18話 酒場『ポピー』
ギルマスの執務室で話し合いを終えた俺は、後のことは四人に任せ先に退室した。
今日は朝から忙しかったからな。
階段を下りて一階に行くと、 クロウドが待っていた。
クロウドは冒険者パーティ『グリフィンの嘴』のリーダーだ。
俺が冒険者になりたての時、クロウドには世話になった。
昔からの悪友の一人だ。
「もういいのか?」
「ああ、今日の用事は済ませた。早く行こうぜ」
「ローザやエミリ達はいないのか?」
「仲間はコボレ村にいる」
「ということは、時間を気にせずに遊べるな」
「そういうことだ。さっさと行こうぜ」
俺はニヤリと笑い、クロウドと二人で冒険者ギルドを後にした。
建物を出ると、太陽は沈み、星が瞬いている。
飲みに行くには丁度いい時間だ。
狭い裏路地に入り、薄暗い通りを歩いていくと目的の店があった。
分厚い扉の前に立ち、クロウドがノックすると、覗き窓が開く。
「世の中の貴族は?」
「クソッタレ」
クロウドが合言葉を言うと、扉がギィーと開いた。
ここは『ポピー』という飲み屋で、店長の悪戯で、合言葉を決めているのだ。
マッチョな護衛の横を通り、廊下を進んで奥の扉を開けると、煌々と明かりに照らされた広間が現われた。
俺達が現われたのを見て、店長のリリアンがドカドカと歩いてきた。
「あらー、サエマちゃん、お久しぶりー。クロウドちゃんは昨日も来ていたね。あんたも好きねー」
「今日はサエマが遊びたいと言うから連れてきたのさ」
「そこは「あたしに会いにきた」って言えば、料金を下げてあげてもよかったのに。まだまだダメね」
クロウドを手玉に取り、リリアンは「オホホホホ」と笑う。
相変わらずの接客だな。
この店では絶対にリリアンに逆らってはいけない。
彼女は元Aランク冒険者であり、筋肉隆々の元男であり、現乙女なのだ。
その実力はギルマスのボイルでも勝てないだろうと噂されている。
一通り挨拶を終え、リリアンは振り向き、両手をパンパンと叩いて、後ろに立っていた見目麗しい女性達に声をかけた。
「さあ、お客様をもてなして」
「はーい、リリアンお姉様」
茶髪ショートの女性が、クロウドの腕に胸を当て、「私達と行きましょう」と囁く。
スタイル抜群の赤髪ロングヘアーの女性が俺の傍に近寄ろうとする前に、リリアンが強引に割り込んで、俺と腕を組む。
「ちょっと待て。久々なんだからいいだろ」
「ふーん、ローザちゃんにチクッちゃおうかな」
「あいつとは何でもないって何度も言ってるだろ」
「そういうことにしておいてあげるわ」
元冒険者であるリリアンは当然ながらローザのことを知っている。
何度も行方をくらます俺を探しに、エミリもこの店に来たことがある。
あの時はローザに告げ口されて、散々な目に遭ったんだよな。
ボックス席に座った俺達の隣に女性達が座っているのだが、なぜか俺と少し距離を取っている。
そしてリリアンは通路に椅子を持ってきて、ドスンと座った。
そこに陣取られると気になって仕方ない。
「腹も減っているし、適当に料理と酒を頼む」
「おーい、オーク肉のステーキを大至急、それとエール酒を樽ごと持ってきて!」
「イエス、マム!」
クロウドの注文を聞いて、リリアンはキッチンに向けて大声を張り上げる。
とても乙女が出していい音量ではない。
厨房から日焼けしたマッチョが現われ、酒樽とグラスを運んできた。
女性達が樽から黄金色の酒を注ぎ、それぞれの前にグラスを置いていく。
「さっさと始めましょうか」
「「「「「お疲れ様ー!」」」」」
クロウドは酒をグイっと飲み、腕で唇を拭う。
「美味い!」
「はーい、お注ぎしますね」
それから皆でワイワイと騒ぎながら酒を飲み、次々と運ばれてくる料理を平らげていった。
茶髪ショート女性に酒を注いでもらい、クロウドも上機嫌だ。
それなのに、赤髪ロングヘアーの女性は俺と微妙な距離を取っている。
「もっと気楽にしていいよ」
「フィアナ様からサエマさんには注意するようにと言われていますので」
横顔を見ると耳が尖っている。
フィアナはエルフ族の中でも実力者として認められている。
クソッ……どうして『ビザーマスク』の女性陣はいつもいつも俺の邪魔をするだ。
少しぐらい、俺の人生にもサービスがあっていいじゃないか。
酒を飲み始めて一時間が過ぎた頃、リリアンが前屈みになり、腕を伸ばして、俺の目の前で、指でトントンとテーブルを叩く。
「少しは満足したんじゃないかしら。そろそろ店にきた目的を吐きなさいよ」
「え? 今日は純粋にお姉さん達と楽しいひと時を期待してきたんだが?」
「おい、私の目を誤魔化すんじゃねーよ。ぶっ殺すわよ」
ドスの効いた声で静かに言うなよ。
それでなくても厳つい顔をしてるんだからさ。
俺が子供ならワンワンと大泣きしているぞ。
リリアンの雰囲気が変わったことに気づき、クロウドの表情も真顔になった。
「久しぶりにバカ騒ぎできると思っていたのに。やっぱりそういうことか」
「勘違いするな。今日はめいいっぱい遊ぶつもりだ。序に仕事の依頼も兼ねてるけどな」
「いつものことだが、食えないおっさんだ」
「そういうなって、お前だっていい年だろ」
クロウドと俺が会話していると、リリアンが殺気を滲ませる。
「酒ならたんまりと飲ませてやる。仕事の話の後でな」
「おい、男が出てるって」
「いやーん、サエマのバカ!」
どうにも調子が狂う。
シリアスなのか、乙女なのか、キャラをハッキリしてくれ。
だからリリアンに話すかどうか悩んでいたんだよな。




