3話 悪役令嬢と社会の血液 (お金)
しかし、鑑定の間、自由に店の中を見ていてよいと言われても、何をすればよいか迷ってしまう。
……あ、そうだ。せっかくなら、適当な炎魔法の武器でも見繕おうか?
小さいナイフのような物であれば、体力のない私でも扱えるかもしれないし。
「これとかいいかも……」
店内のあまり目立たない位置に置かれた緋色の短剣を目にし、私は傷や汚れをつけないよう気を付けながら、静かにそれを手に取る。
「わ……!」
手に持った瞬間、短剣が手によく馴染むのがわかり、私は思わず感嘆の声をあげてしまう。
「お嬢ちゃん、そんなのが気に入ったのか?」
「へ……? はい、なんだか、手になじむような気がして」
私が手にした短剣に見入っていると、店員さんが急に話しかけてきた。
「珍しいな。ほとんどの人は無駄にでかくて派手なもんを手に取るのに」
「そうなんですね……」
体力がなく、大きな武器を扱える自信がなかったから小さめの武器を手に取ったなんて口が裂けても言えず、私は店員さんに、言葉少なげに返答する。
「あ、でもそうか。お嬢ちゃんの身長じゃあ、でかい武器なんて扱えないか」
店員さんの発言を聞き、私はいい気はしなかった。
たしかに店員さんの言うことは事実だが、無遠慮に失礼なことを言うのはどうかと思うの。
そんな私の心境を察したかのように、店員さんは「悪い悪い」と、軽い口調で全く心のこもっていない謝罪をする。
「多分、その短剣ぐらいなら、お嬢ちゃんが持ってきた武器の買取金額で余裕で買えると思うぜ」
「なるほど……ちょっと気になりますね」
買取金額次第で短剣の購入を考えるか~と呑気に考えている間に、店の奥から店主さんが私の預けた武器と、恐らくお金が入っているのであろう小さな袋を持って出てくる。
「お嬢さんが持ってきたレイファソードとボーウィンド。とても綺麗な状態だったから、合計で金貨10枚だ」
「金貨10枚……」
たしか、まほ王内での最強装備の買取金額が金貨15枚分だったので、かなり高額な買取をしてもらえたのでは?
「ふむ……買取金額に不満があるかい?」
「いえ、全然! むしろ予想より多くて嬉しいです!!」
慌てて店主さんの言葉に弁解し、私は手に入れた武器を手放すことにする。
前世だったら身分証明とかが必要な場合があるけど、この世界はゲームの世界を基礎にしているため、そんなものは必要ない。
それだけは、素直にこの世界で便利だと言い張れる部分だろう。
「おや? お嬢さんはそんな短剣なんかに興味があるのかい?」
「はい。なんだか、手になじむような気がして」
さっきも同じような会話をしたな~と考えながら、私は店主さんの疑問に素直に答える。
「そうかそうか……じゃあその短剣、お嬢さんが持ってってくれ」
「ええ、そのつもりでしたから。代金は……」
「お代はいらないよ。武器の買取金額と一緒に持って帰ればいい」
「はい!? そ、そんなこと、できるわけないじゃないですか!!」
店主さんの申し出はすごくありがたいが、さすがにこんな大層なものをただでもらうわけにはいかないだろ。
「その短剣は長い事売れてなくて、そろそろ処分しようかと悩んでいたところだからな。迷惑でなければ遠慮なく受け取ってくれ」
「で、でも……」
「なら、またこの店に顔を出してくれ。こんなさびれた店にも常連客でもできれば、多少なりともマシになるだろう」
店主さんは引き下がりそうにもなくて、私は申し訳なさにかられながらも、金貨の入った袋と共に、緋色の短剣を受け取ることにする。
「では、ご厚意に甘えて……また来ますね!!」
「あぁ、お嬢さんならいつでも歓迎だ!」
店主さんと店員さんに手を振りながら、私は武器屋を後にする。
常連客か……ふむ、なかなかいい響きではないか。
