第10話: 「敗北」さえも廃棄対象 ――Sランクパーティの栄光を、システムのゴミ箱へ。
「な……、な、なぜだ……! なぜお前が生きている、レイン!!」
静まり返った競技場に、ヴォルグの悲鳴に近い絶叫が響き渡った。
黄金の鎧、聖剣、そして数万の観衆の喝采。その全てを背負った「勝者」の顔が、恐怖で醜く歪んでいる。
「奈落に落ちたゴミが、掃除しに戻ってきただけだ。……そんなに驚くことか?」
俺は一歩、また一歩と、白銀のタイルを踏みしめてヴォルグへと近づく。
彼の背後では、元パーティの魔導師や重戦士が、武器を構えることさえ忘れ、俺の隣に立つ三人の女性――特に、圧倒的な魔力を放つシルフィ王女に釘付けになっていた。
「シルフィ王女殿下!? なぜ……、レベル1の忌み子が、そんなデタラメな魔力を……!」
「失礼ね。私はもう、お飾りの1(ワン)じゃないわ。――世界に認められた、99(ナインティナイン)よ」
シルフィが不敵に微笑み、指先をパチンと鳴らす。
それだけで、競技場全体を覆う対魔界障壁が、ガラス細工のように粉々に砕け散った。
「貴様ら……! 衛兵! 乱入者だ! この犯罪者共を今すぐ捕らえろ!」
ヴォルグの叫びに反応し、数百人の王宮守護騎士が抜剣して突撃してくる。
だが、俺は歩みを止めない。
「エステル。……『路上のゴミ』をどかせ」
「了解。マスター。――『存在座標・固定ログ』を廃棄」
エステルが静かに目を伏せた瞬間、突撃してきた騎士たちの足元から、物理的な摩擦が消失した。
彼らはどれほど踏ん張ろうとも、氷の上を滑るように制御を失い、次々と壁へと激突していく。
エステルが廃棄したのは、彼らが地面と「接触している」という物理的な因果だ。
「ヒッ……!? 化け物め! 死ねえええ!」
ヴォルグが耐えきれず、聖剣を抜き放ち、一足飛びに俺の喉元へと肉薄する。
Sランク目前の聖騎士。その速度は、常人の目には残像すら残さない。
――ガキィィィィィィィン!!
だが。
聖剣の刃は、俺の数センチ手前で、目に見えない「何か」に阻まれて止まった。
「……? なんだ、この手応えは……! 斬っているのに、手応えがない……!?」
「当たり前だ。お前の『剣を振った』というプロセスは受理したが、その『結果』というログは、俺が今この瞬間にゴミ箱に捨てたからな」
$$
\text{Conflict Resolution:} \\
\text{[Holy Sword Strike]} \xrightarrow{\text{Intercepted by Rain}} \text{[Action Log: SUCCESS]} + \text{[Result Log: DISCARDED]} \\
\text{Final Damage: } 0
$$
「ありえない……! システムを、因果を無視しているというのか!?」
「無視じゃない。修正だ。……ヴォルグ、お前は自分の強さを『聖剣の補正』や『システムの評価値』だと思い込んでいる。だが、その根源的な演算式が書き換わったら、お前には何が残る?」
俺はヴォルグの胸元に、そっと手を添えた。
「【ログ一括廃棄】――対象、ヴォルグの全装備および全スキルの『動作保証ログ』」
『エラー:認証情報が破棄されました』
『警告:装備品 [聖剣] の使用権限を失いました』
『警告:スキル [聖域の守護者] が未定義データとして処理されます』
パリン、と。
ヴォルグの黄金の鎧が、まるで錆びた鉄屑のように砕け散り、手にした聖剣はただの鈍色の棒へと成り果てた。
システムの保護を失った彼は、今やレベル18の俺よりも脆い、ただの男に過ぎない。
「あ……あ、ああ……俺の……俺の力が……」
「お前の強さは、システムから与えられた『借り物』だったんだよ。そして俺は、その貸出記録を消した。……今の君は、ただの『定義不能なゴミ』だ」
俺は腰を抜かしたヴォルグの顔を見下ろし、冷徹に告げる。
「リーゼ。……あいつに、お前が味わってきた『苦痛の履歴』を、一分間だけ共有してやれ」
「はい、レイン様。……神罰ではありません。これは、あなたが捨ててきた『痛み』という名の真実です」
リーゼが慈悲深い微笑みを浮かべ、ヴォルグの額に手を触れる。
瞬間、競技場に響き渡ったのは、人間のものとは思えない凄惨な絶叫だった。
かつて彼らが、レインが掃除してきた「戦場の汚れ」だと思って無視してきた痛み。
彼らが救わなかった者たちの、累積された絶望。
それがヴォルグの脳内に、修正不可能なログとして直接書き込まれていく。
「ぎゃあああああああああああ! やめろ! 消せ! そのゴミ(記憶)を消してくれえええええ!!」
「嫌だ。……それはお前が積み上げてきた『結果』だろ。最後まで責任を持って、自分の中にストックしておけよ」
俺は転げ回る元仲間を背に、玉座に座る国王へと視線を向けた。
国王も、周囲の大貴族たちも、腰を浮かせて戦慄している。
「陛下。……『御前試合』の勝者を再定義しに来ました。……現在の王都のシステム、少々ゴミが溜まりすぎているようです。俺が、一括で片付けましょうか?」
沈黙。
そして、誰かが漏らした「本物の、化け物だ……」という呟き。
最強の聖騎士が、一瞬で「無」に帰したその瞬間。
俺たちは、もはやただの冒険者ではない。
世界そのものを管理する『システム』の、唯一にして絶対の『デバッガー』として、歴史に刻まれた。
第10話、第1章の最大の山場をお読みいただきありがとうございます!
ヴォルグの「聖剣」や「スキル」というシステムの加護を、
レインが【ログ廃棄】で文字通り「無効化」するカタルシス、
楽しんでいただけたでしょうか?
「ざまぁ展開がロジカルで最高!」「エステルとリーゼの冷徹なサポートもたまらない」
そう感じていただけたなら、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価】をお願いします!
皆さんの評価が、レインを「因果律の支配者」へと押し上げるエネルギーになります。
次回の第11話、命乞いをする元パーティへの最後通告、
そして王都に迫る「真のバグ(魔王軍)」の予兆。
物語はさらに深淵へと進みます。次回もお見逃しなく!




