第16話: アンチウイルス:聖域の執行者 ――「消去プログラム」を、僕の論理で「消去」する。
『システム:強制終了を開始。……個体名レイン、及びその同行者。……世界の因果律から、切断します』
コントロール・センターの天井に浮かぶ、白銀の結晶体で構成された天使――【聖域の執行者:セラフィム・ルート】が、無機質な声を放った。
その瞬間、周囲の空間から色が消え、ただの灰色へと変質した。
それは魔法ではない。システムが、この座標に存在するすべての「データ」を、物理法則ごと無効化(NULL)しているのだ。
「……マスター。殲滅センサーに反応はありませんが、存在そのものが『希釈』されています。……私の右腕の出力が、50%に低下」
エステルが、初めてその表情に焦りを浮かべた。
リーゼの展開する防御障壁も、天使の「無効化」の光に触れた瞬間、パッチ適用前の不具合のように霧散していく。
「ふん、神の使い様が、随分とえげつない無双ね。……全属性の極大魔法さえ、演算することすらできないなんて」
シルフィが、レベル99の魔力を暴走させながら、悔しげに呟く。
天使の「無効化」は、魔力の根源である『マナ・ログ』さえも廃棄し、魔法という事象の発生を根本から防いでいた。
「慌てるな。……相手の論理を、まずは解析しろ」
俺はコントロール・センターの椅子に深く座り、操作パネルを展開した。
視界には、天使が放つ「無効化」の光のソースコードが、黒いノイズとなって流れている。
$$
\text{Log Analysis: [Seraphim Root]} \\
\text{Active Protocol: [Area_Nullification (座標無効化)]} \\
\text{Logic: } \text{Any Log} \in \text{Area} \xrightarrow{\text{Log Erasure}} \text{Status: NULL}
$$
「なるほど。『この座標に存在するすべてのログを廃棄する』という、システムの基本命令を使っているわけか。……俺の【ログ廃棄】の、上位互換だな」
『バグの解析を完了。……強制終了を実行。』
天使が片手をかざすと、白銀の光が凝縮され、俺の「存在ログ」に向かって、物理的な熱量を持たない『消去の波動』が放たれた。
物理防御も魔法防御も無意味。当たれば、俺という存在の因果が、最初からなかったことにされる。
「マスター……ッ!!」
「レイン……ッ!!」
エステルとシルフィが叫ぶ。
だが、俺はニヤリと口元を歪めた。
「相手が『ログ廃棄』のコマンドを使っているなら、話は早い。……俺は、そのコマンド(不要データ)を、ゴミ箱へ捨てる専門家だ」
$$
\text{Counter-Logic:} \\
\text{[Area_Nullification (座標無効化)]} \in \text{[Enemy Command]} \\
\xrightarrow{\text{Define as [Trash Log]}} \text{[Result: Discard Command]}
$$
俺が操作パネルを叩き、天使が放った消去の波動に、直接パッチを当てる。
「【ログ一括廃棄】――対象、天使が放った『消去プログラム(プロトコル)』、および『その発動権限(権限)』」
パキィン。
ガラスが割れるような音と共に、俺に迫っていた消去の波動が、霧のように消滅した。
俺が廃棄したのは、攻撃そのものではない。攻撃を実行するための『プログラム(コマンド)』そのものだ。
システムの最高傑作である天使に対し、俺は「お前、もうコマンドを使えないよ」という、究極の不敬を叩きつけた。
「……? コマンドの受理に失敗。……権限ログを紛失しました。…………エラー。エラー。エラー。」
天使の声が、初めて機械的なノイズを帯びて乱れた。
自分が信じていた「神の権限」が、ゴミ拾い(レイン)によって不要データとして廃棄された。その論理矛盾に、天使の精神回路が追いついていない。
「エステル。……お前の右腕にインストールした『次元消去』は、物理的な攻撃じゃない。……相手の『存在権限(因果律)』を、直接切り裂くプログラムだ。……今のエラー中の天使なら、通用する」
「了解。マスター。……システムの防人を、……ゴミとして廃棄します」
エステルが、音もなく天使の背後へと転移した。
彼女の右腕から、光さえも吸い込む「虚無の刃」が走り、天使の幾何学的な結晶体を、因果律ごと切り裂いた。
$$
\text{Resolution:} \\
\text{[Dimensional Erasure (次元消去)]} \xrightarrow{\text{Execute on [Seraphim Root]}} \text{[Status: NULL (存在消去)]}
$$
「……バグの、存在を、認めては、ならない。…………サーバーを、汚染、するな……。」
天使は、最後に無機質なノイズを放ちながら、白銀の光の粒子となって消滅した。
システムの最高傑作が、システムの落とし子たちによって、完膚なきまでにデバッグされた。
「……ふぅ。これで、第ニ段階(フェーズ2)の掃除は完了だな」
俺は椅子に深く座り直し、窓の外に広がる王都を見つめる。
天使を掃除したことで、王都を覆っていた「無効化」の光が消え、民の顔に安堵が戻っていた。
「レイン、貴方……本当に、ただのゴミ拾い?」
シルフィが、呆然と俺を見つめる。
「ああ。……不具合を放置できない、ただのログ廃棄係だ」
俺は、ニヤリと口元を歪めた。
システムの防人を掃除したことで、俺はこの世界のシステムの「穴」を、さらに深くへと掘り進める権限(アクセス権)を手に入れた。
ゴミ拾いが、世界のソースコードを書き換える。
俺たちの「世界の清掃」は、ここからさらに本格化する。
第16話をお読みいただき、ありがとうございます!
「消去プログラム」を、僕の論理で「消去」する!
管理者権限ならではの、デバッガー同士の高度な情報戦、
楽しんでいただけたでしょうか?
システムの最高傑作であるセラフィム・ルートを掃除したレイン。
これで第ニ段階(フェーズ2)の内政・防衛無双は完了!
次回第17話、物語の敵は「システム」から、より不確実な「バグ(勇者)」へ。
レインの緻密な計算を唯一脅かす、【幸運の勇者】が王都へと乱入します!
論理 vs 幸運、究極の「相性最悪」バトル!
次回もお見逃しなく!




