26話 次の一手
リグドの街での作戦を終え、拠点を撤収して、俺達はタリアの街へと戻った。
それから三日後、疲れが癒えた俺は、冒険者ギルドへと向かった。
扉を開けて広間にはいると、冒険者達が俺を見てニヤニヤと笑う。
「リグドの街で妙な噂が広まってるらしいぞ。街中に悪臭大魔人が出ただとさ。それで魔人を取り押さえようとした兵士達が次々に倒れて、今もトラウマにやられて寝込んでいるそうだぜ」
冒険者ギルドのいる冒険者には、俺達の作戦のことは一切話していない。
しかし、ギルマスが街の重鎮達が集まって、何がやっていることは薄々感づかれてはいる。
「へえー、そんな魔人がいるんだな。古の魔族かもしれないな」
「そういえば、『ヘルキャットの牙』の女子達が、サエマの屁は凄く臭いと言ってたぞ」
「当分、近寄りたくないってさ」
誰かが言った言葉に、冒険者達からどっと笑いが起こった。
帰路の時も、まだ臭いがすると言って、『ヘルキャットの牙』は別ルートでタリアまで帰ったからな。
ヒシノとロイズに体の隅々まで洗われて、あの時は散々だった。
皆に手を振り、階段を上って三階へと向かう。
ギルマスの執務室へ入ると、ボイル、サーシャ、クロウドの三人が話し合っていた。
「もう噂は聞いたか?」
「大魔人だとさ。思わず吹き出しそうになったぜ」
「あれな、たぶん兵士達に、リリアンの印象が強烈すぎたんだな。まさか大暴れしたことで、悪臭の原因されるとは、リリアンも思っていなかっただろうし」
「笑っている場合か、リリアンが怒り狂って、ここに来れば、説得するのは俺なんだぞ」
ボイルはゲッソリした表情で小さくぼやく。
しかし、これで予定通りだ。
すぐにリグドの街の騒動は広まり、子爵の兵によって調査されることになるだろう。
それで身元が分かったとしても、騒ぎを起こしたのは『ポピー』の連中ということになる。
表向き、『ポピー』はどの街に本拠地があるかは知られていない凶悪な裏クランだ。
タリアの冒険者であれば、当然リリアンことを知っているが、彼女と『ポピー』を恐れて、誰も多くは語らない。
それは街の住人も同じだ。
こうなることは『ポピー』の店で、リリアンと話し合った時から想定はしていた。
だから俺もへそくりを崩して、大金を払ったのだ。
リリアンもそれで納得して、大暴れして注目を引き付けてくれた。
彼女には感謝しかない。
俺とクロウドがクスクス笑っていると、 サーシャが語り始めた。
「作戦成功は良いことですが、悪い情報が舞い込んできました。どうやら王宮で判決が出たようです。オルホース男爵はニーナ様に爵位を譲り、後見人になることを王宮は承諾しました。王宮としては、それで収めるつもりだったようですが、 ジャルダン子爵は納得していません」
そこまで話してサーシャは厳しい表情で俺を見る。
「 ジャルダン子爵は自分であれば『オリジンの大森林』を開拓できると王宮に進言し、 レイリッヒ伯爵も後押ししている状態です。まだ話し合いが続くようですが……」
「やっぱり、素直に引いてくれないよな」
ジャルダン子爵とレイリッヒ伯爵が手を組んでいることもわかっている。
連中の狙いは『オリジンの大森林』の深部にそびえるアルジャ連峰だからな。
もし連峰に鉱脈があれば、莫大な金が手に入る。
欲深い貴族がこのまま見逃すはずはない。
俺が黙ったままでいると、クロウドが真剣な表情で問いかけてきた。
「どうせ予想通りなんだろ。それで次の手は考えてあるのか?」
「まあ、アイデアはあるがな。まだ秘密ってことで」
「おい、 これだけ協力してるんだ。今更、隠し事は無しだぜ」
「聞いたら後悔することになるから止めておけ。クロウドにはタリアを守ってほしいからな」
リグドの街の兵士は当分の間は動けない。
しかし、ジャルダン子爵が命令を下せば、また怪しい動きをし始めるだろう。
街の防衛は一人でも多いほうがいい。
まだ納得できないようで、クロウドは不満そうに両手を広げる。
「それはないだろ。俺とサエマの仲じゃねーか。どうせ、また面白いことをしようと思ってるんだろ。俺も一緒にやらせろよ」
「サエマ、遊んでないで、さっさと言え。俺も協力は惜しまない」
「それは私も同様です」
三人は胸を張り、大きく頷く。
話を聞かないように止めれば、必ず乗ってくると思っていたよ。
俺が皆を巻き込まないわけがないだろ。
俺はにやりと微笑み、アイデアを話した。
「一度、コボレ村に戻る。仲間と合流して、『オリジンの大森林』の踏破に挑む。俺達がアルジャ連峰に先に到達して、連峰にあるかもしれない資源を手に入れようぜ」
「サエマ、正気か? アルジャ連峰にはドラゴン種も多くいると噂になってるんだぞ。それに『オリジンの大森林』の深部まで行って、戻ってきた冒険者はいない。そんなことわかってるはずだろ」
「凶悪な魔獣が闊歩する大森林、踏破できれば一攫千金。冒険者だったら行くしかないだろ」
俺の言葉にクロウドは呆れた表情をする。
するとボイルとサーシャがサッと顔を横に向けた。
「俺は冒険者ギルドの統括に忙しい。コボレ村への移住者のこともあるからな。移住の準備はこちらで引き受けてやる。お前達は存分に行ってこい」
「私は街にいるエルフをまとめなければなりません。それに王宮に滞在しているオルホース男爵のこともあります。情報収集に忙しく、遠征に出られないのが残念です」
二人とも、さっさと逃げたな。
俺はニヤニヤと笑い、クロウドの肩に手を回した。
「まさか話を聞いて、シカトはしないよな」
「サエマ、騙しただろ」
「引っかかるほうが悪い。さあ、一緒に頑張ろうか」
クックック……慌てるクロウドの顔を見れて満足だ。
なんとなく一人でコボレ村に戻るが、嫌だっただけなんだけどな。




