13話 ニーナの秘密
実はニーナには、異能というか、隠れた能力がある。
なぜか彼女は、植物と意思疎通ができるようなのだ。
異世界に転移して意識を失っていた俺と、籠に入っていたニーナ。あのとき、植物の蔓が幾重にも重なり、繭のように俺たちを包み込んで守ってくれていたらしい。
その繭を魔獣と勘違いしたオルホース男爵の私兵が、蔓を剣で切り裂いたことで、俺たち二人は助け出された。
ちなみに、その時の兵士がジェイクだったりする。
私兵団に守られ、街への帰還中に、ニーナが泣くと、森の樹々が離れ、ニーナが笑い声をあげると、樹々が近寄ってきたそうだ。
邸に戻って、遠征の報告をし、俺とニーナのことを聞いて、男爵も最初は戸惑っていたそうだ。
ニーナは異能があるようだし、転移したばかりの俺は、この異世界にはない登山装備を身に着けていたからな。
男爵も当初は、ニーナが俺の子供だと勘違いしていたという。
おっさんの傍に赤ん坊がいたら、そう思うよな。
樹々が左右に移動していく様を見て、思わず昔を思い出してしまった。
呆然と目の前の光景を眺めていると、傍にローザが立っていた。
「ニーナちゃんから『植物とお話ができる』と聞いていたけど、まさか意のままに操れると思わなかったわ」
「操るってより、頼むと願いを聞き届けてくれるらしいぞ」
「サエマ、私達、ニーナちゃんの能力について何も話してもらっていないんだけど」
「あははははっ……そうだったかな?」
「言い逃れはさせんぞ。キッチリと説明せんか」
ササッと横歩きで去ろうとした俺の肩をボウエンが鷲掴みにする。
「あの子は人族ではあるまい。亜人種なのか?」
「それがさ、男爵も調べたみたいだけど、よくわからないんだってさ」
「もう……頼りないんだから。村に戻ったら、エミリとフィアナに相談しなくちゃ。ニーナちゃんの素性や故郷だけでも把握しておきたいわ」
今ではオルホース男爵がニーナの祖父なんだけどな。
しかし、ローザの言うことも一理ある。
それにしても、ママ役が板についてきたな。
こんなに母性のある女性だったか?
男性が視線を合わすだけで、ナンパと間違えてナイフを飛ばしてくるのに?
目の前が通路のように広がったので、後を振り向いて合図を送る。
「道ができたから、これからボアの骸を取りに行くぞ」
「ちょっと待ってください、今のは何ですか?」
「ああ、さっきのは……リットの魔法なんだ」
「え? おいらが何かしたの?」
「小人族だけが使える大魔法だから秘密にしてくれ」
リットは間抜けな表情で、自分を指差しているが、俺は強引に彼の大魔法だと言い訳を続けた。
するとカイル、ザックス、ミオの三人は目を輝かせる。
「リットさん、尊敬します」
「師匠、俺に技を教えてくれ」
「私は魔法を教わりたいです」
「そう、おいらってカッコイイんだな」
調子に乗ったリットは満面の笑みで髪をかく。
『コボレの盾』の三人が単純な連中で助かった。
俺は三人に向けて片手を振る。
「Cランク魔獣が出てきたら、俺達が倒す。安心して雑魚を討伐してくれ」
「ありがとうございます」
カイル、ザックス、ミオは武器を構え、前方にできた道を走っていく。
それを見たリットは慌てて後を追いかけ始めた。
「待って、待って。おいらがボアの場所を教えるからー」
「どれ、ワシが坊主共のお守りをしてやるわい」
ボウエンは大戦斧を片手に持ち、ノシノシと歩いていく。
ニーナを抱き上げて振り向くと、後方でモル爺さんが見守っていた。
「こういうことだから、村の近くにある樹々は問題ない」
「まさか、こんな可愛い女の子に、あのような異能があるとは」
「オルホース男爵の孫だからな」
「さすが貴族の血統でございます」
「村の者達にはできるだけ秘密で頼むよ」
「わかっておりますとも」
モル爺は深々と頭を下げる。
この異世界では、貴族の血脈に魔法の才があるとされているからな。
平民でも魔法を使える者もいるのに、どうしてそう言われているのかは知らない。
モル爺には村の中へ戻ってもらい、俺、ニーナ、ローザの三人は皆の追うことにした。
「パパとママと一緒に散歩!」
「そうだな。ニーナ、楽しいだろ」
「うん!」
抱っこしているニーナの髪を撫でていると、ローザに尻を指で抓られた。
「ニーナちゃんの前からって、図に乗らないで。サエマと夫婦になった覚えはないからね」
「わかってるって。俺だって、その気はないぞ」
「なんですって。私だと不満ってわけ?」
「いやいや、ローザ、言ってることが変だろ」
「パパ、ママ、喧嘩しちゃダメ」
「そうね。ニーナちゃんの言う通りね」
俺には殺気を放ち、ニーナには笑顔を向ける。
女心は全く理解でいないな。
二十分ほど歩いていくと、二体のボアの骸の近くに皆が集まっていた。
俺を見て、リットが困った表情を浮かべる。
「一体はボウエンが運んでくれるけど、もう一体をどうやって運ぶの?」
「俺を含めて男性が四人……なんとか村まで運べないかな?」
「無理だって。あんな重い魔獣を持ち上げたら、すぐに潰れちゃうよ」
ボア一体……ヒグマぐらいの大きさだから、重量は四百キロほどか。
『コボレの盾』の少年二人に、小人族のリットと俺……ちょっと厳しいな。
どうしようか考えていると、ローザがジロリと俺を睨む。
さっさとなんとかしなさいと言いたいのだろう。
俺はニーナを地面に下し、ポーチから錠剤を取り出し、口に放り込む。
今回使ったのはパワー重視の『筋力増強剤』だ。
俺は一体のボアの骸を持ち上げて背中に担ぐ。
すごく重いが歩けないことはない。
するとボウエンはボアを軽々と背負い、鼻息を荒くする。
「『ドーピング』の効果が切れるのは、十分じゃろ。歩いていては間に合わんぞ」
「うぉぉー! 走っていくぞー!」
「パパー、頑張ってー!」
制限時間が過ぎて、魔獣に潰されるのは嫌だからな。
とにかくダッシュで帰るしかない。
「よし、皆で村に戻るぞ!」




