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19話 元冒険者リリアン

冒険者といえば、力や能力自慢の荒くれ者達である。

貴族お抱えの兵士に面と向かって喧嘩を売る愚か者は少ないが、村や街の警備兵では彼等を抑え込むのが難しいのもまた事実である。

そんな冒険者達を監督しているのは冒険者ギルドなのだが、ギルド職員は常に人員不足で手が回らない。

それなのにタリアでは、冒険者の喧嘩や窃盗騒ぎは妙に少なかったりする。

その理由は、リリアンが率いるクラン『ポピー』の存在だ。


『ポピー』は可愛い名前とは裏腹に、辺境地域の裏社会にも精通しており、リリアンが決めたルールを破る者は、例外なく葬り去られることになる。

冒険者は引退したと言いつつ、依然としてヤバいクランの頭目に君臨しているのが彼女なのだ。

ちなみに『ポピー』に所属する者は全員が乙女である。

これを決して忘れてはいけない。


俺はジーっとリリアンの細められた鋭い眼光を凝視する。


「今日は筋を通しにきた。オルホース領の現状は知ってるよな」

「ええ、王宮の情報も聞いてるわよ。レイリッヒ伯爵とジャルダン子爵が組んでいるから、オルホース男爵も大変でしょうね」


さすがはリリアン、全ての情報を掴んでいるようだな。


俺は懐に手を入れ、金貨の入った袋をテーブルに置く。

そして世間話でもするように気軽に問いかけた。


「あのさ、伯爵と子爵は、どんな取引をしたんだ?」

「ウフフ、サエマちゃんだから、今回はサービスしてあげるわ。二人の狙いはアルジャ連峰の資源よ。ミスリルの鉱脈でも発見できたら、彼等の権力や地位も未来永劫、確定するでしょうね。どうやって『オリジンの大森林』を克服するかは知らないけど」


やはりそういうことだったのか。


「ジャルダン子爵と子爵領の冒険者ギルドが組んで、魔獣の素体を横流ししているのは?」

「あれは冒険者を集めるための布石と資金集めと宣伝ね。子爵が飼っている兵士は魔獣相手には役立たずだし、大森林を踏破するには、屈強な冒険者を集めて雇う資金も必要でしょ」

「なるほど、それにレイリッヒ伯爵が乗ってきたってことか」

「わかりの早い子は好きよ」


子供扱いするなって。

リリアンも俺と同じぐらいの年齢だぞ。


そこまで話し、リリアンがジーっと俺を見る。


「情報を上げたんだから、何をお願いしにきたのか、早く言いなさい」

「子爵の兵がリグドの街に集まっているのは知ってるよな」

「貴族の争いに関わるつもりはないわ。権力者って大嫌いだもの」

「俺も戦争は嫌いだ。だから兵士達の武装と食糧を盗もうと思ってね」

「あら、泥棒は犯罪よ。ルール違反はダメよね」


ニヤニヤ笑いながら言われても説得力もないわ。


リリアンが犯罪を気にするわけがない。

冒険者ギルドの管理が窮屈で、冒険者を引退したぐらいだからな。

リリアンが厳しく守るのは自身のルールだけだ。

そのルールに反していなければ、窃盗でも殺人も平然と熟す。

扱い次第では超ヤバい乙女、それが彼女だ。


身振り手振りで作戦を伝えると、リリアンは「キャハッ」と奇声をあげる。


「面白いことを考えたわね。お祭り騒ぎとしては最高だわ」

「だろ。だからリリアンを、いや『ポピー』にも参加してほしいんだ」

「ワハハハハッ……リグドの街で騒ぎを起こす役を引き受けてあげるわ。私達に任せてちょうだい」

「リリアンならそう言ってくれると思ったぜ」


話し合いを終え、俺とリリアンはグラスを掲げ、軽く乾杯をする。

すると今まで、俺達のことを気にせず、女性を口説いていたクロウドが口を挟んできた。


「それで俺は何をすればいいんだ?」

「あれ? 興味があったのか?」

「話だけ聞かせて、仲間外れはないだろ。祭りをするなら俺も参加させろ」

「じゃあ、『グリフィンの嘴』には他の者達と一緒に穴掘りを頼めるか。力仕事だから人員が足りないかもしれないんだ」

「ウゲー、参加するなんて言うんじゃなかったぜ」


舌を出して苦々しい顔をするクロウドを見て、皆、大爆笑になった。


グラスの酒を一気に飲み干し、俺はニヤニヤと微笑む。


「最初から、クロウドには相談するつもりだったさ」

「それはわかっている。で、依頼料は幾らくれるんだ?」

「そうだな……ローザと一日デートはどうだ?」

「気づいたら猛毒を盛られてるなんて洒落になるか。命が幾らあっても足らんわ」

「そうだな……今回の作戦だけだと、一人金貨三枚だ。コボレ村の開拓も手伝ってくれるなら、依頼料については男爵に口利きしてやるよ」


その後、和気あいあいと飲み食いしていると、隣に座っている赤髪ロングヘアーの女性が声をかけてきた。


「サエマさんって噂ほど変な人じゃないんですね」

「……どういう噂なのか聞いてもいいか?」

「冒険者の中で一番エッチな人……大きな胸が大好きだって」

「ちょっと待て。誰がそんな噂を広めてるんだよ」

「それは……マムが……」


女性は大きな胸を両手で隠し、恥ずかしそうに顔を横に向けてリリアンを見る。

店に入った時から、胸は気になっていたけど、ガン見なんてしてないぞ。


「リリアン、根も葉もない噂を流すなって」

「へえー、サエマ、今までの黒歴史を語ってあげてもいいのよ」

「そういえば昔、お前が酔っ払って、ロー「止めろ! 忘れろ! 記憶喪失になれ!」


何かを言いかけたクロウドの顔を、思わず往復ビンタをして黙らせた。

焦ることを言い出すんじゃない。

誰にも一生、思い出したくもない過去があるんだ。

こうなったら二日酔い覚悟で飲んでやる!

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