5話 悪役令嬢とペンダント
ルイシュアに振られたからってなんだ。私は自分の好きなことを貫くだけなんだ! と、強がってみながら、私は屋敷からかなり距離のあるダンジョンへと向かう。
ウィリツ屋でルイシュアへのプレゼントを買うことも検討したが、自分で手に入れた物の方が気持ちがこもるというものであろう。……まぁ、風属性の武器が手に入らなかったら、大人しく店で買うけど。
「はは、ルイシュアの喜ぶ顔が目に浮かぶわ~」
つぶやきながら、背後から飛んできた矢を振り返ることなく手で掴む。
「また?」
ルイシュアを出迎える前に私を襲った毒矢と全く同じ矢で、私はワンパターンしかないのかと若干呆れながら、飛んできた方に向かって矢を投げる。
ギャッという耳障りな声が聞こえた気がしたが、そんなの気にせずに私はダンジョンへと向かう。
「えっと、たしかこのあたりに……」
ちょっと見つけにくい場所なんだよなぁと思いながら、私がキョロキョロと周辺を見回していると、背の高い草むらの一部がつぶれているのがわかる。
あそこか、と目星をつけ、私は草むらをかき分けながら突き進んでいく。
「お、やっぱり私の目は間違ってなかった!」
草むらの奥にダンジョンの入り口が見え、私は得意げにふふんと鼻を鳴らす。
待っててね、ルイシュア。お姉ちゃんが必ず、貴方に見合う武器を調達するから!!
ふふふ、やはり順調。私、もしかしたら魔法の才能があるのかも!!
調子に乗りながら私は様々な炎魔法を出し、私に手も足も出ない風属性の魔物たちを蹴散らしていく。
「さ、いつも通りならこの先がダンジョン最深部のはず!」
少しずつ、でも、たしかに強くなっているのを実感しながら、私は古びた階段を下り、ダンジョン最深部へと向かっていく。
「ギャォオオオオオオ!!!!!」
「ヒャッ!?」
階段を降り、開けた場所に足を踏み入れると、狙いすましたかのように何者かの雄たけびがダンジョン内に響く。
「ギャオ、ギャォオオオオオ!!」
耳をつんざくような雄たけびに耳を塞ぎながら、私は声の主へ目を向ける。
部屋の中央で、宝箱を守るかのように佇む薄緑色のドラゴンのような生き物。あれはまさか、ダンジョンボスというものであろうか?
……って、考えている暇はない!!
「クッ……!!」
いつの間にか私のすぐ近くに来ていたドラゴンが、私に向かってドでかいしっぽを振り下ろし、私はギリギリでそれを避ける。
いつもの魔物とは比べ物にならないほどの大きさと強さの魔物に怖気づきそうになるのをぐっとこらえながら、目の前の魔物から距離を取りながらよく観察する。
あのでかいしっぽと羽からして、あいつは恐らくシュリアムと呼ばれる風属性の魔物。
普段は深い眠りについているが、テリトリーに入られると瞬時に眠りから覚め、魔物だろうが人間だろうが容赦なく襲う、かなり凶暴な魔物。弱点は足だが、簡単に倒せる相手ではない。
推奨レベル78とかいう、作中でも上位の強さを誇る魔物。いつかは戦いたいと思っていた相手だが、まさかこんなに早く戦うことになるとは……!
