第12話: 因果の清掃人(イレイザー) ――「世界」というシステムを、僕の色に書き換える。
「……許可する。レイン、貴殿にこの王国の『管理者権限』を、暫定的に譲渡しよう」
国王の、震えるが、覚悟を決めた声が競技場に響いた。
大貴族たちから悲鳴のような反対の声が上がったが、王はそれを手で制する。目前に迫った魔王軍という「滅びのバグ」を前に、プライドを捨てて実利を取ったのだ。
「賢明な判断だ、陛下。……では、デバッグを開始する」
俺はコントロール・センター(元・廃工場)へ意識を飛ばし、王国の基幹システムへとアクセスした。
$$
\text{System Authorization: [Royal Family]} \xrightarrow{\text{Transfer}} \text{ [Rain]} \\
\text{Authority Level: [Administrator (Temporary)]}
$$
『警告:未知の管理者による、システムの再定義(パッチ適用)が開始されました』
俺の脳内に、世界を構成するソースコードが流れ込んでくる。
地形、天候、因果律、そして個体の存在確率。
俺は、その膨大なデータの中から、王都に迫る「魔王軍」の魔力波形だけを抽出した。
「エステル、リーゼ。……そしてシルフィ。お前たちの力を、俺の『権限』で結合させる。……準備はいいか?」
「オールグリーン。マスター。……いつでも『殲滅』できます」
「はい、レイン様。……皆様の命のログ、私が守り抜きます」
「ふふ、王女としての初仕事ね。……全属性の極大魔法、充填完了よ!」
3人が俺の周囲に集まり、手を重ねる。
俺を中心とした、前代未聞の【因果律・デバッグ・パーティ】の結成だ。
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王都の外壁。
そこでは、数万の魔王軍の尖兵が、地平線を埋め尽くしていた。
王国の騎士団は絶望に顔を青ざめ、誰もが滅びを覚悟していた。
「な、なんて数だ……! これが、本物の魔王軍……!」
だが。
魔王軍が突撃を開始しようとした、その瞬間。
「【ログ廃棄】――対象、魔王軍の『存在確率』および『熱力学法則』」
王都の中心から、誰の耳にも聞こえない、だが世界を震わせる「声」が放たれた。
$$
\text{Causality Refinement: [War]} \\
\text{Step 1: } \text{Apply [Log Erasure] to [Enemy Existence Probability]} \\
\text{Result: } 100\% \to 0.000000001\%
$$
ドォォォォォォォォォォォォォン!!
爆発音すらなかった。
ただ、数万の魔王軍のうち、99.9%が、一瞬にして「最初から存在しなかったログ」へと書き換えられ、霧のように消滅したのだ。
残った数百の、辛うじて存在を保った上級魔族たちが、驚愕に目を見開く。
だが、彼らに安息の時間は与えられない。
「第ニ工程(フェーズ2)。……シルフィ、リーゼ、エステル。行け」
「ええ、見てなさい! ――『全属性・同時展開』!」
シルフィが指先を鳴らすと、上級魔族たちの頭上に、七色の極大魔法陣が、詠唱も充填もなく現出した。
本来なら王都を灰にするほどの威力の魔法が、数百の魔族だけに集中して降り注ぐ。
「……? 攻撃が……効かない……?」
一人の上級魔族が、リーゼが展開した「無効化の結界」によって、自分の攻撃ログが廃棄されていることに気づく。
「……『生存』という余計なログは、私が裁断します」
そして、生き残った魔族たちの背後に、エステルが音もなく現れた。
彼女の義肢( re-defined arm)が、魔族たちの「物理的耐久ログ」を無視し、存在そのものを切断・廃棄していく。
わずか一分。
王都を滅ぼすはずだった数万の魔王軍は、レインたちが一歩も動くことなく、システムのゴミ箱へと「清掃」された。
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静まり返る王都。
騎士団も、国民も、国王も、何が起きたのか理解できず、ただ呆然と空を見上げていた。
俺は、競技場の中心で、結合を解除した。
シルフィはレベル99の魔力を使い果たして俺に寄りかかり、リーゼは祈りを捧げ、エステルは静かに刀を納める。
「……陛下。デバッグ、完了です。……『常識』は、綺麗に掃除しておきました」
俺は、玉座に座る国王へと視線を向ける。
国王の瞳には、感謝ではなく、本物の「恐怖」が宿っていた。
一瞬にして数万の軍勢を消し去る力。それは王という「システム内の最高権力」さえも、一瞬で「ゴミ」にできる力だからだ。
「レ、レイン……貴殿は、一体……」
「ただのログ廃棄係ですよ。……さて、陛下。契約通り、この王国のシステム管理は、これより俺が引き受ける。……反論は、認めません(ログに残りません)よ」
俺は、国王に背を向け、エステル、リーゼ、シルフィと共に、競技場を後にする。
俺を見捨て、ゴミだと蔑んだ世界。
これからは、俺という『管理者』が、その歪んだシステムを根底から書き換えてやる。
ゴミ拾いが、世界の因果律を支配する。
俺たちの「世界の清掃」は、ここから本格化する。
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その夜。
俺は、コントロール・センターで、今日廃棄した魔王軍のログを分析していた。
数万の魔物の死骸から抽出したデータ。通常なら、それはただの「負の魔力残滓」だ。
だが、その奥底に、不可解な『エラーログ』が隠されているのを、俺の【残滓抽出】が見逃さなかった。
$$
\text{Error Log: [Unknown Source]} \\
\text{Description: [Simulation\_Test\_#404] - Failure.} \\
\text{Causality Hash: [Corrupted]}
$$
「……シミュレーション、テスト……?」
俺は、その英単語(未定義言語)を見て、背筋に冷たいものが走るのを禁じ得なかった。
この世界は、神が作った聖域なんかじゃない。
何者かが、何かを検証するために作った、ただの『実験場』に過ぎないのではないか?
そして、魔王軍も、俺を追放した勇者パーティも、俺という『ログ廃棄係』さえも、その実験の一環として配置された、ただの「データ」に過ぎないのではないか?
「……なるほど。世界のバグを消すと思っていたら、俺自身が『最大のバグ』だったってわけか」
俺は、口元を歪める。
もしこの世界が、誰かの作った偽物のシステムだというなら、話は早い。
「俺の手で、そのシステム全体を『廃棄』して、俺たちのための『新しい因果律』を再定義してやるだけだ」
ゴミ拾いが、世界のソースコードを書き換える。
第2章「世界のソースコード編」へ続く。
第1章『欠陥職【ログ廃棄係】の理論武装』、完結です!
数万の魔王軍を一歩も動かずに「存在消去」する、
第1章最大、かつ最も「理不尽」なカタルシス、楽しんでいただけたでしょうか?
「1話からの伏線回収が完璧!」「第2章の『世界の真実』が気になる!」
そう感じていただけたなら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いします!
皆さんの評価ログが溜まるほど、第2章の「概念破壊」はさらにエスカレートします。
第2章では、レインがこの世界の「管理者」を超え、
世界を作った「創造主」へと挑む物語が始まります。
さらに凶悪になるレインの理論武装にご期待ください!




