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3話 今後の事態に備えて

オルホース男爵の騒動に巻き込まれた俺は、男爵の邸に留まることになった。

男爵と今後の領地のことや、 ジャルダン子爵の行動について相談することが山ほどある。

それにニーナが「パパ」と言って離れてくれないのだ。

まさか、あんなに懐かれていたとは思ってもみなかった。


オルホース男爵には一人息子がいたが、十年以上前に流行り病で奥方と共に亡くなっている。

つまりニーナは男爵の本当の孫ではない。


数年前に男爵の私兵団が『オリジンの大森林』の調査に入った。

その時に森の奥で、意識不明の俺と、傍らにあった籠の中の赤子を発見した。

それがニーナだ。


邸に搬送された俺とニーナを見て、オルホース男爵は俺達が親子だと勘違いしていた。

もちろんニーナは俺の子供じゃない。

そもそも日本に銀髪なんていないからな。


目覚めた俺は必死に誤解が解き、オルホース男爵はニーナを養子にしたのだ。

今思えば、『オリジンの大森林』の奥に赤ちゃんがいたなんて、おかしな話だ。


昔のことを思い出し、ボーっとしていると、真向いのソファに座ったオルホース男爵が一つ咳をする。


「サエマは、私が王宮に行って、爵位をニーナに譲っても、領地の幾ばくかはジャルダン子爵に譲渡されると想定しているのだな」

「そうなるかもしれないって話だ。ジャルダン子爵の申し出はオルホース男爵家に領地管理の能力がないと言っているに等しいからな。それはオルホース男爵が隠居しても変わらない。逆に子供が跡継ぎになったことで、管理能力を疑われる公算のほうが強いかもしれない」

「それではニーナを領主にする意味がないではないか」

「それは違う。今までの領地管理の不十分さについて男爵は責任を示した。そのことで最悪でも爵位剥奪とはならない。つまりオルホース男爵家は残るってことさ」


俺の回答を聞いてオルホース男爵は厳しい表情を浮かべる。


男爵の信条としては、ジャルダン子爵に無理難題を押し通され、納得がいかないのはわかる。

それに王宮内の法廷論争で五分であったとしても、子爵が兵を派遣してくれば、それだけで詰みだからな。


「領地管理に難ありとして強引な手法だが、こちらで領地を統括することにした」と、王宮に報告されれば、碌な調査もされずに、ジャルダン子爵の思惑は通るだろう。


今はオルホース男爵家の存続に注力したほうがいい。


オルホース男爵は隣のソファに座っているニーナに視線を向け、大きく頷いた。


「わかった。サエマの指示通りに動こう。私は王都に向かえばいいんだな。王宮には事実を伝え、ニーナに跡目を譲ると報告しよう。それでサエマはどのように動くつもりだ?」

「ジャルダン子爵が狙っているのは、このタリアの街だと思う。男爵の領地で唯一の街だからな。だから俺は次に街にできそうな候補地を探そうと思う」

「タリアの街を放棄するというのか」

「そうじゃない。もしもの話だが、一時的に、子爵に街を預けるだけさ。そう思えば気も楽だろ」

「簡単に言うな。タリアの街は男爵家の象徴なのだぞ」


もし男爵が法廷論争で勝ち、何のお咎めもなかったとしても、第二の街があれば、領内の経済も潤うだろうし、領地が今まで以上に活気づく。


どんな場面で選択肢が多いほうがいいからな。


悔しそうに苦悶の表情を浮かべるオルホース男爵に、ニーナが元気よく声をかける。


「お爺様、ニーナが、もっと大きな街を作ってプレゼントしてあげる。タリアのことはパパに任せておけば大丈夫」

「ニーナ、ありがとう……サエマをパパと呼ぶのは止めなさい」

「パパはパパだもん」


可愛いニーナの言葉を聞き、男爵はジロリと目を細める。

言いたいことはわかるが、そんな「幼女を誑かした鬼畜」を見るような冷ややかな視線を俺に向けないでくれ。


日本にいた時と通算すると、四十近いおっさんだが。

いきなりパパになるつもりはない。


「ニーナは男爵家を継ぐことになる。冒険者がパパだと不味いんだ。わかるよな」

「うぅ……人前ではパパと呼ばないことにするもん」

「ニーナは偉いな」


年齢に比べてニーナは敏い女の子だ。

オルホース男爵家の現状も男爵から説明して、凡そのことは理解しているようだ。

これなら男爵がいない間も一人でお留守番ができるよな。


俺は素早くソファから立ち上がり、オルホース男爵に向けて片手を振った。


「じゃあ、俺は候補地を探しにいくぜ」

「あてはあるのか?」

「あぁ……タリアの街から南へ下っていくと、『オリジンの大森林』に囲まれている空白地に村がある。そこへ行ってみようと思ってね」


もしも、タリアがジャルダン子爵の手に渡るなら、街の稼ぎを減らしておくほうが得策だ。

大森林の間近の村に魔獣討伐の拠点ができれば、冒険者達が移動してくるはずだ。

いざという時、冒険者を雇えば戦力になるからな。


部屋の扉まで歩いていく途中で、後からニーナが足に抱き着いてきた。


「パパ、私も一緒に行きたい」

「これから危ない場所に行くんだ。ニーナは大人しく邸でお留守番してなさい」

「ヤダー! 絶対にパパと一緒に行くもん!」

「いうことを聞きなさい」

「イヤー!」


足にしがみつくニーナを両手で引き剥がしていると、扉の傍で警護していたジェイクがボソリと言葉を漏らす。


「幼児虐待」

「違うだろ! 俺は危険を考えてだな!」

「パパが娘を捨てるというのか! そんなことは断じて許さんぞ!」


背中からオルホース男爵の怒号が聞えてきた。

ニーナはあんたの孫だろうが。


ジェイク、俺に幼女趣味があるように言わないでくれ。

こういう場面では遊び心は要らないんだよ。

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