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第21話: 書き換え不可(リードオンリー)への上書き ――「無敵」という設定ログごと、ゴミ箱へ捨ててやる。

バックドアを抜けた先に広がっていたのは、星の輝きも、データの奔流も届かない、どこまでも純白な「空白の部屋ヌル・スペース」だった。

 そこには家具も、壁も、神々しい玉座さえない。

 ただ、中央に一つだけ――黄金の輝きを放つ「巨大な水晶体」が浮かんでいた。


『個体名:レイン。……これ以上の深度へのアクセスは、世界の整合性(整合性)を破壊します。……警告:これより先は [Read-Only (書き換え不可)] 領域です』


 空間そのものが喋っているかのような、指向性のない声。

 その瞬間、水晶体の周囲に透明な幾何学模様の壁――**【絶対防御:アイギス・ルート】**が展開された。


「……ふん、出たわね。世界の守護プログラム。……レイン、私の魔力が『書き込み拒否』されてるわ。極大魔法をぶつけても、ダメージが0として強制確定フィックスされる!」


 シルフィが苛立ちをあらわに、七色の雷光を放つ。

 だが、その一撃は壁に触れた瞬間、パチンと弾けて消えた。

 威力が足りないのではない。システムが「その壁に変化を与えること」自体を禁止しているのだ。


「……マスター。……私の右腕(次元消去)も、対象を『認識』できません。……壁という概念そのものが、この世界の演算対象から除外されています」


 エステルが無機質な瞳を細め、右腕の出力を最大にするが、虚空を掴むように空振りする。

 物理も、魔法も、次元干渉さえも。

 「書き換え不可」という属性がついたデータに対しては、すべての『書き込み(攻撃)』がエラーとして処理される。


「なるほどな。……どんなに強力なプログラム(攻撃)をぶつけても、相手のソースコードが『編集禁止』なら、1のダメージさえ与えられない。……これこそが、この世界の真の『無敵』の正体か」


 俺は、激しく明滅する操作パネルを凝視した。

 視界には、黄金の壁に付与された、無数のプロテクト・タグが並んでいる。


$$

\text{Object Analysis: [Aegis_Root]} \\

\text{Attribute: [Read-Only]} \\

\text{Permission: [Creator Only]} \\

\text{Write Operation: [DENIED]}

$$


「……レイン様。……お手上げ、なのですか? このままでは、初期化フリーズが解けて、世界が……」


 リーゼが不安げに俺の服を掴む。

 俺は、ニヤリと口元を歪めた。


「お手上げ? まさか。……編集ができないなら、……『ファイルごと消す』のが、ゴミ拾いの常套手段だ」


「……えっ?」


 俺は、壁に向かって歩み寄り、その透明な膜にそっと手を触れた。

 通常、これに触れるだけで、侵入者のログは「存在しないもの」として消去されるはずだ。

 だが、俺の指先は、その「消去」という因果さえも、触れる直前に【ログ廃棄】で捨て続けている。


「いいか、シルフィ。……お前たちは『壁を壊そう』としていた。……だが俺は違う。……俺は、この壁が『ここに存在しているというインデックス(索引)』そのものを廃棄する」


$$

\text{Admin Command:} \\

\text{Discard [Index_Link] of [Aegis_Root]} \\

\text{Logical Process: } \text{The object exists, but the system "forgets" it's there.}

$$


「【ログ一括廃棄】――対象、この空間における【アイギス・ルート】の『登録情報』、および『座標維持ログ』」


 パキィィィィィィィン!!


 物理的な音ではない。

 世界という計算機の「メモリ」から、その絶対無敵の壁というデータが、一瞬にしてゴミ箱(NULL)へと放り投げられた音だ。


『エラー:対象オブジェクトを紛失ロストしました。……座標 0,0,0 にあるはずのデータを参照できません』


 黄金の輝きが、嘘のように霧散した。

 編集(攻撃)ができないなら、存在の登録エントリーを消せばいい。

 書き換え不可の壁は、その属性を保ったまま、世界のどこにも存在しない「迷子データ」へと成り果てた。


「……信じられない。……『無敵』の設定ごと、捨てちゃったの?」


「ああ。……設定なんてのは、管理者が認めなければただの文字列だ」


 俺は、守護プログラムが消え去った中央の水晶体――**【世界制御核ワールド・コア】**へと手を伸ばした。


 その時。

 水晶体の中から、一人の「人間の姿」をした影が現れた。

 それは、白衣を纏い、眼鏡をかけた、あまりにもこの世界に不釣り合いな――「開発者プログラマー」のような風貌の男だった。


『……やれやれ。まさか「廃棄デリート」ではなく「インデックス抹消アンリンク」で来るとはね。……Version 1.0.5 のバグにしては、少し賢すぎたかな?』


 男は、退屈そうに欠伸をしながら、俺たちを見据えた。

 そいつから放たれるのは、魔力でも神威でもない。

 この世界のすべてを「一文字」で終わらせることができる、圧倒的な『管理者権限』の重圧だった。


「……あんたが、この世界の『創造主』か」


『創造主? そんな大層なもんじゃない。……僕はただの、この実験用サーバーの「監視員オブザーバー」、アバター・ゼロだ。……さて、予定外のパッチ適用の時間は終わりだ。……君たち「不具合」を、手動でクリーンアップさせてもらうよ』


 アバター・ゼロが指を鳴らす。

 その瞬間、俺の目の前に、俺と全く同じ姿、全く同じ能力を持った**『黒いレイン』**が現出した。


「……鏡合わせのデバッガー、か。面白い……。……どっちの廃棄デリートが速いか、試してみようじゃないか」

第21話をお読みいただき、ありがとうございます!

「無敵の壁を設定ごと消去する」という、デバッガーならではの極限ハック。

「編集ができないならファイルごと消せ」という理屈、楽しんでいただけましたか?


ついに現れた、世界の代弁者「アバター・ゼロ」。

彼が繰り出したのは、レインと全く同じ能力を持つ「自分自身の影」でした。

論理と論理、廃棄と廃棄がぶつかり合う、究極の同職対決!


「神の正体がプログラマーっぽくてゾクゾクする!」「自分自身との戦い、どう勝つのか見たい!」

そう感じていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いします!


皆さんの評価ログこそが、鏡合わせの自分を打ち破るための「唯一の差異バグ」となります。

次回第22話、システムの代弁者:アバター・ゼロとの頂上決戦。

「僕の廃棄は、君の廃棄さえも廃棄できるんだよ」

次回、論理の泥仕合デバッグ・ウォーズにご期待ください!

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