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23話 作戦準備②

トンネルを掘り始めて三日が経った。

地上へ通じる通風孔から、L字型の望遠鏡を地表に出し、周囲を見回す。

この望遠鏡はドンガルが事前に制作した道具だ。

ドワーフって、筋肉ダルマなのに手先が器用だよな。


毎日、太陽が沈んでから作業を始め、朝陽が上るまで作業を続けたおかげで、外壁の間近までトンネルを掘ることができた。

ドワーフ達は交代しながら適度に地中を掘っているので、さほど疲れていないが、トンネル内の土を猫車で運んでいる獣人達は暑さでバテ気味になっている。


大岩から林の中まで、猫車で土を運搬しているクロウド達も疲れているようだ。

『ヘルキャットの牙』の女子達は、汚れ仕事にイライラし、その鬱憤をロイズとヒシノを罵倒することで発散していた。

それなのに二人は嬉々として女子達に従い、元気一杯に働いている。

その様子にロッタは表情を引きつらせていた。


朝方近くに、やっとリグドの街までトンネルを完成させ、古びた空き家の床を貫通して、出入口を作る。


「ふー、やっと外の空気が吸える」


思わず一言漏らして周囲を見回すと、真っ暗な室内に濃い影が浮かび、首根っこを捕まれ、体を引き上げられた。


「サエマ、遅いわよ。乙女を待たせるのは、いい男になってからにしなさい」

「リリアン……どうしてここに?」

「私の乙女達があなた達を監視していたに決まってるじゃない。トンネルの方向さえわかれば、どこに出入口を作るかなんて、簡単に推測できるわ」


さすがはリリアン、『ポピー』の実力も半端ないな。


暗闇の中、俺達二人が話してると、穴からドンガルが顔を出した。


「サエマ、外はどうなっておるんじゃ。早く報告せんか」

「あら、ドンガルちゃんじゃないの。お久ー」

「ゲッ、リリアン!?」


彼女の顔を見て、驚いたドンガルは思わず両手を放し、穴の中へ落ちていった。

そういえば街の重鎮達の中で、リリアンと気楽に会話しているはドーマさんぐらいかも。


「恥ずかしがっちゃって。隠れなくてもいいのに」

「そんなことより、ここで待っていたってことは、俺に用事があるんだろ」

「ええ、兵士達の野営地を記したリグドの街の地図を持ってきたの。私達はどこでお祭りを起こせばいいのかしら」


リリアンは地図が書かれた羊皮紙を床に広げる。

すると部屋に潜んでいたエマが手に持っていた魔道ランプに明かりを灯す。


「お、サンキュ。子爵の兵の野営地は三つ。備蓄している食糧庫は一つか。それなら襲撃しやすいな」

「トンネルの出入り口になっている空き家は、街の南側のこの地点よ。私達が街の北側で騒動を起こしても、全ての兵士が乗ってくるとは限らないわ」

「街を巡回している警備兵もいるからな。俺達もお祭りに参加するしかなさそうだな」

「でも、大丈夫? サエマ達が兵士に捕まれば、オルホース男爵が窮地に立たされることになるわ」

「フッフッフッ、こんな時のためにトッテオキを用意している。たぶん役に立つはずだ」


コボレ村を発つ前に、エミリから新しい錠剤を預かってきている。

ゴブリンの魔石から成分を抽出したと言っていたから、試してはいないが、碌な代物ではないだろう。

それに緊急の時は、ドンガルに作ってもらっていた秘密兵器もあるからな。


リリアンと二人で、具体的な作戦を立て、その後に床の穴から地中へと飛び込んだ。

すると、トンネルの中には誰もいない。

大岩の陰にある出入口から外にでると、既に太陽が上り始めていた。


林の中に帰ってみると、焚火を囲んでドンガル、クロウド、ロッタ、ケイネスの四人が俺を待っていた。


「リリアンがいたんだってな」

「俺を残して、ドンガルだけ酒を飲んでるなんてズルいぞ」

「あやつは苦手じゃ」

「僕は会ってみたかったですね。『ポピー』のボスなんでしょ』

「マムだ、呼び方を間違えるな。それにロッタはリリアンと顔を合わさない方がいい」


そういって、ケイネスは顔を横に向けた。

熊獣人のケイネスでも、乙女の力を警戒してるんだな。


ロッタはイケメンだから少女達だけでなく女性からの人気も高い。

ということは乙女達にも……

もし出会ったら、どちらにしても厄介事になりそうだ。


そんなことを考えていると、クロウドが「作戦を決めてきたんだろ。さっさと話せ」と促してきた。

焚き木の近くに腰を下ろし、俺は地図を広げて、皆を見回す。


「街の北側で『ポピー』の連中が騒ぎを起こすことになっている。大半の兵士と警備兵は北側に向かうはずだ。残っている連中の相手は、俺と『グリフィンの嘴』が担当する。その混乱の隙を突いて、『バーサクベアの咆哮』は野営地の忍び込み、できるだけ兵士の装備を破壊。ドンガル達は、食糧庫に行き、食糧を奪取してくれ。『ヘルキャットの牙』はドワーフ達の援護を頼む」

「作戦の内容はわかったが、空き家にある出入口はどうする? 残しておけば、地中を掘って潜入したことが露見するぞ」

「それについては俺が後始末をする」


俺が頷くと、クロウドがポツリと言葉を漏らした。


「やっぱり食糧をトンネルの中に残していくのか? せっかく盗み出したのに勿体ないぜ」

「重い荷物を持って、領境を越えてタリアの街まで戻るには無理がある。もたもたしていて追撃されたら、今までの苦労が水の泡だ。今回は諦めてくれ」

「まあ、後から報酬が貰えるなら、指示に従うさ」


さあ、これでお祭りの準備は整った。

ジャルダン子爵、顔も見たことないけどさ、あんたの思惑通りにはさせないからな。

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