで? 誰がどの武器を使うんだ?」
樹たちは顔を見合わせた。
まず始めに、空が手を伸ばした。
「俺は『TH』を使う」
その次に龍太が残りのルーン武器の一つを手に取った。
「じゃあ、俺は『Z』だな」
最後に樹の番になったが樹はルーン武器を取らなかった。
「俺はいいよ。親父からもらったこのハンマーがあるから。『ing』に関しては、時雨さんが持っててください」
「樹、私の話をちゃんと聞いてたか? そんなただのハンマーでルーン武器所持者相手に何が出来るというんだ?」
時雨さんのその言葉に樹が反応した。父親を馬鹿にされたように感じたからだ。
「そんなとか言わないでください! 父がくれた大切なものなんです…………だから、そんな風に言わないでください」
「分かった。言葉には気を付けよう。だが! 私の言ってる事は間違ってはいない。樹はルーン武器所持者相手にどう戦うつもりなんだ?」
「命の危険があったら守ってくれるんでしょう?」
「命知らずな奴まで助ける義理は無い」
「元々、この旅自体がそうでしょう?」
「全くああ言えばこう言うな」
時雨さんは溜め息を付くばかりだ。
「とにかく、俺はこれ使います。そんな危なっかしい武器使って勢い余って殺すかもしれないなら、殺傷能力無いこっちの武器で思いっきりフルスイングした方がいいですよ」
「分かった分かった。勝手にしろ」
樹はガッツポーズをした。
●
駅のホーム、樹達に時雨さんを入れた四人は摂津行きの新幹線を待っていた。
四人共、動きやすい私服を着ていた。時雨さんも一般人と全く変わらない格好で完全に溶け込んでいた。
「摂津かあ。どんくらい時間かかるんですか?」
空がこんな質問をした。
その問いに時雨さんが答えた。
「まあ、大体三時間くらいだ。意外と近いだろう?」
「げっ! 三時間も!? 一時間くらいでぱっと着かないのかよ!?」
「空、お前舐めてんのか? お前達は十九の大学生だろう? 三時間くらい待てないでどうする?」
空が肩をがっくり落とす。
それを見ていた樹と龍太が溜め息を付く。
「三時間ぐらいどうにでもなるだろう? テキトーに駄弁ってればいいだけだしな」
「何を話すんだよ? 三時間も」
すると、時雨さんが横からいつものニコニコ顔で入ってきた。
「それに関しては新幹線に乗ってから、これからの方針とか話すつもりだから少しは時間が潰れるだろう」
樹たちが一斉に血の気が引いた。
それを見た時雨さんはさらに追い討ちを掛ける。ニコニコ顔のままで。
「おいおい、何だその吐きそうな面は? 朝変なものでも食べたんなら、私が吐き出すの手伝ってやろうか? すぐに楽になれるぞ?」
「いや、たった今気分が良くなりました」
「うん、いいだろう」
樹たちが安堵の溜め息を付いた。
あと少しで、地獄を見るところだった。相手は、女とはいえ、あの衛士団長なのだから。
そこで、ホームに目的の新幹線の到着を告げるアナウンスと同時に新幹線がホームに停止した。
「乗るぞ、お前達。あと、背中のは気を付けて入れよ? 間違っても布剥がすなよ? 傷付くんだからな。…………お前らの経歴が」
最後だけ、自分達にしか聞こえない程の小さな声で呟いてきた。
今、龍太と空、時雨さんは背中にルーン武器を布でグルグル巻きにして背負っている。樹も、同じ様にハンマーをグルグル巻きにしている。
グルグル巻きにしてあれば中がルーン武器だと気付かれる事はまず無いだろうという事だが、明らかに布グルグル巻きのそこそこにでかい荷物を背負っていたら怪しさ満点なのだが、ルーン武器とばれなきゃそれでいいと時雨さんは言っていた。特に誰かに迷惑がかかっていない以上、誰も何も言ってこないだろうし、通報されるようなことも無いとか。…………通報されても、工作員がこちらにいるわけだから何の問題も無いが。
「全力で気をつけます……」
時雨さんの後を樹、空、龍太がぞろぞろ新幹線に乗っていった。
中に入った後、最後尾の席が向かい合った四人席にそれぞれ座った。
一番奥の端に時雨さん、その隣に樹、向かい側の席に空、龍太の順に座った。
しばらくして、新幹線が発車した。
「さて、確認だが…………」
そう言って、ポケットからB6くらいの大きさの紙を取り出し何やら書き始めた。何か、書き連ねているが、覗き込むと喋った方が早いような内容ばかりだった。
疑問に思って樹、空、龍太が目で合図して犠牲者を決めた。隣に座っていた樹が代表として質問した。
「何でわざわざ、紙に書いてるんですか?」
質問した瞬間に仕切り無く動かしていた時雨さんの手が止まり、別の同じ大きさの紙を取り出し、高速でペンを走らせた。
ペンの動きが止まり、樹達三人見せた。
「『はっ? 超重要機密事項を大声で話すつもりか? これ国王の密旨だぞ? ああ、密旨ってのは秘密の命令の事な』」
紙を見せた後、樹達に紙を渡した。
樹達が出来る限り早く言いたい事を紙に書いていった。さすがに、時雨さんほど高速では書けないが。
「『別に誰も俺達の会話なんて聴いていないと思いますけど……この車両あまり人居ませんし……』」
