第22話: システムの代弁者:アバター・ゼロ ――僕の「廃棄」は、君の「廃棄」さえも廃棄できるんだよ。
『デバッグを開始します。……対象:イレギュラー・データ「レイン」。……処理内容:完全抹消』
アバター・ゼロが淡々と告げると同時に、俺の目の前に立つ「黒い俺」が右手をかざした。
放たれたのは、漆黒の虚無。
俺が今まで数多の敵を塵に帰してきた、あの【ログ一括廃棄】だ。
「……マスターッ! 背後に……ッ!」
エステルが叫ぶ。だが、情報の海では「前」も「後」も意味をなさない。
「黒い俺」が放った廃棄の波動は、俺の存在そのものをインデックスから消去しようと、全方位から因果律を削り取っていく。
「【ログ一括廃棄】――対象、向かってくる廃棄コマンドの『実行権限』」
俺も即座にカウンターを当てる。
漆黒と漆黒が空中で衝突し、お互いの存在を打ち消し合う。
$$
\text{Collision Logic: [Erasure]} \iff \text{[Erasure]} \\
\text{Calculation: } \emptyset - \emptyset = \text{STALEMATE}
$$
『無駄ですよ、レイン。……私の演算能力は、このサーバーの全リソースと直結している。……君が一個人の意識ログで抗える領域ではない』
アバター・ゼロが指を鳴らすたび、「黒い俺」の数が増えていく。
十、百、千。
すべてが俺と同じ出力を持ち、一糸乱れぬ連携で「廃棄」を重ねてくる。
「……くっ、キリがないわね! 私の極大魔法も、あいつらが現れた瞬間に『不発ログ』として廃棄されてる!」
シルフィが歯噛みする。彼女の圧倒的な火力も、システムそのものであるゼロの前では、発動というプロセス自体を「無駄な処理」としてカットされてしまう。
リーゼの守りも、エステルの次元消去も、相手が「同じ権限」を持っている以上、後出しの廃棄によって上書きされ続けていた。
「……なるほど。同じスキル、同じロジックなら、リソース(演算量)の多い方が勝つ。……それがあんたの結論か」
俺は、押し寄せる漆黒の波を眺めながら、あえて操作パネルを閉じた。
『諦めましたか? ……賢明な判断です。……ゴミはゴミ箱へ。……それが世界の美しさだ』
「いいや、逆だ。……あんたの廃棄は『綺麗すぎる』んだよ」
俺は、一歩前に出る。
そして、自分の精神ログの最深部――第15話と第20話で回収した**『旧世界のゴミ(破損データ)』**を、自分自身の存在ログに直接連結させた。
「……レイン様!? そんな汚染されたログを自分に取り込んだら、あなたの存在が壊れてしまいます!」
リーゼが悲鳴を上げる。
俺の全身から、ドロリとした黒いノイズが溢れ出した。
それは、数千億人の絶望、数兆回の失敗、そしてシステムの整合性を乱す「未定義のエラー」の塊。
「【存在定義:自己汚染】。……俺の存在を、システムが読み取れない『破損ファイル(コリジョン)』として上書きしろ」
$$
\text{Self-Redefinition:} \\
\text{Status(Rain) } = \text{ [CORRUPTED_LOG]} \\
\text{Logic: } \text{Erasure}(X) \text{ only works on } \text{Valid Data}
$$
『……!? 何を……バカな。……自らをバグに変えるというのですか!?』
「黒い俺」たちが一斉に廃棄を放つ。
だが、その虚無の波動は、俺の体に触れた瞬間に「エラー:対象が不正な形式です」というログを残して霧散した。
綺麗なデータしか消せないアバター・ゼロにとって、**「最初から壊れているデータ」**は、消去のアルゴリズムが通用しない「定義外のゴミ」だった。
「あんたは完璧な管理者だ。だから、ゴミ(失敗)の価値を知らない。……俺はこの10年、ゴミを拾い、ゴミにまみれて生きてきた。……その『泥臭い経験』こそが、あんたの計算機には入っていない唯一の変数だ!」
俺はノイズを纏った拳を握り、アバター・ゼロへと肉薄する。
「【ログ一括廃棄】――対象、お前の『完璧な演算』、および『エラーを許容しないという潔癖なルール』!」
ドォォォォォォォォォォォォォォン!!
俺が放ったのは、不純物だらけの「廃棄」。
それはゼロの純粋な論理を汚染し、完璧だった彼の存在を、内側からボロボロのジャンクデータへと変質させていく。
『……あ……が……あ、ありえない……。……完璧な世界に、なぜ……不純物が……必要、なのだ……?』
「世界に不純物があるんじゃない。……不純物があるから、世界は面白いんだよ」
俺の一撃が、アバター・ゼロの胸部を貫いた。
システムの代弁者が、ノイズを上げて崩壊していく。
「……さて。……お掃除の総仕上げといこうか」
俺は、崩れゆくゼロの背後に浮かぶ、巨大な**【世界再起動スイッチ】**へと手を伸ばした。
第22話をお読みいただき、ありがとうございます!
「自分をあえてバグに変えて、消去不能な存在になる」という、
ログ廃棄係ならではの捨て身のデバッグ術、いかがでしたか?
ついにシステムの代弁者アバター・ゼロを沈めたレイン。
しかし、まだ「世界の初期化」は止まっていません。
「完璧なものより不純物がある方が強いという理屈、最高!」「レインの不敵な笑みが格好いい!」
そう感じていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いします!
皆さんの評価が、次回の第23話でレインが放つ「世界再定義」のパッチ容量を最大化します。
第2章、いよいよクライマックス。レインは神の椅子に座り、
この世界にどんな「新しい常識」を書き込むのか!?
次回、歴史がデバッグされる瞬間をお見逃しなく!




