12話 村民からの不安
この異世界の森林には魔獣が生息している。
魔獣は空気中の魔素を吸い込み、体内に魔石を持っている。
そして植物の中には、魔素を吸収する魔植物がある。
エミリの説明では、魔植物の中には魔石はないらしいが。
人や動物にも魔素が影響しているなら、植物にも影響があるのは当然だ。
ちなみに、魔素とは、魔法の元になる粒子らしい。
異世界の人々が魔法を使えたりするのは、体内の魔力の他に魔素も関係しているそうだ。
俺にはよくわからないけどな。
籠いっぱいに収穫された喚き芋を見て、俺はゲンナリとした表情になる。
土から引き抜くと魔植物の芋類は、色々な叫び声をあげて、放置すると逃げ出すそうだ。
畑での光景を見なければ……植物が、どうして人語なんて話すんだよ。
モル爺さんの家で、ローザ、エミリ、フィアナの三人は 、リルイに教えてもらいながら、芋パンを作っている。
ニーナも芋を捏ねたり、楽しそうだ。
リルイはモル爺さんの孫らしい。
ボウエンとリットは『ボアを狩ってくる』と言って家を出て行ってしまった。
取り残された俺は、ダイニングで料理をする女性陣の様子を見ながら、リビングでモル爺さんと今後のことを話し合うことにした。
「タリアの街の住人を、この村に移住ですか……オルホース男爵のお考えはわかりますが、このような僻地の村に、街の人々を養う余裕などありませんが」
「今はそうだろうさ。あの芋って魔植物だろ。どこでも栽培することができるのか?」
「喚き芋のことですな。魔植物の芋の苗は『オリジンの大森林』の中に行けば、何処にでも植わっていますが、慣れた者が探さなければ、なかなか見つけられません」
「俺達は冒険者だ。それに森の民も仲間にいるからな。葉の形さえわかれば大丈夫だろ」
エルフは森の民とも言われている。
ドワーフは土の民だ。
まだ不安そうにモル爺さんは話を続ける。
「しかし、村の周囲を見てください。森林が外壁の間近まで迫っています。街にするには敷地の広さが足りません。今のまま住人が増えれば、畑を潰すことになります」
「俺に考えがある。明日になれば、その問題も解決するはずさ。任せてくれ」
「はぁ……」
俺の言葉を信じられずに、モル爺さんは首を傾けた。
それから一時間ほど経つ頃、玄関の扉を開けて、リットが入ってきた。
「ビックボアを三体、狩ってきたよ」
「早かったな」
「一体はボウエンが運んできてるけど、二体はまだ森の中なんだ。早く村の中に入れないと、魔獣が集まってくるよ」
「それならワシから、村の冒険者に声をかけてみましょう」
「助かる。リット、俺達は先にボウエンの元へ行くぞ」
俺とリットは家を出て、村の外壁に向かった。
モル爺さんは村の広場へと歩いていく。
外壁の門の前まで行くと、巨大なビックボアが倒れている。
その隣で、ボウエンが誇らしそうに、両腕を組んで待っていた。
「おっ、デカいな」
「どうじゃ。まずまずのボアじゃろう」
二メートルを越えるボアか……脳天を割られている。
さすがはボウエンだな。
ボアは猪系の魔獣で、その肉は脂身がのっていて、オークよりも美味い。
牙や骨の素材は低価格の冒険者装備などに使われている。
しばらく待っていると、モル爺さんと冒険者の他に、ニーナを抱いたローザも歩いてきた。
近づいてきた冒険者がペコリと頭を下げる。
その風貌から、まだ少年のようだ。
「タリアの街の冒険者の方々ですね。僕は村の冒険者で『コボレの盾』のカイルと言います」
「俺はザックスです」
「ミオといいます。よろしくお願いします」
「三人組のパーティだな。俺は『ビザーマスク』のサエマだ。俺のことを知ってるか?」
「「「……」」」
俺の問いに、カイル達は首を横に振る。
これでも『ビザーマスク』はCランクパーティーなのだが、まだまだ知名度が足りないようだな。
決意を新たにしていると、ローザが呆れた表情をする。
「タリアの街では有名でしょ。サボりのサエマって噂されているわよ」
「えっ……そんな噂があるのか?」
「魔獣討伐から帰ってきたら、資金のある間は店で飲み歩いてるからでしょ。だから、そんな風評を流されるのよ」
「戦士にも休息は重要なんだ」
「あんたは、ただの冒険者でしょ」
ぐぬぬっ……事実だけに言い返せない。
「あれ? どうしてニーナを連れてきたんだ?」
「リビングで、村長と話していたでしょ。だからニーナを連れてきたのよ」
「そっか、ローザありがとうな」
「パパー」
ローザの両手から受け取り、ニーナを抱っこする。
そして髪を撫でると、嬉しそうにしている。
「ニーナ、パパのお手伝いを頼みたいんだ」
「うん。パパを手伝う」
ニーナと俺を先頭に、ローザ、ボウエン、リット、『コボレの盾』の三人は、門を出て、傍の森林へ向かった。
「討伐したボアは、こっちの方向にあるよ」
「了解」
リットの示す方向へ歩いていき、森林の前でニーナを地面に下ろした。
そして腰を屈めて、俺は両手を合し、ニーナに頼む。
「あの森の奥に行きたいんだけど。樹々が狭くて困ってるんだよ」
「パパはニーナにお手伝いしてもらいたい?」
「そうそう。ガバーっとお願いするよ」
「うん。わかったー」
ニコニコと微笑み、ニーナはタッタッタと歩いていき、一本の樹に両手を添える。
「パパが、ここを通りたいの。だから道を開けてね」
ニーナが言葉を紡ぐと、樹々の根が動き出し、目の前で森の樹々が左右に分かれていく。
その様子を見て、ボウエンは目を見開き、呻き声を漏らした。
「いったいどういうことじゃ」
初めて見たら、そういう反応になるよな。




