"苹果树"
『天使の育つ種』だと云う事だった
窓辺に置いた鉢には、透き通る白さの『人型』が生えて居る
確かに背にはつるつるした、翼に育つであろう器官が付いて居た
「そろそろ、鼠では満足しなくなってきたようだな───」
思いながら、摘んだマウスを鉢の上に捧げる
ナイフを突き刺すと赤黒い、酷い臭気の液躰が滴り始める
『天使』が、歓び始めるのが解った
天使に、もっと栄養を与える必要が有った
血の出なくなった鼠を、ナイフで食べ易く刻んで土に載せる
此れが翌朝には骨だけになり、数日もすると骨すらが消えて無くなる
繰り返して居るうちに、天使が育っていく
もっと育ててみたかった
そして、もっと早く、其れが視たかった
僕の左手は手首から先が干からびた断面になって居て、あとは無くなって居る
天使に与えた為だ
自分の血も、毎日与えて居る
育ちが早くなるからだ
いつの間にか天使は育ち
今では鉢植え程の大きさの、少年の上半身の様な形状になって居た
背中の翼も、羽根はまだ無いが大きくなった
少年は眼を閉じた姿勢で、躰を丸めて自分を抱き竦める様に腕を回して居る
『躰』の何処にも色は無く、『全身』が大理石の様に白い
毎日の様に、彼は僕の与えた血に濡れる筈なのだが、朝が来るまでには元の白い姿に戻って居るのだ
「お前は」
「なにが一番好きなんだ?」
窓辺で陽を浴びる天使に、問い掛ける
明くる朝、僕が夢から覚めると
窓辺に紅く
林檎の絵が、乱れた筆跡で描かれて居た
僕は其れを視て、頷く
「そうか」
「そうだった」
はっとして立ち上がる
何時も鼠や自分を切って居るナイフを、左胸に押し当てる
不意に『天使』が眼を開くと、歯を視せて嗤った
刃が皮膚に吸い込まれていく
相当な時間は掛かったが、最終的に僕は如何にか彼に心臓を喰わせる事が出来た