「エンブレア!!」
初めて遭遇したダンジョンボスが、私に有利な風属性の魔物であることに安堵しながら、飛ばれては対処が面倒だと判断し、シュリアムの巨大な羽めがけて楕円状の炎魔法を打ち込む。
「ギュアア!!」
叫び声をあげながらシュリアムは私に向かってしっぽを振りかぶり、私はピョンピョンとはねるようにして攻撃を避ける。
一方で、シュリアムはご自慢の羽に高威力の技を打たれたことにより、自由自在に移動するのが困難になったらしい。
先ほどよりもずいぶんとゆっくりなスピードで私に迫りくる。
「サンライズ!」
私は威嚇するようにシュリアムにを睨みつけながら、シュリアムの弱点である足に向かって掌を向け、魔法を唱える。
サンライズは、強力な炎魔法ではあるのだが、発動後の反動で一定時間動けなくなるという、一か八かの攻撃。
しかし、持久戦になれば巨大なシュリアムに勝ち目はないだろうし、それならば、多少の危険を顧みても、高威力な技で戦闘時間をできるだけ縮めた方が有効的であろう。
私の掌から生み出された巨大な火玉がシュリアムの足に向かって飛んでいき、派手な音と砂煙と共に爆発する。
「……!!」
発生した爆風で吹き飛ばされながら、せめてと思い、目を腕で守る。
「ガハッ!!」
ダンジョンの壁に思いっきり背中を強打させながら、私は荒い息を吐く。
「ギュオ、ギュオガアアア!!!」
口の端からつぅっと生暖かい血が流れているのを感じるが、私は気を失いそうになるのに何とか抗い、足の痛みで悶え苦しむシュリアムを見つめ続ける。
そして……。
「あ……」
シュリアムはさらさらとした灰のようになり、ダンジョンの闇へと解けていく。
その反面、私は命の危機を回避できた安堵感からか、あっさりと意識を手放した。
ずいぶんと長いこと寝ていた気がする。……いや、気を失っていたのか。
体のあちこちが痛く、私は目を覚ました後もなかなか立ち上がることができなかったが、何とか自分を奮い立たせ、ゆっくりと体に負荷がかからないように立ち上がる。
「まさかここまで苦戦するとはなぁ……」
しかも、特に目立った損傷はないが、ほとんど自爆みたいなもんだったし。悔しい。
まぁ、どちらにせよ、勝てたことに変わりはない。宝箱の中身だけ持って帰って、今日はゆっくり休むことにしよう。
「……なにこれ?」
宝箱の中をのぞくと、薄緑色のペンダントが入っており、見覚えのない装備に私は首をかしげる。
「見た目は風属性の装備っぽいけど……店主さんに相談してみようかな?」
さすがに、訳の分からない物をルイシュアに渡す明けにはいかない。
そう考え、私はウィリツ屋の店主さんならこの装備の正体もわかるであろうと、ウィリツ屋へ向かうことに決める。
疲れてはいるけど、それはそれとして、早くルイシュアと仲良くなりたいという気持ちがあった。
「ほぉ……こりゃあ、妖精の守護石じゃな」
「何? その妖怪の砂利石って」
「ものすごい聞き間違いじゃのぉ……これは妖精の守護石といって、所持者の魔力が一定量上がる物じゃ」
「ほへぇ……」
なるほど……色で判断してしまったが、これは風属性用の装備ではないのか……。
あ、でも、誰にでも効果を発揮するなら、ルイシュアに渡しても効果的ってわけか。
「ありがとう、店主さん! また来るね!!」
「おぉ、いつでも待ってるぞ」
「……あんたら、祖父と孫か?」
店員さんの呆れたような声が聞こえた気がしたが、私は気にせずに店から飛び出して帰路につくのであった。
「ルイシュア君! 貴方に渡したいものがあってさ!!」
「へぇ? ……ぼ、僕ですか?」
帰宅後、私が意気揚々と中庭を歩いていたルイシュアに話しかけると、謎にルイシュア君は目に涙を溜めながら私を不安げに見つめてくる。
「そそ。はいこれ、プレゼント」
断られる前にルイシュアの目の前にペンダントを差し出し、パッと手から離すと、彼は反射的にペンダントを受け取る。
「……」
……あっれ、おかしいな。プレゼントをあげれば喜んでくれると思っていたのに、ルイシュアはだんまりを決め込んでいる……。あ、もしかして、ラッピングとかをしていなかったのが悪かったのか!?
「……いいんですか?」
不安になって私がおろおろとしていると、ルイシュアがそうぽつりとつぶやく。
「……どうして僕なんかに、こんな素敵なものをくれるのですか?」
「へ……? 可愛い弟にプレゼントを送るのって、そんなに変なこと?」
何故、ルイシュアがそんなことを聞くのか理解できなかったが、私はさして考えることもなく、ルイシュアの問いに返答をする。
「な、なんで……!!」
「!?」
私の言葉に傷ついたのか、ルイシュアはぽつりぽつりと涙を流し始める。
「えぇ!? なになに、ごめんなさいね!! だから泣き止んでよ!!」
私は若干取り乱しながら、泣き止んでくれと念じつつ、ルイシュアの頭をポンポンと撫でる。
……まさか、ルイシュアに嫌われてしまったか?




