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04. 猫耳メイドがおりました

1話目大幅改訂+4話目小改訂しましたので、良かったら1話からご覧くださいm(_ _)m

 ゆらゆらと体を揺さぶられる振動で、芽依めいの意識は闇の中からゆっくりと浮上した。

 目蓋は非常に重くて中々開けられなかったが、先に感覚の復活した耳は、傍らにいる人物の声を拾うことができた。


「お嬢様、大丈夫ですかっ!? しっかりなさって下さい!! ああもぅっ、あんの魔法オタクなバカ王子はぁ~~~っ!! こんな幼気いたいけな少女に何やらかしちゃってんですかっ!? 魔法だけじゃなくて女性の守備範囲までバカになりやがりましたかっ!?」


 はきはきした少し高めの女性の言葉から、2つの事が分かった。

 1つは、この世界の統一言語をきちんと標準語として認識できるようになっていると言う事。

 どうやらアールに従って使った魔法は、きちんと機能しているらしい。

 そしてもう1つは、罵倒や気安い物言いながらも基本的に丁寧語を使っている事から、彼女が第3王子直属の者らしいと言う事だ。ついでに、日頃上司をどんな目で見ているかまで何となく伝わってきた。

 きっと真面目で、何か事件があるとフォローに奔走する苦労性の女性なんだろうなぁ~、とまだ見てもいない相手のキャラ設定が、芽依の中で組み上がる。

 とりあえず、勝手に苦労性認定した女性の心配事を1つ減らしてあげようと思った芽依は、少しだけ目蓋に意識を集中させて、瞬きしながらゆっくりと目を開いた。

 その視界にまず入ってきたのは、瑠璃色の髪……と同色の”猫耳”だった。


「……随分と凝った猫耳カチューシャですね~」

「ああ、良かった、気が付かれて! って、目覚めて第一声がソレですかっ?」


 芽依のお寝惚け発言に、猫耳女性は安堵と同時にツッコミを入れた。

 けれども、その声に刺はなく、彼女のオレンジ色の瞳と同じ様にどこか懐かしくて温かな感じがした。


 ――この人は、大丈夫そう。


 自分に危害を加える人物ではない、と直感した芽依は、机に突っ伏した状態から体を起こすと、いつの間にか強張っていた表情を緩めて口を開いた。


「あ……えっと、ご心配をお掛けしました。私は大丈夫です。素敵な髪色とお耳だったので、ついそちらに気がいってしまいました」

「!! あ、ありがとうございますっ。でも耳は、カチューシャではなく”自前”なのです」


 揶揄も臆面もない素直な芽依の言葉に、猫耳女性は大照れしながら、落ち着かない手つきで右猫耳を撫で付けた。よく見れば、左猫耳も時折ピクピクと動いている。驚く程自然な動きだ。

 ふと、日記帳に書かれていた一文が、芽依の脳裏に蘇った。


「”自前”と言う事は、もしかして本物の……?」

「ええ、本物の耳です。お嬢様は匂いからお察しいたしますに、この国の方ではございませんね? ”猫人族ねこびとぞく”をご覧になるのは初めてでいらっしゃいますか?」


 はいキタ猫人族ー!!

 メイドっぽい可愛らしい格好をした猫人族の女性――アールの日記帳に綴られていた妄想が現実になったようだ。

 次にラジエルの書を起動した時、すんごく生暖かい目でアールにお祝いの言葉を述べてあげよう、と芽依は心の中で誓った。


「えっと、はい。初めて見ました」


 何しろ召喚前までいたのは、こことは違う世界だ。


「やはりそうでしたか。世界的に見て、猫人族がこうして人間と一緒に社会を作っている国はそう多くありませんものね。大抵は、人間の立ち入れない場所に集落を作って、のんびり過ごしておりますし」


 先祖は猫だったそうですから、と猫耳女性は言った。

 素体は、やっぱり猫だったらしい。

 他にも猫人族の特徴を聞いてみると、寿命や免疫力、身長などは人間と大して変わらないものの、運動能力や五感は圧倒的に優れているらしい。しかし、魔法語を操ることはできないのだそうだ。

 ついでに、400年前のナノマシンによる異常現象は『大変災だいへんさい』と呼ばれており、そこから150年余りの時間をかけて全世界の猫の半数程が猫人族へと変身したらしい。

 地味に壮大な、猫耳メイドの量産法だった。

 心の中で芽依がちょっぴり呆れていると、ハッと気付いた様に猫耳女性が声を上げた。


「あ、申し訳ございません! このような殺風景なお部屋でお飲み物もお出しせずにお話ししてしまって! 隣りに魔法オ……コホン、フォルテ様の執務室がありますので、そちらへ参りましょう。温かいミルクティーなどいかがですか?」


 言いながら、猫耳女性は芽依の手をそっととって無理なく立ち上がらせると、そのまま扉に向かって歩き始めた。

 明らかに第3王子を魔法オタクと言おうとしていたが、ここは聞き流してあげるのが大人の対応だろう。

 だが、今の芽依は、その王子自ら指示を出されている身だった。


「ミルクティーは魅力的ですが、どうぞお構いなく。それに、こちらのお部屋で待っているよう、フォルテ様?より言われていますから」


 あんの魔法オタク、こんなに怜悧な幼い少女を実験室に閉じ込めて何してやがりましたか……! と、顔を背けた猫耳女性が般若の様な顔で呟いたが、芽依は聞こえないフリをした。とりあえず、ここが実験室と言う事だけ頭の中にメモっておく。

 彼女は、温かな笑顔を向けると、大丈夫です、と言って芽依を扉へと促した。


「何か言われましたら、わたくしが全身全霊をもって徹底的に抗議いたしますのでご安心ください。ささ、あちらのお部屋へ参りましょう!」

「え、でも……あ、ハイ、マイリマス」


 猫耳女性の笑顔に凄みが増したので、芽依は大人しく彼女に従う事にした。

 それに、彼女が言う通り、何となくフォルテは彼女に勝てない気がする。


「執務室の扉には、私が来る以前より立ち入り禁止の札が掛かっておりましたから、誰も入ってきませんので安心してお寛ぎください。あっ、申し遅れました。私はリアノ=センテと申します。どうぞリアノとお呼びくださいませ」

「ご、ご丁寧にありがとうございます。私は、倉数くらかず芽依と申します。メイで結構です」

「まぁ! 音の響きがどことなく魔法語に近いようですが、“魔法の祖国”に縁のあるご出身ですか?」


 縁どころか、そのど真ん中からやってきました、とは言えない。

 そんな時は、知らないフリをするのに限る。


「私自身は、良く分からないのです。あの、“魔法の祖国”とは、魔法が発祥した国の事ですか?」

「ええ。小さくても力のある島国だったそうですが、“大変災”後の地殻変動により、海底に没したと聞いております」


 自分達のいた時代ではないものの、日本列島がなくなってしまっていると言う事実は、芽依に多少なりともショックを与えていた。


 ――うわー、そんな題材の有名な本があったけど、その通りになっちゃったんだぁ~。


 驚くところはそこで良いのか。

猫耳メイドファンの皆様、ごめんなさいm(_ _)m

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