15話 仲間との一時
エルフの伝令から報告があった夜。
『ビザーマスク』の皆で、タリアの街に戻るかどうかを話し合った。
ボウエンは村に残って、気ままに魔獣を狩っている方が楽だと言う。
エミリは、馬車で往復するのが辛いと拒否。
フィアナは、戦は反対ですと言って、村に残るそうだ。
ローザはニーナの世話をするため居残り決定。
ママと引き離すのも可哀そうだ。
「仕方ない、俺一人でタリアに戻るわ」
「えー、おいらは? おいらだって、十分に戦えるのに!」
「だから戦を止めに行くんだ!」
リットを連れて行ってもいいが、変に動かれて騒ぎになっても困るからな。
それなら仲間達と共に、村に貢献してもらうほうがいい。
すると椅子に座っていたエミリが手招きしてきた。
「何だ?」
「新しい薬を作ったから、サエマのおっちゃんにあげるー」
「どうせ俺の体で実験したいだけだろ」
「それは否定しないけど、きっと役に立つわ」
「それで、薬の効果は?」
「ゴブリンの魔石から成分を抽出したんだけど、どんな薬かわからないのよね」
完全に俺を実験動物にしてるだろ。
ゴブリンの成分なんて嫌な予感しかしない。
俺の錠剤は、エミリが魔法陣を使って魔石から様々な成分を抽出し、ローザが薬草などを加えて調合したものだ。
つまり……ローザもノリノリで作ったんだな。
俺から視線を向けられ、ローザは白々しく顔を背けた。
確信犯だな。
それから皆で相談した結果、翌日の朝に出発することになった。
リビングでスキットルの蓋を開け、一人で酒を飲んでいると、扉が開いてローザが入ってきた。
その手には二つのグラスと酒瓶が持たれている。
「ニーナちゃん、寝たわ」
「そうか、お疲れさん」
「あれだけ懐かれると、本当に可愛く思えるのよね」
「母性が目覚めたのかもな。いいことじゃないか」
そう言いながら、俺は防御のため体に緊張を走らせる。
しかし、何事もなかったように、ローザは静かに対面の席に腰を下ろし、テーブルにグラスを置く。
いつもなら、ナイフが飛んでくる場面だぞ。
黙っていると、ローザは酒を注ぎ、グラスを差し出してきた。
そして彼女も一口飲んで、俺を見る。
「絶対に、戦争を止めてなさいよ」
「善処はするさ」
「それとサエマ、怪我をしても薬で治してあげるから、必ず村に戻ってきなさい」
「ローザに優しくされると、背中がむずがゆくなるんだが」
「ニーナちゃんが悲しむから言ってるんでしょ」
ローザは怒ったように顔を横に向ける。
ニーナと暮らすことで、ローザも良い方向で変わってきたな。
以前に聞いた話だが、元々、彼女は流浪の錬金術師だ。
冒険者で金を稼ぎ、将来は自分の錬金工房を開く夢があったそうだ。
今、タリアが経営している宿屋の主が、老齢になり、彼女に宿を譲り受けたという。
言葉も行動も粗野な面もあるが、本来は周囲の皆を気遣う、優しい女性だったりする。
しかし、恥ずかしがり屋でへそ曲がりなので、なかなか素を見せないんだよな。
心地良い沈黙の中、二人で酒を飲んでいると、ボウエンが室内に入ってきた。
「おぉ、酒があるではないか。ワシも一杯いただこうかのう」
「ダイニングからグラスを持ってくるわ」
椅子から立ち上がったローザと入れ替わるように、ボウエンがドカっと腰を下ろす。
そして意味ありげに目を細めた。
「ふむ、邪魔したかのう」
「そんなんじゃねーよ」
「ニーナのパパとママが仲良くしてもおかしくあるまい」
ボウエンの髭が揺れ、一瞬、風が通り過ぎた。
リビングの壁を見ると、ナイフが突き刺さっている。
「相変わらず、地獄耳じゃのう」
「ローザを本気で怒らせるなって」
「ふん、いつまでも尻に敷かれおって」
「俺はボウエンの身を案じてるんだぞ」
俺達二人が騒いでいると、ダイニングから戻ってきたローザが、テーブルにグラスをドンと置く。
「ボウエン。おかしな勘ぐりをしているなら、頭の中を調べることになるわよ」
「それならサエマの頭が適任じゃ」
「俺に振るな」
『ビザーマスク』結成当初は俺、ローザ、ボウエンの三人だった。
宿でボウエンと酒を酌み交わし、意気投合してローザを巻き込んだんだ。
今ではエミリ、リット、フィアナも加わり、良いパーティになったよな。
昔を懐かしんでいると、廊下からドタドタと足音が聞こえ、扉の隙間からリットが
が顔を出す。
その後ろからエミリとフィアナが現われ、リットを押し倒した。
「だから邪魔しちゃダメって言ったでしょ」
「皆は静かにお酒を飲んでいるのですよ。騒がしくしてはいけません」
「二人が背中を押すからじゃん。おいらのせいにしないでよ」
リットの大声で喚き、室内にドッと笑いが起きた。
やっぱり、皆が揃っているのが一番だな。
クスクス笑っていると、エミリが俺を指差した。
「サエマのおっちゃん、私達がいないからって、絶対に無茶はダメだからね」
「そうですね。サエマさんは、一人で抱え込んで暴走する癖がありますから」
「兄貴、おいらも一緒に連れていってくれよー」
どうやら皆、俺のことが心配で、寝ずに様子を見に来てくれたのか。
パーティの中で俺が一番年上なのに。
嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、むずがゆいような複雑な気持ちだな。
「よし、皆で飲むか!」
一時間ほど、仲間で酒を飲んでいると、扉が開いて、ニーナが目を擦りながら歩いてくる。
「パパー、ママー、一人にしないで」
「うるさくして、ゴメンな。じゃあ、三人で一緒に寝ようか」
「サエマは一人で寝なさい」
足の甲を踏みつけ、ローザが殺気を放つ。
調子に乗り過ぎました、すみません。




