第19話: 世界の裏口(バックドア) ――物理肉体という「形式(フォーマット)」を廃棄し、純粋なデータへ。
『システム:初期化プロトコル、フェーズ1。……物理演算サーバーの停止を開始。……重力、熱力学、次元維持のログを、順次NULL(無効)に書き換えます』
空が剥がれ落ち、王都の上空に露出した無機質なソースコードの海――【根源階層】から、死の宣告が降り注ぐ。
その瞬間、世界から「色」が消えた。
大地はデータの塵となって崩れ去り、建物はテクスチャを失って立方体の集合体へと先祖返りしていく。
システムの保護を失った民たちの肉体が、一ビットずつ存在確率を失い、霧のように消滅していく光景がモニターに映し出された。
「……マスター。……王都の全域で、存在ログの『破損』を検知。……私たちの『存在確率』も、残り10秒で0%になります」
コントロール・センターの防衛障壁さえもが、初期化の奔流に飲み込まれ、ノイズを上げている。
エステルの瞳が警告の赤に染まり、リーゼは消えゆく世界のために必死に祈りを捧げている。シルフィは、自分のレベル99の魔力が、初期化コマンドによって根底から「存在しないもの」として廃棄されていくことに、戦慄していた。
「……なるほど。これが『創造主』のやる、掃除ってわけか。……容赦がないな」
俺は、コントロール・センターの椅子から立ち上がり、床に手を突き立てた。
俺の手の中には、国王から奪い取った【管理者権限(暫定)】が、黄金の光を放っている。
「だが、残念だったな。……俺は最弱職の『ログ廃棄係』だ。……ゴミ箱(無限の宝箱)の中身をサルベージするのは、お前たちより遥かに手慣れてる」
俺は、操作パネルを空中に叩きつけ、俺のパーティ全体に、新たな「存在定義パッチ」を書き込み始めた。
「シルフィ、お前の無限のマナを寄越せ。……リーゼ、俺たちの『意識ログ』を、肉体から一時的に切り離して(バックアップ)保護しろ。……エステル、お前の『次元消去』で、俺たちの肉体の物理的な結合を、一瞬で断ち切れ」
「レイン、貴方……まさか、自分たちの肉体を……廃棄するつもり!?」
「いいや、再定義だ。……物理的な肉体(フォーマット:PHY)を持ったままでは、あの根源階層のデータの海は泳げない。……なら、俺たちの存在を、あの海に適応した『情報体(フォーマット:DATA)』に、書き換えればいい」
$$
\text{Existence Redefinition:} \\
\text{[Party Members]} \xrightarrow{\text{Discard [Physical Form]}} \text{[Soul Logs (意識データ)]} \\
\xrightarrow{\text{Apply [Data Packet Patch]}} \text{[Informational Entities]}
$$
「【ログ一括廃棄】――対象、俺たちの物理肉体という『定義』、および『それに付随する質量・熱量ログ』」
$$
\text{Causality Execution:} \\
\text{Status: Physical} \xrightarrow{\text{Log Erasure}} \text{Status: DATA} \\
\text{Success Probability: } 100\% \text{ (Authorized)}
$$
ドォォォォォォォォォォォォォン!!
コントロール・センターが、漆黒のノイズに飲み込まれた。
爆発音はない。ただ、俺たちの身体が、光と闇の粒子へと分解され、それが数億、数十億の「文字列」へと再構築されていく。
「……ひっ!? 私、自分が……文字列に……!?」
シルフィが、自分の腕が0と1の数字に分解されていくのを見て、悲鳴を上げる。
リーゼの祈りもまた、純粋な『光のデータ』へと変換され、エステルの機械の身体は、最も洗練された『戦闘プログラム』へと昇華された。
「……変換、完了。……マスター。……私の感覚ログが、全サーバーのデータストリームと同期しました。……世界の『裏口』、特定に成功」
データの海となったエントランスに、エステルの声が響く。
彼女の指先が示す先には、初期化コマンドが流れ出す「裂け目」――システムの最深部へ通じる、不完全なデバッグ用ポートが露出していた。
「……さあ、行くぞ。……神がいない世界、神の初期化。……そんなもの、俺の論理で上書き(デバッグ)して、俺たちの『新世界1.0.6』を再定義してやる」
俺たちは、データの尘と化したコントロール・センターを後にし、世界の剥がれ落ちた空の向こう側――システムの根源階層へと、ダイブした。
---
そこは、光も音も、物理法則も存在しない、ただの「データの濁流」だった。
数億の文字列が光の川となって流れ、その奥底には、かつてこの世界を構成していた『旧世代のプログラム(Version 1.0.1〜1.0.3)』の残骸が、巨大なゴミ山となって沈んでいる。
『システム:不正なデータパケットを検知。……ウイルス除去プロトコルを起動します』
データの海から、無機質な「防衛プログラム」たちが、幾何学的な結晶体の姿をとって、俺たちへと迫る。
だが、今の俺たちには通用しない。
「……『消去』という不要データは、……私が、次元ごと廃棄します」
エステルが、データの海を自在に泳ぎ、その右腕(次元消去プログラム)で、防衛プログラムたちの『存在権限(因果律)』を、直接切り裂いて消去していく。
「面白い。……世界の裏側は、俺にとっては最高の『検証場』だ」
俺は、押し寄せるデータの濁流を、操作パネルを叩いて自在に整流し、味方へのバフや敵へのデバフへと変換していく。
ゴミ拾いが、神のサーバーへと乗り込んだ。
俺たちの「世界の清掃」は、ここから、創造主との直接対決へと、突入する。
第19話をお読みいただき、ありがとうございます!
ファンタジーから一気に電脳戦へ! 「物理肉体を純粋なデータへ変換する」という、
管理者権限ならではのえげつない無双。
ソースコードの海を泳ぐエステルたちの新ビジュアル、いかがでしたか?
ついにシステムの根源階層へと乗り込んだレインたち。
そこは、世界の常識が通用しない「創造主の領域」です。
「デジタルなファンタジー設定が最高!」「エステルの新ビジュアルが見たい!」
そう感じていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いします!
皆さんの評価ログこそが、初期化を止めるための唯一の「外部データ」となります。
次回第20話、レインは根源階層に漂う「Version 1.0.1〜1.0.3」の残骸を、
自らの拠点としてサルベージします。
かつて捨てられた「失敗ログ」が、神を打倒する力となる!
次回もお見逃しなく!