その後も約2年間、私はひたすらレベルやステータス上げのためにダンジョンへ通い倒し、その過程で手に入れた武器を、例の武器屋――ウィリツ屋で売りまくった。
あ、もちろんウィリツ屋では売却ばかりを行っていたわけではない。魔法の種類を増やすために、魔導書を買ったりしていた。……さすがに売却ばっかりじゃ申し訳ないからね。
まぁ、それはともかく、私は地道なレベル上げと豊富な技のおかげで、どんどん強くなっていった。
屋敷に仕えるメイドさんや、私とは離れた所で暮らす両親は私に無関心であり、私が自由に過ごせたことも功を奏した。
ゲーム内でスティラが悪役へと転じるきっかけとなった”孤独”。それがプラスに働くなんて、いったい誰が想像できたか。
「それにしても、今の私のレベルとステータスが気になるな……。たしか、ゲームだと誰かに尋ねれば教えてもらえたんだよな……誰だったかな」
う~んと私が自室で頭をひねらせていると、ふと、異母弟の三文字 (ひらがなにすると四文字) が思い浮かぶ。
「あれ? たしかゲーム内でスティラって、7歳の頃に異母弟の存在を両親から伝えられて、一緒に暮らすことになったって語ってたような……」
スティラの異母弟はまほ王の攻略対象の一人で、その子に尋ねればヒロインの周りの人間のレベルやステータスを知ることができる、有能キャラである。
そんな有能な子を、幼少期の頃からスティラは気に入らないといじめていた。それが、断罪につながるなんて露知らず……。
「はぁ!?」
私はその事実を思い出し、思わず頭を抱える。
私は現在7歳。時期に異母弟が私の住まう屋敷に来てもおかしくはない。そして、私の断罪への道も着実に迫ってくる。
「いや、待てよ……?」
この2年間、私は断罪回避のためにレべえるやステータス上げを頑張ってきたのだ。異母弟もいじめることなく、仲良く程よい距離感さえ保てれば、断罪への道も遠くなるのでは?
「よっしゃ! こうなればとことん抗ってやる!!」
掌を固く握りしめながら、私は自室でそう叫ぶ。
……ちょっと異母弟の名前が思い出せないけれども!!
「――お嬢様。旦那様からお手紙が届いております」
「え? あぁ、ありがとう。私の部屋に置いといて」
私が日ごろの日課である中庭での素振り中、珍しくメイドさんが私に話しかけてくる。
顔も声も思い出せない父親からの手紙に感動もくそもないが、ワンチャン、例の異母弟についての手紙かもしれないと思い、少しだけ興味がわく。
「…九十九……百!」
ふぅ、と軽く息を吐きながら、ずいぶん体力がついたなぁと思いふける。
素振りが終わった後は近場のダンジョンへと行こうと思っていたが、今日は父親からの手紙を確認しようと、自室へと戻る。
「手紙手紙っと……あ、あった」
机に積まれてある魔導書の上に手紙があるのを確認し、私は素直に手紙へと近づくが、何か仕掛けがあるのではないかと考え、先に手紙の外見をよく観察する。
ふむ、びっくりするぐらい普通の手紙。……よく考えなくても、それが普通なのだが。
私は手紙の封を開け、内容を確認する。
内容は、予想通り異母弟についてのこと。父親の愛人が子供嫌いなため、せっかく生んだ子供――ルイシュアを、近々私の元に預けたいらしい。
異母弟ではあるが同い年ではあるため、きっと気が合うだろうという無責任な言葉と共に、手紙は締めくくられた。
「……子供に罪はないからね」
スティラとその異母弟、ルイシュアの事情を改めて知ると、さすがに同情してしまう。
最低な大人に嫌気がさすが、呆れる前に手紙の返事をしたためようと筆を執る。
文章は、まぁ……内容さえ伝われば適当でもいいか。
「えっと、ライシュアのことは喜んで引き受けましょう、と」
無責任な大人に何故敬語を使わなければいけないのかと考えながら、私はその気持ちに蓋をするように、手紙に封をするのであった。




