第24話(最終話): 再定義:新世界1.0.6 ――ゴミ拾いの伝説は、この空の下で永遠となる。
王都の空は、見たこともないほど透き通った藍色に染まっていた。
俺が書き換えたVersion 1.0.6。この世界の根幹プログラムには、もう「理不尽な絶望」という名のバグは存在しない。
「……信じられない。私、魔力が切れるどころか、失敗するたびに魔力最大値が増えてる……。レイン、あんた本当に世界を『失敗者が得をする』ように作り変えたのね」
シルフィが、指先から溢れる虹色の魔力を眺めながら呆然と呟く。
レベル1という呪縛から解き放たれ、彼女は今や「成長し続ける概念」へと昇華されていた。
「……マスター。……旧パーティの残党、及び汚職貴族たちの『存在ログ』を隔離しました。……処理の命令を待っています」
エステルが、より滑らかになった動作で報告する。
彼女の背後には、虚空に固定された「透明な牢獄」があり、そこにはヴォルグたちが魂だけの姿で閉じ込められていた。
「……あ、あ……頼む、レイン! 助けてくれ! 俺たちが悪かった! この世界の管理者になったんだろ!? 昔のよしみで、俺たちを元の地位に……!」
ヴォルグの醜い命乞いが、システムログとして流れてくる。
俺は、彼らを一瞥することさえしなかった。
「ヴォルグ。……君たちはもう、『敵』ですらない。……今のこの世界において、君たちの傲慢さと怠慢は、ただの『参照不能なゴミ(デッドリンク)』だ」
$$
\text{Garbage Collection:} \\
\text{Target: [Volg & Others]} \\
\text{Action: Move to [Unused_Sector]} \\
\text{Comment: "No longer relevant to the system."}
$$
俺が指を鳴らす。
一瞬で、ヴォルグたちの叫びが途切れた。
殺したのではない。彼らの「周囲に与える影響力」というログを0にし、誰からも認識されず、干渉もできない「存在しない通行人」として、世界の片隅へ廃棄したのだ。
彼らにとっては、死よりも残酷な、完全なる「無視」だ。
「……これで、この世界の掃除は終わりだ。……リーゼ、街の復旧ログはどうなってる?」
「はい、レイン様。……皆様の心の傷も、私の祈りで『経験値』へと変換しました。……今、この国はかつてないほどの希望に満ち溢れています」
リーゼが聖母のような微笑みを浮かべ、俺の手をそっと握る。
俺は、コントロール・センターの椅子に座り、満足げにモニターを眺めた。
……かつて、ゴミ拾いだと蔑まれ、奈落へ突き落とされたあの日。
俺の視界にあったのは、世界の「不具合」だけだった。
だが、今は違う。
俺の隣には、かつて「欠陥品」と呼ばれた最高の仲間たちがいる。
「……レイン。これから、どうするの? もう神様もいないし、あんたがこの世界の王様になるんでしょ?」
シルフィが、期待と少しの不安が混じった瞳で俺を見る。
俺は、操作パネルをゆっくりと閉じた。
「王になんて興味はない。……俺はただの『ログ廃棄係』だ。……これからも、この世界に溜まる小さなノイズや不具合を、こっそり掃除して回るさ。……お前たちと一緒にな」
「了解。……マスターの清掃ログを、私の存在理由として永続化します」
「ふふ、いいわね。……世界一の王女が手伝ってあげるんだから、一ビットのゴミも残さないわよ!」
「私も、どこまでもお供します。……この新しく、清らかな世界のために」
俺は立ち上がり、窓の外に広がる王都を見下ろした。
ゴミ拾いが、世界の因果律を書き換えた。
誰も知らない、世界の裏側のデバッガー。
俺たちの「世界の清掃」に、終わりはない。
だが、その仕事は――もう、孤独な作業ではなかった。
『システム:Version 1.0.6。……正常に稼働中。……素晴らしい一日を、管理者様』
俺は、不敵に、そして少しだけ満足げに笑った。
(完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
「欠陥職【ログ廃棄係】の理論武装」――これにて完結となります。
最弱のゴミ拾いが、システムの裏側をハックして神を超える。
そんな理屈っぽくてロジカルな物語を、ここまで追いかけてくださった読者の皆様に、
心からの感謝を。
「ゴミ」とは、価値を理解できない者が勝手につけたラベルに過ぎません。
レインたちが証明したように、たとえ世界から「不要」だと捨てられても、
自分の「価値」を定義できるのは、自分だけなのだと思います。
レインたちの清掃の旅は、きっと皆様の観測できない「ログ」の向こう側で、
これからも楽しく続いていくはずです。
もし、この物語が皆様の心の隅に、
少しでも「面白い」というログを残せたのであれば、これ以上の幸せはありません。
最後に、応援してくださった全ての皆様へ。
【ログ一括廃棄】――皆様の日常に潜む「退屈」という名のバグを、
この物語が少しでも消し去れたことを願って。
神崎ユウト




