第18話: 0%を100%に書き換えろ ――一生分の「幸運」を、一秒で使い果たさせてやる。
「あはは! これ、どうやって止めるのー!?」
スプリンクラーから降り注ぐ水の中、カイが無邪気に笑いながら短剣を振り回す。
彼の周囲では、ショートした機械の火花さえもが「たまたま」彼を避け、逆に俺たちの足元を狙い撃ちするように弾けていた。
エステルやシルフィの攻撃も、不自然な突風や足元の滑りによって、ことごとく軌道を逸らされる。
「……マスター。……計算不能です。私の『必殺』という結果が、存在しないはずの確率論によって上書きされ続けています」
「落ち着け、エステル。……仕組みは理解した」
俺は操作パネルを空中で叩く。水滴がパネルを濡らすが、俺は【ログ廃棄】で「指とパネルの間の水分」のみを瞬時に廃棄し、誤作動を許さない。
「カイ。お前の『幸運』は、システムが吐き出す乱数の偏りだ。……そして、この世界という計算機には、一度に生成できる『幸運の総量』に限界がある」
「えー? 難しいことは分かんないけど、俺、ずっとツイてるから大丈夫だよ!」
「……果たして、いつまでかな?」
俺は管理者権限を行使し、カイの個体ログに眠る**『未来の期待値(幸運予約ログ)』**を強制的に展開した。
$$
\text{Log Analysis: [Lucky Hero Kai]} \\
\text{Total Luck Pool: [60 Years of Lifetime Fortune]} \\
\text{Consumption Mode: [Dynamic Bias]}
$$
「お前の幸運は、未来の成功を『先食い』することで成立している。……なら、その『一生分の幸運』を、今この瞬間に、どうでもいい事象に全て吐き出させてやる」
「……えっ?」
俺は操作パネルに新たなパッチを書き込む。
【ログ一括廃棄】――対象、カイの『幸運の待機時間』、および『発動の優先順位』。
「【事象強制確定】――今から一秒間、お前に『100兆回連続で宝くじに当たる』レベルの幸運を、強制的に一括適用する」
$$
\text{Luck Overdrive:} \\
\text{Probability of [Trivial Event: Not Slipping on Water]} = 0.0000001\% \\
\text{Force Execute: [SUCCESS] } \times 1,000,000,000 \text{ times}
$$
ドォォォォォォォォォォン!!
カイの身体が、目に見えるほどの黄金の光に包まれた。
彼が足を踏み出した瞬間、地面のすべての水滴が彼を避け、空気中の酸素濃度が彼にとって完璧な比率になり、たまたま飛んできた埃が彼の肩の凝りを解消する。
一秒間に数億回の「幸運な出来事」が、彼に降り注いだ。
「あ、あれ……? なんか、身体がすごく軽……」
一秒後。
光が消えた。
『警告:対象 [カイ] の幸運リソースが枯渇しました』
『ステータス更新:[Lucky Hero] → [Unlucky Commoner (不運な凡人)]』
『幸運残高:-99,999,999 (破産状態)』
「……さて、終わりだ」
俺は静かに告げる。
カイが、慌てて俺に向かって短剣を突き出そうとした。
だが、その瞬間。
彼の足が、何もない平らな床で、この世の物理法則とは思えない角度で滑った。
さらに、彼の手から離れた短剣は、たまたま跳ね返った壁に当たり、自分自身の脚に突き刺さった。
「ぎゃああああ!? なんで!? 俺、こんなの初めて……!」
「お前は一生分の運を、さっきの『滑らない』とか『空気が美味しい』とかいうゴミみたいな事象で使い切ったんだ。……これからの人生、お前には『不運』しか訪れない」
$$
\text{Final Resolution:} \\
\text{Kai's Future Success Rate} = 0.0000\% \\
\text{Rain's Attack Success Rate} = 100\%
$$
俺はエステルに頷く。
エステルは無慈悲に、カイの首筋に剣を突き立てた。
以前なら「たまたま剣が折れる」はずのその攻撃が、今は完璧に、1ミリの狂いもなく急所を捉えている。
「あ……あ……嘘だ……俺の……幸運……が……」
「ゴミ箱(無限の宝箱)に捨てておいてやったよ。……お前の運は、これからは俺の拠点の『スペア・バッテリー』として再利用させてもらう」
カイの身体が黒いノイズに包まれ、そのまま拠点の地下にある『収容所(ゴミ箱)』へと転送された。
「……お疲れ様、レイン。やっぱり、あんたのやり方が一番エグいわね」
シルフィが呆れたように、だがどこか感心した様子で肩をすくめる。
リーゼは静かに祈りを捧げ、エステルは汚れた右腕を「洗浄」していた。
「……ふぅ。これで、不規則なバグ(乱数)の処理も完了だ」
俺はショートしたパネルに手をかざし、一瞬で『破損ログ』を廃棄して修理を終える。
だが、安堵の時間は短かった。
コントロール・センターのメインモニターに、王国の全土を覆うような、巨大な『黒い幾何学模様』が浮かび上がった。
『システム・アップデートを開始します』
『パッチ内容:[World_End_Event] の実行』
『管理者権限を拒絶。……全ディレクトリを初期化します』
「……!? レイン、何これ!? 王都の空が、真っ黒に……!」
シルフィが叫び、窓の外を指差す。
そこには、空そのものが「剥がれ落ち」、その下から無機質な「ソースコードの海」が露出している光景が広がっていた。
「……なるほど。システムのバグを掃除しすぎたせいで、管理側(創造主)が『やり直し(再起動)』を決めたってわけか」
俺は、消えかかろうとする操作パネルを、力任せに掴み取った。
「勝手にフォーマット(初期化)させてたまるか。……ここからは、俺がこの世界というサーバーを『物理的』に奪い取ってやる」
ゴミ拾いが、神の電源プラグを掴み取る。
第2章・後半戦。
――世界再起動との、デッドヒートが始まった。
第18話をお読みいただき、ありがとうございます!
「一生分の幸運を一秒で使い果たす」という、レインの容赦ない
ロジカル・デバッグ。カイの無様な破産、楽しんでいただけましたか?
ついに、世界そのものが「再起動(初期化)」へと動き出しました。
これまで積み上げてきた全てが消去されるという、最大の危機。
「世界の空が剥がれる描写、ゾクゾクする!」「レインが神にどう抗うのか見たい!」
そう感じていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いします!
皆さんの評価ログこそが、初期化を止めるための唯一の「外部データ」となります。
第19話、レインは剥き出しになった世界のソースコードへ直接ダイブし、
「創造主」の正体へと迫ります。
第2章、さらなる深淵へ。
明日からは1日1話の投稿予定です。次回もお見逃しなく!




