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21話 拠点にて

それから三日後、俺、『グリフィンの嘴』、『バーサクベアの咆哮』、『ヘルキャットの牙』の十一人は馬に乗り、街の門を潜り抜け、領境に向けて駆け走る。


休憩を挟みながら、四時間ほど荒れた街道を走っていくと、領境の検問が見えてきた。

警備兵に冒険者タグを見せ、順調にジャルダン領へ入ることができた。


それから、三時間ほど街道を進んでいくと、荒地の向こうに城塞都市が現われた。

街から少し離れた林の中の空地で野営することにして、樹々に馬の手綱を繋ぐ。


樹にもたれて酒を飲もうかと考えていると、目の前をゴスロリ姿の女子が通り過ぎ、クロウドに声をかける。


「ねえ、おじさん。私達疲れたから、ちょっとだけ二人を貸してほしいの」

「そうか、そうか。おーいロイズ、姫がお前に用事だとさ」

「え、私奴でありますか。それは光栄であります!」

「待たれよ、ロイズ殿だけ、抜け駆けは禁止ですぞ。私も助太刀いたしますぞ」


今まで石を積んで釜を作っていた太った男と、瘦せこけた眼鏡男がニコニコと立ち上がった。


『グリフィンの嘴』は、クロウドをリーダーとした、三人パーティだ。

肥満体形の男がロイズで、栄養失調の男がヒシノ。

全員が俺と同年代で、陰で『おっさんズ』と呼ばれていたりする。

癖は強いが愛嬌のある連中だ。


「姫、お手伝いのご褒美はありますでしょうか?」

「何言ってるの、私と話せただけでも光栄と思いなさい」

「エレーネ様のご尊顔、目に焼き付けましたぞ」

「二人共、キモーイ!」


ゴスロリ少女の言葉に、ロイズもヒシノも恍惚の表情をする。

あの少女の名はエレーネ。

彼女が所属する『ヘルキャットの牙』は、ロッタを教祖のように崇める「推し」が集まって結成されたパーティである。


「さっさと薪を拾いに行くわよ」

「姫の手を煩わせません」

「エレーネ様、私が背負ってまいりますぞ」

「イヤー!」


まあ、三人が楽しいなら、それでいいか。

人の趣向は自由だからな。


三人が仲良く林の中に去っていくのを見届け、俺はクロウドを呼び止めた。


「相変わらずのようだな」

「ああ、俺の指示よりも、『ヘルキャットの牙』の少女達の命令の方が、二人はよく働くからな。それでいいんじゃねーか」

「いつもながら、いい加減すぎるだろ」

「依頼さえこなしてくれたら、それでいいさ。冒険者なんてそんなもんだ」


そう言われると返す言葉が浮かばない。

ふと視線をずらすと、ロッタの指示で、少女達がキャピキャピと野営の準備を進めていた。

一応、敵情視察なんだけど、皆さん、油断し過ぎじゃないかな。

遠足に来たんじゃないんだぞ。


俺は心の中で溜息をつき、少し離れた場所にテントを張る『バーサクベアの咆哮』の様子を見る。

すると既に獣人達は焚火の肉串を焼いていた。


『バーサクベアの咆哮』は獣人族のみ構成されたパーティで、リーダーのケイネスは熊の獣人なのだ。


そういえば小腹が空いてきたな。


クロウド達の料理はまだのようだし、少し休むか。

俺は地面に敷いていた毛布で身を包み、目を閉じる。

疲れていたのか、数分で意識が途絶えた。


どれくらい眠っていたんだろうか、体を揺すられて薄くまぶたを開ける。

するとクロウドが木製の椀を持って、ニヤニヤと笑っていた。


「おい、肉団子スープができたぞ。一緒に食おうぜ」

「待ってたぜ」

「食材分は金は、後からキッチリともらうからな」

「ケチケチすんな。ローザが大金を持ってるって」

「それってパーティの金だろ」

「いや、俺の分も貯金されている……はずだ」


俺は素早く椀を奪い取り、慌ててスープを口につけた。


「美味い!」

「そりゃどーも、ロイズが料理したんだけどな」


ロイズは元料理人だと聞いたことがある。

どうして冒険者になったのかな。

これだけの腕なのに、もったいないような。


食事を終えた俺はクロウドと共に林を出た。

図上には満点の夜空が広がっている。

後から足音が聞えてきたので、振り返るとロッタが俺達を追ってきた。


「僕を残して、二人だけでどこにいくつもりなんですか?」

「ちょっとした偵察だ。ロッタは仲間と一緒に寝ていていいぞ」

「嫌です。いつまでも子供扱いしないでください。僕も行きますからね」

「勝手にしろ」


なぜかロッタは俺とクロウドに懐いているんだよな。

可愛い女の子に囲まれているのに変わった奴だ。


草原を静かに歩いて外壁に近づいていくと、黒影が立ちあがり、俺達に手を振る。

こんな場所に知り合いがいるはずがない。


俺達三人は立ち止まり、剣の柄を握り、臨戦態勢を取る。

すると影は大きく両手を上げたまま、ゆっくりと近づいてきた。


「戦うつもりはありません。マムからサエマさんへ伝言があります」

「二人共、警戒を解いていいぞ。どうやらリリアンの仲間のようだ」

「ああ、俺達の知る、マムは一人しかいないからな」

「まさか、あの悪名高いクラン『ポピー』のボス、リリアン・デストロイヤーのことですか?」


そういえばロッタを『ポピー』の飲み屋に連れていったことはなかったな。

しかし、命が惜しかったら、リリアンのフルネームを口にするな。

本人を目の前にして、デストロイヤーなんて言えば、首が捩じ切られるぞ。

それと乙女をボスと呼ぶのは非常にマズイ……マムと呼べ。


間近まで近づいてきた、茶髪ショートの女性がクスクスと微笑む。


「サエマさん、クロウドさん、先日はどうも。私の名はエマと申します。既に『ポピー』はリグドの街に潜入しています。マムより『大人しく外で待っててね。騒ぎを起こしたら、ぶっ殺すわよ』とのことです。今後、私が皆様とマムとの仲介を務めますので、よろしくお願いします」


さすがはリリアン、仕事が早い。

『ポピー』が ジャルダン子爵側に回らなくて良かったよ。

正直に言って、『ドーピング』の錠剤を使っても、あの迫力には勝てる気がしないからな。

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