第1話: 「ゴミ拾い」に用はない ――最弱職【ログ廃棄係】、Sランクパーティを追放される。
「ログ」とは、存在の証明だ。
誰かが剣を振れば「振った」というログが残る。
誰かが傷つけば「痛い」というログが残る。
その膨大なデータの集積が、この「世界」というシステムを動かしている。
普通の人間は、そのログを書き換えることはできない。
ただ流れるまま、運命という名の実行プログラムに従うだけだ。
だが、俺は違う。
俺の仕事は、そのログを「捨てる」こと。
……さあ、掃除の時間だ。
まずは俺をゴミと呼んだ、この腐ったパーティの「栄光」から廃棄してやろう。
「悪いがレイン。お前、クビだ」
迷宮『蒼天の塔』第50階層。
ボスを討伐した直後の、魔力の残滓が漂う静寂の中で。
聖騎士ヴォルグの冷徹な声が響いた。
黄金の鎧を纏った彼は、腰に差した聖剣の柄に手をかけたまま、俺を汚物を見るような目で見下ろしている。
その背後には、彼を崇拝するパーティメンバーたちが並んでいた。
治癒術師、魔導師、重戦士。誰もが、俺と視線を合わせようとはしない。
「……理由は、効率の問題か?」
俺――レインは、足元に転がる『失敗した魔石の破片』を拾い上げながら、淡々と問い返した。
俺の職業は【ログ廃棄係】。
戦闘中に発生する「不発魔法の残滓」や「壊れたドロップ品」、さらには「死骸の処理」を行う、サポート職の中でも最底辺とされるゴミ拾いだ。
「効率? ああ、そうだ。それもあるな」
ヴォルグが鼻で笑う。
「お前が『ゴミ』を片付けるたびに、経験値の取得ログが0.1%ほど減少しているというデータが出た。誤差だと思っていたが、Sランクを目指す俺たちにとって、その0.1%が積み重なれば致命的な遅れになる。わかるか? お前は俺たちの成長を『阻害』しているんだよ」
それは、この世界の「システム」が導き出した一つの真実だった。
ログ廃棄係が事象を消去する際、システムはそのプロセスを「無効化」と判断し、わずかに経験値をカットする。
だが、その代わりに戦場が「清浄」に保たれ、魔力酔いを防いでいる事実に、彼らは気づいていない。
「それに、お前のステータスを見たか? 何度見ても笑えるな」
ヴォルグが空中に【ステータス・共有表示】を展開した。
$$
\begin{array}{|l|l|}
\hline
\text{名前} & \text{レイン} \\
\hline
\text{職業} & \text{ログ廃棄係(ゴミ拾い)} \\
\hline
\text{レベル} & 18 \\
\hline
\text{攻撃力} & 5 \\
\hline
\text{防御力} & 3 \\
\hline
\text{魔力} & 0 \\
\hline
\text{保有スキル} & \text{【ログ廃棄】【残滓抽出】} \\
\hline
\end{array}
$$
「魔力0。攻撃力は一般人の半分。こんな奴を連れているだけで、Sランクパーティの格が落ちるんだよ。これまでは付き合いで置いてやったが、もう限界だ」
「……そうか。なら、荷物をまとめて街へ――」
「街? 行けると思っているのか?」
ヴォルグの目が、冷酷な光を宿した。
彼は足元にある、一際巨大な穴を指差す。
それは、ダンジョンの管理システムが「不要になったデータ」を物理的に投棄する場所――『奈落のゴミ箱』と呼ばれる、帰還不能の竪穴だった。
「お前はログ廃棄係だろう? なら、最後は自分自身を廃棄してこい。それが、これまで寄生させてやった俺たちへの、せめてもの謝礼だ」
重戦士が俺の肩を突き飛ばす。
魔導師が拘束魔法を唱え、俺の自由を奪った。
俺は抵抗しなかった。……いや、できなかった。
「じゃあな、欠陥品。お前のいた痕跡も、すぐにシステムが消してくれるさ」
ヴォルグの蹴りが、俺の腹部にめり込む。
身体が宙に浮き、真っ暗な穴へと吸い込まれていく。
遠ざかる上層の明かり。嘲笑。蔑みの視線。
落下しながら、俺はただ、自分の手のひらを見つめていた。
そこには、先ほど拾った『失敗した魔石の破片』が握られている。
(……本当に、そうかな)
俺の意識は、加速する落下の衝撃の中でも、恐ろしいほど冷徹に研ぎ澄まされていた。
ヴォルグたちは言った。俺がログを消すと経験値が減る、と。
だが、その減った経験値は「消滅」したわけじゃない。
俺のスキル【ログ廃棄】の裏側には、説明文には書かれていない『隠し仕様』がある。
俺が廃棄したデータは、消えたのではなく――俺の中に「未定義のエネルギー」として蓄積され続けている。
(検証を開始する)
落下速度、約時速120キロメートル。
到達予想時間、30秒。
蓄積された『廃棄ログ』の総量、10年分。
俺は視界に広がるシステムメッセージを、精神の力だけで強制的に書き換えた。
『警告:不正なログ廃棄が検出されました』
『警告:存在しないはずの「失敗」が、一箇所に集中しています』
『――再定義を開始しますか? [YES / NO]』
「YESだ。全部、ぶちまけてやる」
俺の全身から、漆黒のノイズが溢れ出した。
それは、世界が「無駄」だと断じた数億回の失敗、数兆の魔力残滓、そして何千もの死者の恨み。
ゴミとされたそれらが、俺というフィルタを通じ、純粋な『事象』として再構築されていく。
奈落の底に激突する寸前。
俺のステータス画面が、バグったように激しく明滅し、そして真っ赤な文字で固定された。
$$
\text{System Alert: Log Disposal Overdrive.} \\
\text{Skill Evolved: [Log Eraser] → [Causality Re-Definer (Candidate)]}
$$
爆音と共に、奈落が揺れた。
だが、俺の体は傷一つ負っていない。
激突したという『負のログ』を、着地の瞬間に廃棄し、無効化したからだ。
暗闇の中で、俺は立ち上がる。
目の前には、廃棄されたガラクタの山と、そして――。
「……あ、なた……が……マスター……?」
銀色の髪を泥にまみれさせ、壊れた機械のように瞳を明滅させる、一人の少女が倒れていた。
俺は口元を歪める。
「ああ、そうだ。今日から、ここが俺たちの『ゴミ捨て場』じゃない。……世界のバグを、修正する拠点だ」
復讐なんて、生易しいことはしない。
俺を捨てたあいつらが、俺が捨てた「ゴミ」を這いつくばって欲しがるような――そんな、理不尽なまでの絶望を見せてやる。
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皆さんの評価が、レインの「廃棄ログ」を強力なスキルへと進化させるエネルギーになります。
第2話は、この奈落に眠る「最強の欠陥品」との出会い、そして初戦闘です。
当面の間は1日3話を投稿予定です。お楽しみに!