「『それで、万が一にでも人に聞かれたら? トリック無しの体切断マジックでもやってやろうか? 楽しいぞ』」
「『いえ……、どうぞ元の話を続けてください』」
「『いやあ、物分りが良くて助かるよ。うちの衛士団の馬鹿共とは大違いだなあ、はっはっ。……さて、話だったな』」
「『はやくしてください』」
空が紙を時雨さんに向けた。
ドカッっと強い音とともに空がうずくまってしまった。
それを、空以外は全員無視して時雨さんに注目した。
「『分かってるはずだが、お前達にはこれから、世界中のルーン武器の回収をしてもらう。とりあえず、今は三個ルーン武器を持ってるから後は、二十一個だな。そして、今から『W』のルーン武器を回収しに行く』」
「『そして、『W』のルーン武器を回収することが出来たら、今度は他国へと向かい、ルーン武器回収に向かう事になる。他国との交渉はかなり厳しい事になるだろうなあ。なにせ、他国の一つにはイングランドがあるわけだからな』」
そこまで聞いて、龍太が何か書き始めた。
「『精霊』ですね?」
龍太が見せた紙を見て、時雨さんは満足いったように頷いた。
「その通り。今現在、イングランドは人間禁制の国だ。人間は絶対に入国できない。理由は分かるな?」
龍太がそのまま、ペンを走らせる。
「『精霊戦争ですね?』」
「『その通り。精霊戦争がきっかけでイングランドに住んでいた精霊は人間達を入国禁止に。イングランド国内の人間を強制出国させた。精霊戦争自体が四千年も前の話だが、未だに人間の立ち入りを硬く禁じている辺り、恨みはそれまでの精霊狩りもあってかまだまだ根強いからな』」
「『こっそり侵入しちゃえばいいんじゃないですか? 人間と精霊って見た目あまり変わらないって聞きますけど』」
いつの間にか空が起き上がっており、自分の紙を時雨さんに見せた。
「『もしばれたらどうするんだ? というより、ばれる。なぜなら、見た目が変わらないのはあくまで体格までだ。精霊には特徴的な横に伸びた長い耳がある。そんな物は子供が見たって区別が付く』」
「『ばれたら、ルーン武器で脅してみるとか』」
「『お前後で死刑な? お前少しは歴史を勉強したらどうだ? 精霊戦争では、圧倒的な力で人間と戦ってたんだよ。それを、精霊はイングランド国外に殆ど出られないから、人間側の地の利でなんとか勝てただけなんだ。実際はルーン武器があっても勝てるかどうか怪しいレベルだ。一対一なら勝てるだろうが三人集まったらもうこちらは勝てない。つまり、力で捻じ伏せることはほぼ不可能だ』」
「『そんなの最初から詰んでないですか?』」
今度は龍太が紙を見せる。そろそろ、紙が少なくなってきた。
「『それでも、何もしないで世界が滅ぶのを待つ方がいいか?』」
「『そうですね。何も出来ないかもしれないですけど何かしないと駄目ですよね……』」
「『そういうことだ』」
さらに時雨さんが続ける。
「『そろそろ話を戻すぞ?』」
「『やだ』」
時雨さんが一旦、紙に言葉を書くのをやめ、車掌さんを呼ぶ。
「すいませーん。粗大ごみを一体回収お願いしたいんですけど、商品名は”西崎龍太”ですので」
樹と空は必死で知らん振り。車掌さんが不審な顔で近づいてきた。
「あの、お客様…………」
だが、時雨さんは車掌を追い返す。
「すいません。やっぱり自分で片付けますのでいいです」
「はあ…………そうですか……」
車掌さんはますます不審そうな顔で去っていった。
「『さて、嫌がらせも済んだし本題に戻る。さて、イングランドの事はまた追々考えるとして……まず、今のことだな』」
時雨さんがそこまで書いて紙を見せると、すぐに空が紙に何か書いて見せてきた。
「『すいません。紙切れました』」
「『それ、紙に書く必要あるのか?』」
そう言って、時雨さんは追加で紙を渡した。この大量の紙はどこから出てくるのか。
空は時雨さんに声に出して『ありがとうございます』とお礼を言って紙を受け取った。
「『いい加減、本題に入る。国王から説明があったと思うが、私達がこれから回収に向かうのは摂津に住む浅川優希という女が持つルーン武器だ。ルーン武器の種類はW、極大な治癒能力を持つルーン武器だ』」
「『家は代々、武器屋の家系で、そこそこ経営は順調。そんなに悪い噂も無い。交渉はそんなに難しくはないと思う……が、あそこは、っていうより、摂津には別の問題がある』」
「『何ですか?』」
「『今、あの地域には正体不明のめんどくさい糞集団がいてな…………ここ、一ヶ月の間に強盗被害やら、誘拐事件やら、傷害事件やらが多発している』」
時雨さんは、一つ溜め息を付いて、新しい紙に一言書き連ねた。
「『本当に厄介事を増やしやがって……人の管轄下で勝ってしやがって、めんどくさい奴らめ……この機会に全員牢屋にぶち込んで一生重労働させた上で、私の靴を這い蹲って舐めさせてやる……』」
時雨さんは怖いくらいに薄ら笑いを浮かべていた。
樹達は恐怖でその場で震え上がった。
というわけで、第十一話でした。
ちなみに、地名は実在するものからとっていますが名前だけ使っているだけで地名自体には全く意味は無いです。




