第17話: 論理(ロジック) vs 幸運(フォーチュン) ――「100%の必然」を「0.0001%の偶然」が踏み躙る。
「あー、やっと着いた! ここが王都のコントロール・センターってやつ? 意外とボロい工場なんだなー」
静寂に包まれていた廃工場のエントランス。
俺が張り巡らせた、侵入者の『存在ログ』を1ビットの狂いもなく検知する超高度セキュリティ・グリッドを――そいつは、鼻歌混じりに通り抜けてきた。
「マスター。……個体名:カイ。職業:【幸運の勇者】。……不可解です。彼は現在、第3障壁の自動迎撃レーザーを『靴紐を結び直すために屈んだ』という動作のみで回避しました」
エステルが困惑したように報告する。
モニターに映るその男、カイは、見た目こそどこにでもいる軽薄な少年だが、その周囲の「因果律」が異常なまでに歪んでいた。
「……計算が合わん。あのレーザーの射線は、屈んだ程度で避けられる角度じゃないぞ」
「たぶん、たまたま地面が数ミリ沈んだか、レーザーの発振器が一瞬だけ熱膨張で歪んだのかもね。……嫌な予感がするわ、レイン。あいつ、理屈が通じないタイプよ」
シルフィが忌々しそうに魔力を練り上げる。
俺は椅子から立ち上がり、エントランスへと向かった。
扉が開くと、そこには抜けたような笑顔を浮かべたカイが立っていた。
背負っているのは、伝説の聖剣ですらない、その辺の道具屋で買ったような「なまくら」の短剣。だが、その短剣には『何故か一度も刃毀れしたことがない』という異常なログが蓄積されていた。
「よお、あんたが新しい管理者のレインだろ? 王宮の偉い人たちが困ってたぜ。勝手に金を鉄くずに変えたり、天使を壊したりしてるってさ。悪いけど、ちょっとお仕置きしに来たわ」
「お仕置き、か。……【幸運の勇者】。お前のログを解析させてもらったが、レベルはわずか30。ステータスも平凡。……本来なら、エステルの一撃を待たずとも、俺が『存在を廃棄』して終わる話だ」
「へへ、よく言われるよ。でもさ、俺、今まで負けたことないんだよね。……なんか、運がいいから」
「……試してみるか。……【ログ一括廃棄】――対象、カイの持つ短剣の『物理的結合ログ』」
俺が操作パネルを叩き、因果を確定させる。
本来なら、彼の短剣は一瞬で塵となって消えるはずだった。
$$
\text{Causality Execution:} \\
\text{Target: [Iron Dagger]} \xrightarrow{\text{Discard [Structure Log]}} \text{Status: DESTROYED} \\
\text{Success Probability: } 100\%
$$
だが。
カチッ、と。
俺の指先が操作パネルを叩いた瞬間、何故かパネルの表面に一粒の埃が挟まり、信号が0.01ミリ秒だけ遅延した。
さらにその瞬間、カイが「あ、くしゃみ出そう」と鼻を擦った。
そのわずかな姿勢の変化と信号の遅れが重なり、俺の『廃棄ログ』の座標が、わずか1ピクセルだけズれた。
『ミス:対象を見失いました』
「……なんだと?」
「おっと、今の危なかった? なんか空気がピリッとしたなー。あ、そうだ。お返しにこれ、受けてみてよ!」
カイが適当に短剣を振り回す。
技術も、魔力もない。素人の滅茶苦茶なスイングだ。
だが、その刃先が、俺の拠点の『絶対防御障壁』の、10万年に一度だけ発生する「魔力の干渉縞が重なる瞬間的な盲点」を、針の穴を通すような精度で貫通した。
「……ッ!? リーゼ、防御!」
「はい! ……えっ、障壁が、すり抜けて……!?」
リーゼの聖なる盾さえも、カイが「たまたま足元の石に躓いた」ことによる不規則な挙動で回避され、そのなまくら刀が俺の胸元に迫る。
$$
\text{Probability Anomaly:} \\
\text{Attack Hit Rate: } 0.000001\% \xrightarrow{\text{RNG Roll: 000001}} \text{Status: CRITICAL HIT}
$$
「……チッ。エステル、弾け!」
キィィィィィィィン!!
エステルが割り込み、間一髪で短剣を弾き飛ばす。
だが、弾き飛ばされた短剣は、放物線を描いて天井の『非常用スプリンクラーのスイッチ』にたまたま直撃した。
降り注ぐ水。
精密機械の塊であるコントロール・センターが、ショートを起こして火花を散らす。
「……あはは、ごめん! なんか大変なことになっちゃったな!」
「……なるほど。これが『幸運』。……ロジックを無視した、システム上の『乱数バグ』そのものか」
俺は濡れた前髪をかき上げ、冷徹な瞳でカイを見つめた。
こいつは強いのではない。
世界という計算機が、こいつに対してだけ、常に『最も都合の良い乱数』を吐き出し続けているのだ。
「面白い。……確率のゆらぎ程度で、俺のデバッグが止まると思うなよ」
俺の脳内演算が加速する。
100%の必然が効かないなら、**『幸運というリソースそのもの』**を枯渇させてやるまでだ。
「第ニ回戦だ、勇者。……お前の運が尽きるのが先か、俺の論理が世界を上書きするのが先か……証明してやる」
第17話をお読みいただき、ありがとうございます!
「靴紐を結び直してレーザーを避ける」という、
ロジカルな主人公が最も嫌う『運ゲー』の体現者、カイ。
レインの緻密な計算が「埃ひとつ」で狂わされる展開、いかがでしたか?
「この勇者、イラつくけど強い!」「レインがどうやって運をハックするのか見たい!」
そう感じていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いします!
皆さんの評価が、レインの次なる作戦「幸運の強制消費」の成功率を100%に固定します。
次回第18話、論理vs幸運、決着!
「運がいいなら、その運を今すぐ全部使わせてやるよ」
レインのえげつない『確率デバッグ』が炸裂します。次回もお見逃しなく!




