第11話: 「今更」という名の未定義ログ ――バグったデータに、修復の価値はない。
「あ……ああ……あぁ……ッ!」
競技場の中心で、ヴォルグは自分の無様な姿を晒しながら悶絶していた。
彼を包んでいた『聖騎士』の輝きは霧散し、手元に残ったのは、ただのひび割れた鉄の棒。
リーゼが流し込んだ「数千人分の苦痛ログ」によって、彼の精神回路はオーバーロードを起こし、廃人の一歩手前まで追い詰められていた。
「ヴォ、ヴォルグ! しっかりして!」
「レイン、お前……! やりすぎだろ! 同じパーティの仲間だったじゃないか!」
元パーティの魔導師と重戦士が、震える足でヴォルグに駆け寄り、俺を指差して叫ぶ。
その瞳には、かつて俺を奈落へ突き落とした時の傲慢さはなく、ただ圧倒的な捕食者を前にした小動物のような怯えだけがあった。
「仲間、か。……その単語の定義を、俺の辞書から消去したのは君たちだろ」
俺は一歩、彼らへと踏み出す。
それだけで、魔導師の女は悲鳴を上げて尻餅をついた。
「レ、レイン……分かった、私たちが悪かったわ! 謝るから、ヴォルグを……ヴォルグのスキルを元に戻して! お前がいれば、私たちはまたSランクを目指せる! お前のその力があれば、世界最強のパーティになれるんだから!」
「……今更、戻ってきてくれ、か?」
俺は思わず、乾いた笑いを漏らした。
あまりにテンプレート(既定路線)な台詞。あまりに浅ましい計算。
「断る。……理由は二つだ」
俺は指を二本立て、論理的に彼らの希望を破砕する。
「一つ。君たちは既に『破損したファイル(破損データ)』だ。一度俺を裏切り、システムの穴を突こうとした前科がある。そんな不安定な要素をパーティに組み込むのは、効率が悪すぎる」
「そ、そんな……修正してくれればいいじゃない!」
「二つ目だ。……修正するより、新しく作り直した方が早い」
俺は隣に立つエステルとシルフィに目を向けた。
「俺にはもう、君たちの数万倍『クリーン』で『高性能』な仲間がいる。……ゴミを再利用する手間をかけるくらいなら、そのまま廃棄した方がリソースの節約になるんだよ」
$$
\text{Rejection Logic:} \\
\text{Cost(Fixing Trash)} > \text{Cost(New High-Spec Partners)} \\
\therefore \text{Decision: [DISCARD]}
$$
「ひ、ひぃぃ……ッ!」
魔導師の女が、絶望に顔を歪めて泣き崩れる。
かつて俺を「効率の邪魔だ」と捨てた彼女たちに、今度は俺が「効率の邪魔だ」と告げる。
これ以上の、ロジカルな復讐はない。
「……レイン様。王都の衛兵たちが包囲を完了しました。……『一括廃棄』の準備はできています」
エステルが淡々と告げる。
競技場を埋め尽くす数千の兵士たち。だが、俺たちの視線はその奥――玉座に座る国王へと向けられていた。
「陛下。……この茶番を終わらせませんか。俺はヴォルグのように、陛下に『忠誠』という名の不確かなログを捧げるつもりはありません」
俺は、懐から「無限の宝箱」から取り出した、一つの水晶球を取り出した。
そこには、現在、この王国の国境付近で発生している『異常な魔力反応』のログが、赤く点滅して映し出されていた。
「現在、王国の北側でシステムの『深刻なバグ(魔王軍)』が、サーバー……いえ、この世界を物理的に破壊しようとしています。……このままだと、この国は一週間以内に『消失ログ』に書き換えられますよ」
静まり返る玉座の間。
国王の顔が、恐怖で青ざめていく。
「な、なんと言った……? 魔王軍が、そんな近くに……!?」
「陛下。俺と『デバッグ契約』を結びませんか? 俺がそのバグを消去してやる代わりに――この王国の『管理者権限』を、俺に譲渡してください」
それは、一人の冒険者が王に突きつける、究極の不敬。
そして、滅びを回避するための唯一の正解。
俺をゴミとして捨てた世界を、今度は俺が『管理』してやる。
「……選択肢は、最初から一つしかありませんよ、陛下」
俺は、膝を折ることなく、傲然と王を見据えた。
第11話をお読みいただき、ありがとうございます!
「今更戻ってきてくれ」という元パーティの懇願を、
「コストに見合わない」と切り捨てるレインの冷徹な一言、
スカッとしていただけましたか?
いよいよ物語は、一国の運命を懸けた「管理者契約」へと突入します。
「レインの支配が楽しみ!」「魔王軍をどうデバッグするのか気になる!」
そう感じていただけたなら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価】をお願いします!
皆さんの声援ログが、次回の第1章・最終話(第12話)の熱量を引き上げます。
魔王軍の正体、そしてレインが見つけた「世界の真実」とは……?
第1章完結、最高のカタルシスにご期待ください!




