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5話 騒がしい街の重鎮達

『ローザの隠れ家』に集う、ローザ、エミリ、ボウエン、リット、フィアナの五人はパーティ『ビザーマスク』の仲間達だ。

一応、俺がリーダー役を務めているが、実質はローザが仕切っている。

彼女が経営する宿屋に全員が住んでいるので、誰も頭が上がらないからだ。


俺の作戦を聞き終わったエミリ、ボウエン、リット、フィアナの四人は、宿を出て街中へと散っていった。

ローザはパンケーキを焼いて、ニーナと二人で楽しそうに食事をしている。


俺は奥の扉から地下の貯蔵庫に向かい、冷えたエール酒の小樽を持ち出し、ボックス席で楽しむことにした。

樽から杯に注ぎ、一気に飲み干す。


「うーん、美味い!」

「昼間からお酒を飲んでる姿をニーナちゃんに見せないで。教育に悪いでしょ」

「そうかもしれないが……酒は大人の特権だぞ」

「皆も働いてるんだから、酔うのは止めなさいよね」

「わかったよ。ほどほどにするって」


せっかく気持ちよく飲んでいるのに、ローザの一言で台無しじゃないか。

でも、よく考えてみると、子供の前で酔うのはアウトだな。

少し控えるとしよう。


視線を感じて振り向くとニーナが俺とローザを交互に見ている。


「ローザお姉ちゃんは、パパのお嫁さんなの?」

「ブハァ!?」


ニーナの強烈な一言で、俺は口から酒を噴き出した。

慌てて、ローザも弁解を始める。


「ニーナちゃん、私がサエマのお嫁さんになるなんて、世界が崩壊しても絶対にないからね」

「そこまで嫌うことないだろうが!」

「事実をキチンと伝えないと、ニーナちゃんが誤解するでしょ!」

「俺だって、お前みたいな暴力女は願い下げだからな」

「ふーん、あっそ……」


無表情になったローザが胸元に手を入れた瞬間、俺の横を通り過ぎたナイフが壁に突き刺さる。

俺の頬に一筋の傷ができ、血が滲んできた。


「頭にきたからって、本当に殺そうとするな!」

「軌道を逸らしてあげてるでしょ。感謝しなさい!」

「できるか!」


ローザと俺が言い争いしていると、その様子を凝視していたニーナがポツリと漏らす。


「やっぱり仲いいもん。でもローザお姉ちゃん、パパを取らないで」

「ニーナちゃん、それは誤解だからね。サエマはニーナちゃんのパパよ」

「うん、ニーナ、パパ大好き!」

俺が邸にいた時は、ニーナはまだ幼児だった。

タリアの街に住むようになって、三年振りに再会したのに、どうしてパパ呼びで懐かれているのかわからない。

今更、考えてみても無駄だな。


しばらくニーナの世話はローザに任せ、ソファにもたれて寛いでいると、エミリが厳ついスキンヘッドの冒険者を連れて戻ってきた。

その男は、ジロリと俺を見据える。


「エミリから事情は聞いたが、ギルマスの俺に足を運ばせるとは、サエマも出世したものだな」

「そんな堅苦しいこと言ってるから、毛が薄くなるんだぞ」

「俺は自分で剃ってるんだ!」

「ボイルさん、サエマのおっちゃんの言葉に乗っちゃダメだって」

「クッ、他の連中はまだなのか?」

「ああ、もう少し待っていてくれ」


エミリには商業ギルドへ行ってもらって、冒険者ギルド、タリア支部のギルマスを連れてきてもらったのだ。

ボウエン、リット、フィアナの三人にも、それぞれに伝令を頼んでいる。


それから少しして、 ボウエンと共に大柄な老ドワーフが宿に姿を現した。


老ドワーフの名は、ドンガル。

タリアの街に住むドワーフ達の多くは、鍛冶屋組織に所属しており、ドンガルはそのまとめ役だ。


「ご領主様が災難に巻き込まれたようじゃな。サエマに頼らずとも、ワシら、ドワーフ族に相談すればよかったんじゃ。 ジャルダン子爵の兵が街に乗り込んできたなら、我らで粉砕してやるわい」

「街の中で戦争してどうするんだよ。街には戦えない者達も多くいるんだぞ。興奮するのはわかるが、酒でも飲んで落ち着いてくれ」


俺の傍に立って憤るドンガルに、俺は酒杯を渡した。

ドンガルは一気に飲み干し、口元を太い腕で拭う。


すると玄関の扉が開いてフィアナと共に妙齢のエルフが室内に入ってきた。


「うるさいと思っていたら、野蛮なドワーフが騒いでいたのですか。緊急事態と聞いて来たのに、ドワーフの酒盛りに付き合う気はありませんわ」

「フンッ……エルフなどプライドが高いだけで、いざという時に役に立たん。力の劣る種族はすっこんでおれ」

「筋肉自慢しかできない種族は嫌ですわね。いつも私達エルフを妬んでいるんですから」

「サーシャ様、争っている場合ではありません。ドンガルさんも落ち着いてください」


一触即発の状況に、フィアナが割って入る。


まだ顏を合わせたばかりだぞ。

揉めるのが早すぎだ。


サーシャは街に住むエルフのまとめ役で、ドンガルとは馬が合わない。

テンプレではあるが、ドワーフとエルフは仲が悪いのだ。

種族による相性だから、こればっかりは仕方がないんだよな。


なんとか双方を宥めようと奮闘しているフィアナを呆然と見ていると、リットが大柄なご婦人を連れて部屋の中へ入ってきた。


「あれ? なんだか険悪なムードになってるけど?」

「また、あんた達かい! ここで争うなら、エルフにもドワーフにも食料を販売しないよ!」


ご婦人の怒鳴り声が響き渡り、ドンガルもサーシャも黙り姿勢を正す。

そして俺の隣に座っていたボイルまで立ち上がって冷や汗を浮かべた。


ご婦人の名は、ドーマさんと言い、タリアの街の商店のまとめ役だ。

彼女に逆らえば、街で店を構える商人達から物資を売ってもらうことができない。

つまりタリアの陰のボスは彼女だったりする。


するとドーマさんの大声に驚いたニーナが、泣きだした。


「皆、喧嘩しないで! お爺ちゃんとパパを助けてほしいの!」

「これ以上、私の宿で騒ぐなら、皆、今すぐに永遠の眠りに送ってあげるからね!」


ニーナの頭を撫でながら、片手を胸元に潜ませ、ローザが殺意の視線を周囲に向ける。

あれは本気だ! 絶対に逆らったらアカンやつだ!


素早くソファから体をずらし、俺はテーブルの下に隠れるのだった。

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