11話 異世界の芋って
「おーい、門を開けてー!」
リットが大声で叫ぶと、外壁の門がゆっくりと両側に開く。
するとリットとフィアナの二人は、手招きして、先に村の中へ入っていった。
「俺達も行くか」
御者台に乗って、俺は後方の荷台に声をかけ、ゆっくりと荷馬車を発進させる。
俺達が村の中央にある広場に到着すると、周囲の家々から人々が姿を現した。
そして一人の老人が前に進み出て、俺達に頭を下げる。
「あの人は、コボレ村の村長さんで、モル爺さんだよ。こっちはおいら達のリーダーで、サエマのおっちゃん」
「紹介するなら、キチンとしろ。初対面なんだぞ」
「どうせ仲良くなるんだからいいじゃん」
俺に窘められても、リットは気にせず笑っている。
小人族は愛想が良く、人見知りをしない。
それはいいことなんだが、時と場所を選ばないのが難点だ。
「どうも、サエマです」
「先ほどは魔獣を蹴散らしていただき、感謝いたします」
「ちょっと聞きたいんだが、どうして村が襲われていたんだ?」
「今はハマイチゴと喚き芋の収穫時期でして。どちらも魔獣の大好物なのです」
モル爺さんの説明を聞いて、俺はミローネさんの話を思い出した。
「その芋って黄金芋のことか?」
「黄金芋? はて……そのような芋の名前を知りませんが?」
「おーい、ミローネ、こっちに来てくれ」
俺が声をかけると、ミローネが歩いてきて、胸に手を当て、モル爺さんに会釈をする。
「お久しぶりです、村長。今回もまた、あの特殊な芋を取引させてもらいたく参りました」
「おお、ミローネさん、嘆き芋は売れたようですな。それは何より」
やはり以前にミローネさんに芋を分けたのは村長だったか。
嘆き芋……そういえば『黄金芋』は、ミローネさんが名づけたんだった。
嘆き芋に、喚き芋……違う芋なのか?
二人の挨拶を眺めていると、ニーナを抱いたローゼが近寄ってきて、後から俺の足を踏みつけた。
「早くニーナちゃんの休める場所を確保して。話なら後でもできるでしょ」
「悪い、悪い、ちょっと気を抜いていたよ」
「パパなんだから、しっかりしてよ」
「へーい」
そう言うローザのほうがすっかりママをしているぞ。
「パパ、疲れたー」
「では、私の家に参りましょう。ゆっくりと寛いでください」
「モル爺さん、ありがとな」
「リットは少し遠慮しなさい」
「はいよ、フィアナ姉ちゃん」
フィアナ、リットンのことは任せた。
俺達一行は、 モル爺さんに案内してもらい、皆で村の北側にある家に向かった。
ローザ、エミリ、フィアナ、リットの四人は用意してもらった部屋で、ニーナと遊んでいる。
俺、ボウエン、ミローネの四人はリビングで、モル爺さんと話し合うことになった。
端的に、オルホース領の現状を伝え、俺は男爵から預かった短剣をテーブルの上に置いた。
この短剣の柄には男爵の家紋が彫られている。
「俺達と一緒にいるニーナは、オルホース男爵の孫なんだ。そして俺達は彼女の保護者ってわけさ」
「 フィアナさんから聞いております。サエマさんが男爵の代理として村に来ると」
「俺はただの冒険者だよ。ただ男爵からニーナを頼まれてね」
「いえいえ、信頼を置いているからこそ、オルホース男爵は短剣を託したのでしょう」
意図を理解したように、モル爺さんは何度も頷く。
「それで、私達は何をすればよろしいのでしょうか?」
「まずは、コボレ村の現状について、村の住人の数、食料の備蓄、農作物や、狩りについて。魔獣の活動、どんな情報でも教えてほしい」
「わかりました。思い出せる限り、お話いたします」
コボレ村の、村民の数は約二百人。
家屋の数は、約八十ほど。
空き家は約十。
それとは別に、納屋は村中に点在しているそうだ。
農作物や、狩猟した肉を備蓄する蔵は、一つずつあり、村の上役で管理しているという。
この世界の街や村では、外壁の中に畑があるのが一般的で、コボレ村も同様だ。
小麦も栽培しているが、あまり上手くいっていない。
それで、主食に芋類も加えているそうだ。
日本では米が主食だけど、海外では芋が主食の国もあったからな。
それほど不思議に思わない。
村の周囲にある大森林には魔獣の他に動物も多く生息している。
村の狩人達は弓や罠で、イノシシ、豚、ウサギなどを捕獲しているそうだ。
この村出身の冒険者もいるらしいが、低級魔獣の討伐で精一杯だという。
オークやビックボアは、Cランク魔獣だからな。
モル爺さんの話が終わると、ミローネさんが話を切り出した。
「先ほど、農作物の収穫時期と伺いましたが、見せてもらってもよろしいですか?」
「俺も興味がある」
「では、一緒に行きましょう」
家を出て、モル爺さん、俺、ミローネさんの三人は村外れにある畑に向かった。
畑で働いていた農夫達は、なぜかフライパンを手に持っている。
畑仕事といえば、鍬や鎌を使うのが普通だろ?
モル爺さんが、一人の少女に声をかけた。
「お客人が喚き芋の収穫を見たいといっておる。リルイや、お願いできるかな」
「いいですよ。お客様、両手で耳を塞いでおいてくださいね」
不思議に思い隣を見ると、ミローネは既に両耳を塞いでいた。
視線を戻すと、リルイは地面に片膝をつき、這っている蔦をグイと引っ張った。
「うわあぁぁ! 離せー! 土の戻せー! 助けてー!」
蔦と共に引き抜かれた芋が、二本の先端を足のようにバタバタとさせて喚いた。
有無を言わさず、リルイがフライパンで一撃を加える。
すると芋は事切れたように、先端をダランと伸ばして無言になった。
「これが喚き芋です。樹の実のような甘味があるんですよ。嘆き芋の方が、砂糖のように甘いですが」
「それは美味しそうですね」
ミローネは平然とリルイに同意する。
芋が、人の言葉でしゃべるなんて……口もないのに……
この芋、普通の作物ではなく、たぶん魔植物だよな。
これを食べるのか……オーク肉を初めて食べた時よりも、罪悪感で悩みそうだぞ。




