25話 逃走
「うぅっ……臭すぎる……」
「呼吸が……」
「ゲホッ、ゲホッ……オェー」
広場に集まっていた全ての兵士達は地面に両手を付いたり、悶絶している。
偶然にも俺達は布で顔を覆っていたので、まだ耐えられてはいるが。
「この隙に逃げるんだよ。それともここで捕まりたいのかい」
「リリアン……臭くないのか?」
「あなた達と鍛え方が違うだけよ。慣れればいいだけでしょ」
簡単に言うが、生ごみを拭き取った雑巾と……ウ●コを混ぜ合わせた……いやそれ以上の激臭だぞ。
嗅覚なんて、どうやって鍛えればいいんだよ。
体をフラフラさせ今にも倒れそうなロイズとヒシノに近づき、リリアンは「よいしょ」と、二人の首をロックする。
「ここで、私に抱かれて死にたい? それとも生きて、女の子達に囲まれたい? どっちでも選びな」
「私奴は、まだまだエレーネ様に罵倒されたいであります」
「私はカエラ様に尻を蹴られたいですな」
正気に戻ってすぐにセリフがそれか。
リリアンの圧によって、ロイズもヒシノも、意識をハッキリと取り戻したようだ。
布で必死に口と鼻を押さえているクロウドに俺は大声を上げた。
「撤退だ! 悪臭が薄れないうちに逃げるぞ!」
「ああ、こんな場所に一秒でも居たくない」
俺とクロウドが走り出すと、ロイズとヒシノも駆け出した。
一人留まっているリリアンは、片手を上げる。
「私は、倒れている兵士達で遊んでから帰るわ」
「おもちゃにするのはいいが、壊すなよ」
たぶん、リリアンは別のルートから街の外へ出るつもりなのだろう。
広場を抜け出し、大通りを四人で駆け抜ける。
「お前達は誰だ? オェー!」
「不審者がいたぞ! ゲホォ!」
時々、兵士と遭遇したが、悪臭により、全員が倒れていった。
「広場から出たのに臭いが消えないぞ」
「前方から激臭が漂ってきます」
「サエマ殿の体からでありますな」
俺も走りながら悪臭で、連続で嗚咽がこみ上げてくる。
既に十分は過ぎ、『ドーピング』の効果は切れている。
徐々に臭いは薄れると思っていたのに……
自分の体から異臭がするなんて……悲しすぎて涙が出そうだ。
細い路地を走り続け、扉を開けて、空き家の中へ飛び込む。
「クロウド達は先に行け! 三分後に、ここをぶっ壊す!」
「無茶はするなよ! 取り残されても、助けないからな!」
「サエマ殿、お帰りをお待ちしております」
「骨は拾いますぞ」
『グリフィンの嘴』の三人は床の穴へ次々と飛び込んでいく。
俺は腰に結び付けていた鞄の中から、黒い球を3つ取り出す。
これはドンガルに作ってもらった焙烙玉だ。
記憶に残っていたネット動画を参考にして、作ってもらったものだ。
この異世界にも、火薬はあるらしいが、あまり広まっていない。
火炎魔法や爆炎魔法もあるから、普及しないのだと、ドンガルは言っていたな。
「そろそろいいか」
焙烙玉に火を点け、両手で頭を覆い、俺は穴の中へ飛び込む。
頭上で「ドゴーン!」と轟音が響き渡り、家が倒壊する音がする。
トンネルの中には、ドワーフ達が運んできた食糧が大量に積まれていた。
その他にも武器や防具なども地面に転がっている。
「おいおい、ケイネス達、兵士の武具を盗んできたのか? 壊すだけでいいって言ったのに」
ひょいひょいと障害物を避けて先に進む。
そして立ち止まり、焙烙玉に火を点け、後方へ全力でぶん投げた。
ドガーン!
爆発音が響き、街側のトンネルの天井が一気に崩れ、轟音を立てて土が落下する。
「やべ! このままだと生き埋めになる!」
俺は前だけ向いて、必死に駆ける。
後を確認している余裕はない。
「ヒィ!」
見なくても地響きでわかる。
すぐ後まで、落下する土が迫ってきている。
「うわぁーー! 誰か助けてくれー!」
「情けない声を出すでないわ!」
「ドンガル!」
「土よ、鎮まれ! 『土硬化』じゃ!」
ドンガルは太い両腕を前に突き出し、魔法を発動する。
あれはドワーフが得意な土魔法だ。
俺は隣を通り抜け、出入口に設置されている縄梯子を上っていく
すると俺の両手首をクロウドが掴み、一気に体が引き上げられた。
「遅かったじゃねーか。心配したぞ」
「誰かさんが、丁寧に、武具まで盗んでくれたおかげでな」
「俺達も、トンネルに下りた時は驚いた。よく集めてきたよな」
「サエマの指示だったからな。獣人であれば造作もないことだ」
ケイネス、胸を張っているが、俺は兵士達の装備を壊してくれと言っていただろ。
サービスのつもりだったんだろうけどさ。
獣人達にはもっと丁寧に指示を出せばよかった。
地面に座り込み、ドンガルが穴から地上に引き上げるとの見ていると、『ヘルキャットの牙』の女子達が遠巻きになって、鼻を摘まんでいる。
「サエマのおじさん、すっごく臭い!」
「ウ●コみたいな臭いがするー!」
「臭くてゲ●を吐きそう!」
まだそんなに匂っているのか?
腕を鼻に近づけ、臭いを嗅いでいると、鼻を摘まみながらロッタが傍に寄ってきた。
「強烈な臭いですよ! どうしてわからないんですか?」
「いやー、街中からずっと臭っていたからな。鼻が麻痺しちゃってさ」
言い訳をする俺に、エレーネが指差す。
「早く水浴びをしてきて! 臭いが消えるまで体を洗うこと!
「エレーネ様のご命令ですからな、サエマ殿の体を隅々まで洗いますぞ」
「ついでに私達の体も清めてまいりますぞ」
ヒシノとロイズは俺を猫車にヒョイと乗せ、全力で林に向かって走り始めた。
後方からクロウドの声が聞こえてくる。
「二人共、しっかりとサエマにご奉仕するんだぞ!」
「クロウドだって臭ってるだろ! 俺だけは加害者にするな!」




