20話 下準備
タリアに戻った翌日、俺は二日酔いの頭を抱え、ドンガルに相談する為、工房に行った。
そして大型スコップ、手動ドリル、ツルハシ、猫車など、穴を掘る道具の量産をドンガルにお願いしてたのだ。
それから二日後、試作品ができたと聞いて、再び工房を訪れていた。
「サエマ、注文通りの道具を作ってみたぞ。これでいいのか?」
「お、キチンとドリルになってるじゃないか」
T字型の手動のドリルを両手に持ち、俺は満足して微笑む。
ドンガルが難しい表情で、次の品を指差す。
「作ってはみたが、あれは何じゃ?」
「それは猫車って道具さ。土を運ぶのに便利なんだよ」
「不安定のままでいいのか? 車輪を増やせるが?」
「いや、このままでいい。一輪車の方が使いやすいんだ」
昔、学生の時、土木作業のバイトをしたことがあったな。
あの時に、仕事を教えてくたおっちゃん、元気にしてるかなー。
懐かしい思い出に浸ってると、クロウドが工房にやってきた。
「ここにいたのか。そろそろコボレ村に向かう連中が出発するらしいぞ。ドーマさんが呼んでいるから早く来い」
「もう、そんな時間か。ドンガル、後を頼むぜ」
「わかっているわい。大量に作ってやるわ」
俺は片手を振り、クロウドと共に工房を後にした。
大通りを走り抜け、街の外壁に辿り着くと、門の手前に、大きな荷や人々を積んだ荷馬車が並んでいる。
俺達二人を見て、ボイルとドーマさんが歩いてきた。
「サエマ、そろそろ第一陣が出発するぞ」
「実際、目にすると、大所帯だな」
「今回、コボレ村に向かうのは六十名ほどだ。護衛の冒険者は二十名。これだけ入れば野盗も襲ってはこれまい。それに中級魔獣程度であれば大丈夫だ」
ワイバーンなどの上級魔獣は『オリジンの大森林』の奥地に生息しているからな。
街道沿いにホイホイとは出没しない。
低ランク冒険者も混じっているようだが、タリアで鍛えられているから、上手くやるだろ。
「あれ? ドーマさんも行くのか?」
「私はどんなことがあってもタリアに残るよ。皆が作った商店街を守らないといけないからね。でも、娘のメリッサはコボレに移住すると言ってね」
メリッサちゃんか……たしかエミリと同い年だから、十六ぐらいか。
器量もいいし、良識もあって、いい子なんだよな。
「メリッサちゃん、どんどん綺麗になっていくよな」
「サエマ、私の娘に手を出したら、容赦しないよ」
「ドーマさんが義母か……それはちょっと遠慮したいかな」
「それはどういう意味だい! ハッキリ言いなさいよ!」
ドーマさんは眉を吊り上げ、一歩前に出る。
だから圧が強いんだって。
ドーマさんは、俺と似たような年齢じゃないか。
同年代をお母さんって言いにくいだろ。
俺達は大きく手を振り、移住部隊の出発を見送った。
その後、ドーマさんと分かれ、俺、クロウド、ボイルの三人は冒険者ギルドに向かう。
建物の中に入ると、十一名の冒険者が待っていた。
「ギルマス、いつでも行けるぜ」
「今回の策はサエマさんの考えですよね。キチンと指揮を執ってくださいね」
クロウドとロッタの二人が軽口を叩く。
ここにいるは『グリフィンの嘴』、『バーサクベアの咆哮』、『ヘルキャットの牙』の面々だ
人選したはボイルだが、この三組なら顔見知りで、気心もわかる。
ボイルは一歩前に出て、ゴホンと一つ咳をする。
「では、リグド近郊への調査に向かってくれ。ドンガル達、ドワーフもすぐ合流する。それまで身を潜め、子爵の兵士達の動向を監視してくれ」
「依頼料はキチンともらえるんだろうな?」
「サエマに聞いてくれ。今回のスポンサーはこいつだからな」
「違うだろ。俺はオルホース男爵から頼まれているだけだ」
俺の言葉に反応して、クロウドがギギギっと顔を向ける。
「金、あるよな?」
「それが昨日、リリアンに手持ちの金を渡しちゃってさ……今は銀貨しか持ってないんだ」
「領主代理なら、男爵から資金を預かっているだろ」
「俺が大金を持ってる訳ないだろ……すぐにローザに奪われたわ」
「じゃあ、どーすんだよ!」
俺達二人の言い争いを聞いて、集まっている冒険者達も顔色を青くする。
その様子を見かねたボイルが、呆れた表情になった。
「ローザなら、理由を説明すれば、タリアに来る前に余裕の資金を渡してくれただろ」
「緊急時に備えて資金を出してくれって言ったよ。そうしたら『どうしても必要な資金ならボイルが立て替えてくれるでしょ』ってローザに言われたんだ。他の仲間も、俺に余分な金を持たせても碌なことにならないって言いやがった」
そこまで話すと、クロウドが首を傾げる。
「じゃあ、昨日、リリアンに渡した金は?」
「……俺のへそくりに決まってるだろ」
「まあいい、今回はギルドで立て替えておく。後で、ローザから回収するとしよう」
ボイルの一言で、皆は安堵の表情に変わった。
そしてクロウドがニヤニヤと俺の腕を肘で突く。
「惚れた弱みとはいえ、尻に敷かれ過ぎだぞ」
「俺とローザはそんな関係じゃない。ローザはパーティの金庫番だ」
「へいへい、そういうことにしておいてやるよ。ちなみに依頼料って、仲間で山分けしてるのか?」
「いや……俺だけは小遣い制で……」
「サエマ、苦労してるんだな」
クロウドは腕で顔を隠して、体を震わせる。
泣き真似なんて止めろ。絶対に笑ってるよな。
不憫に思うなら、今度、酒でも奢ってくれ。




