14話 村役との話し合い
コボレ村に到着して二日が経った。
その間、モル爺さんは、村役達を家に集め、俺は領主代理として、オルホース領の状況を伝えた。
そして、この村を街に変え、タリアから移住する構想を説明したのだが、村役達からは、『食料の問題がある』、『家が足りない』、『街にする敷地がない』、『井戸の問題がある』など様々な反対意見をもらうことになった。
大森林に囲まれた僻地に、街を作ると言い出せば、村民として不安になるのは当然だ。
俺は、移住してくる第一陣は、冒険者、大工、木樵、ドワーフなどであることを説明し、街のインフラ設備について問題ないことを力説した。
皆が心配している食料問題は、多くの冒険者を引き入れることで、魔獣討伐が盛んになり、猪系、熊系の魔獣を狩れば、食肉は確保できる。
それに村で栽培されている、芋類を主食とし、大森林に原生している他の芋類も加え、種類を豊富にすれば、街に特産物にもなると説いた。
エミリが言っていたが、魔植物は、魔素を多く与えれば、自然の植物よりも早く育ち、季節を気にせず、収穫することができるからな。
村役達に向けて、改善策を次々と解いていると、ミローネさんが手を挙げる。
村の話し合いに、どさくさで紛れ込んだな。
「多くの冒険者を集めるのはいいですが、荒くれ者達も多くいます。その者達をどうやって管理するのですか?」
「うーん、冒険者のことは冒険者ギルドに任せるつもりだったが……」
「今の村の状況では、冒険者ギルドが支部をすぐに設置するとは思えません」
僻地で、冒険者も少なければ、冒険者ギルドも動かないってことか。
タリアから移住するから、冒険者ギルドも自動的に動くと考えていたが、迂闊だったな。
難しい表情をしている俺に、ミローネさんは言葉を重ねる。
「それに冒険者ギルドだけあっても、商業ギルドがなければ魔獣の素体や魔石を流通させることはできません。加えて、ギルド間の取引がなければ、冒険者ギルドも冒険者に依頼料を支払えません。そもそも無料で街や村に奉仕する冒険者はいないでしょう」
盲点を突かれて、眩暈がする。
グザグザッと、痛いこと言ってくるな。
冒険者を動かすには金次第。
そのことを忘れていたなんて、やっぱり俺に男爵の代わりなんて無理だって。
そこまで考え、俺の頭の中に邪なアイデアが浮かんだ。
「ミローネさんの言う通りだ。これからは村の経済を管理する者が必要だよな。そこでコボレ村の皆さん、ミローネ商会を、男爵御用達商会にしたいと思う。それで村の管理が整うまで、ミローネさんには、法務も担当してもらいたい」
「それって、面倒なことを全て私に押し付けるつもりですね」
「では御用達商人として、芋類の専売権をミローネ商会を契約しよう。『黄金芋』や大森林に育っている芋が欲しいのなら、悪くない取引だと思うけどな」
「それは興味がありますね……わかりました。村の発展の為に協力しましょう」
『黄金芋』と名付け、わざわざ辺境の果てまで商品を買い取りにきたんだ。
王都で高額な値で販売しても、買い手があると踏んでいるに違いない。
多少の苦労があっても、それを上回る利益が出るなら、話に乗ってくると思ったよ。
それに『オリジンの大森林』には未知の芋があるかもしれないからな。
村から街への改築にミローネ商会も加わると知って、村の上役達の反対意見は、ほぼなくなった。
王都にも顔が利く商会の後ろ盾ができたからだろう。
その後、村役達との会合も順調に終わった。
俺がモル爺さん達と話し合いを続けている間、ニーナを抱いたローザを守りながら、『ビザーマスク』の仲間達は、村周辺の森を開拓している。
ニーナがお願いして、樹々が勝手に移動しているんだけどな。
暇を持て余したリットとボウエンが、オークやボアを狩りに行ってしまい、エミリやフィアナに怒られていたそうだ。
村人達は、ボア肉を大量に食べられるので、喜ばれていたけどな。
それから五日後、村の周りにあった大森林は、村から一キロほどの距離まで遠ざかった。
『コボレの盾』のカイルが漏らしたようで、村人の間でリットの人気が急上昇している。
ニーナが樹々を移動させていることは秘密にしているからな。
急遽、リットが魔法を使ったことにしたのだが、本人も嬉しそうだからいいだろう。
そろそろインフラ整備に人手を増やしたいと考えていると、夜になってモル爺さんの家にエルフが訪れた。
「サーシャ様からの伝言をお伝えいたします。オルホース男爵は予定通りに王都に到着したそうです。
ジャルダン子爵も王都に向かわれており、王宮で論争になるかと。他に、レイリッヒ伯爵も動いている模様。子爵の後ろ盾になるのではと、サーシャ様は心配されております」
「レイリッヒ伯爵? 誰だそれ?」
「ジャルダン領の近隣に領地を持つ貴族よ。辺境の貴族の名前ぐらいは覚えておきなさいよ」
ローザの言う通りだけどさ。
日本出身だから、貴族に疎いのは許してほしい。
それにしても伯爵まで子爵に味方するとは、論争では負けが濃厚かもな。
オルホース領の全てが丸っと無事ということはないだろう。
やはりタリアは取られるか。
苦渋の表情を浮かべる俺に、エルフは淡々と報告を続ける。
「それとサエマ様の予見通り、ジャルダン子爵の私兵が行軍の準備を始めたことを確認しています。国境まで進行してくるかもしれません。ボイル様、ドンガル様は戦準備を始めました。ドーマ様より、『このままだと戦争になるよ。サエマ、早く帰ってこい』と指示を預かっております」
ボイルとドンガルにはタリアの街の防衛を頼んだはず。
冒険者もドワーフも血の気の多い連中だから、サーシャやドーマの説得を聞かなかったんだな。
俺は溜息を吐き、『ビザーマスク』の仲間達を見回した。
「ちょっとタリアに行って、戦争を止めてくるわ」
「やれやれ、こちらでは街も作らんといかんのに、忙しいことじゃて」
「戦争、おいらも参加していいのかな?」
ボウエンは長い髭を摩りながら、呆れた表情を浮かべる。
そしてリットは、ウキウキと嬉しそうだ。
ローザに抱かれたニーナは元気よく手をあげる。
「パパー! お祭りなの?」
幼児に戦争はわからないよな。




