15話 非常識だろうが何だろうが
私の魔法のおかげで比較的、迷うことなくダンジョン内を進むことができている私たち。
しかし、不自然なほどに他の生徒と遭遇せず、私たちはそろって首をかしげる。
「今回のダンジョンに参加した生徒はかなりの人数がいませんでしたっけ?」
「はい。だから一組ぐらいとは出会うと思っていたのですが……私の思い違いだったのでしょうか……?」
「いや、教師も生徒同士が遭遇することを予知して、出会っても互いにちょっかいをかけるなと言っていた。だが、そんな教師の予想とは裏腹に、僕らは一人たりとも、他チームの生徒を見ていない。ここまで他の生徒と出会わないと、何か異常事態が起きたのかを疑うな」
「異常事態……しいて言うならば、スティラ嬢の魔法か?」
「え? 私の魔法に何か異常があったんですか!?」
3人の前を果敢に歩いていた私は、フェリナズくんの言葉に思わず、歩を止めて振り返る。
「……あれを異常と言わないスティラ嬢は、一度自分の常識を疑った方がいい」
「常識……」
……きっと私は、何をしようと何年生きようと、この世界をゲームの世界だと思い続けるのであろう。
でも、この世界は本物だ。
生きていて経験する痛みも、人の暖かさも経験した。
それなのに私は、この世界と現実の世界を切り離して考えていた、どこまでも身勝手で愚かな人間だ。
……それでも、この世界が前世とは全く違う世界であるのは事実。きっと、前世で私が培った常識は通じないであろう。
どうせ非常識だと言われるのであれば、私が15年間、この世界で生きる中で自分の中で貫いてきた常識を貫き通して、今は非常識と呼ばれるものを、常識に塗り替えてやる!!
「非常識だろうが何だろうが、私は自分を貫きます。自分に胸を張って生きていけば、きっと何かは変わって、私に後ろ指をさす人は少なくなっていくはずなんです!!」
「……無茶苦茶だな」
「えぇ。だって私は、どこかの誰かさんによると、非常識らしいですから! これぐらい無茶苦茶じゃないと、非常識者は名乗れないでしょ!!」
呆れるフェリナズくんに私は誇らしげな笑みを浮かべながら、前世では考えられないほど堂々と、自分の意見を述べる。
もう、前世で好きなものを好きと言えない、他人に流されてばかりの私ではない。非常識だろうが何だろうが、私は私なんだ!!
「……あのう、お二人とも、早くダンジョンを進みませんか?」
「別に、僕は1位を狙わないとは言っていない。勝利を目指して、こんなところで立ち止まっているわけにはいかないだろ?」
完全にフェリナズくんと二人の世界に入っていると、フュリアさんとユイラくんにそう諭され、今度はフェリナズくんと歩幅を合わせてダンジョンの最深部に向かって歩き出す。
目指すは勝利、ただそれだけだ!!
最深部に到着すると、予想に反して多くの生徒がたむろしていた。
していたのだが……。
「キャ――ッ! 誰か、誰か助けて!!」
「うわぁああ!! こっちに来るな!!」
最深部に広がっていたのは、阿鼻叫喚の地獄絵図……とまではいかないけど、ほとんどの生徒が魔物に襲われていた。
魔物の数も十や二十ではなく、生徒たちは健闘虚しく次々に魔物にやられていく。
しかし、命は取られないようで、生徒たちはただただ眠らされていくだけ。
「なるほど……ダンジョン探索中に他のチームと出会わなかったのは、ただ単に僕らが本来であれば苦戦しないだろうところで時間を費やし、他のチームは僕たちがグダグダしているうちに、ダンジョン最深部に到着していただけか……」
「そんな理由!?」
ユイラくんの冷静な分析に軽く突っ込みながら、私は迫りくる魔物を捌き切る。
戦ってみてわかったのは、ダンジョンのどこからか湧き出てくるこの魔物たち一匹一匹の強さはたいしたことはない。
しかし、いかんせん数が多い。私でも油断すれば一瞬で形勢逆転されてしまいそうになる勢いだ。
それに、ダンジョン内に生徒が多いのも難点だ。私が今ここで広範囲・高威力技を打てば、間違いなく死者が出る。
クッ、ちまちま倒していくしかないか……めんどくさいし、つまらない!!
「――危ない!!」
私が頭の中でグルグルと考えていると、背後の注意がおろそかになってしまったらしい。
ユイラくんの焦った声が私の耳に届き、私は驚きながら背後を振り返る。
「ガォオオオ!!」
魔物の鋭い奥歯までよく見え、私は「あ、これ死んだわ」と思わずにはいられない。
「そうはさせない!!」
ギュッと私が固く目をつむると同時に、勇ましい声が近くで聞こえる。
「……?」
魔物からの攻撃に身構えていた私は、痛みが襲ってこないことに不思議に思いながら、恐る恐る目を開ける。
「大丈夫か!?」
「あ……は、はい」
もう一度目を開けた私の目の前にいたのは、恐ろしい魔物などではなく、真剣な顔をしたフェリナズくん。
私はフェリナズくんに助けられたのだと理解するのと同時に、自分の頬に熱が集まるのがわかる。
ルイシュアの方がずっとずっと顔がいいのに、自分のピンチを救ってくれたフェリナズくんの顔を見て胸の鼓動が高まるとは、なんともまぁチョロいものだ。
「……!」
――いいや、認めるものか。これは、違う。
きっとこれは、自分よりも強い者と相対したことによる興奮で、頬が赤くなったり胸の鼓動が早まったりしたのだ。決して、こ、こここ、恋とか、そういう感情では決してない!!
「ファイアソウル!!」
私はやけを起こしていつの間にか自分とフェリナズくんの周りに集まってきていた魔物を一掃するために、高威力の魔法を使用する。
フェリナズくんが何だ、知るもんか!! こうなれば、フェリナズくんもろとも魔物を殲滅してやるわ!!
「いや、あぶねっ!」
フェリナズくんも一緒に炎で焼こうと思っていたのに、彼は瞬時に水魔法を発動させ、私の魔法を消すと同時に、自分の周りの魔物を一匹残らず倒す。
「ああ、あう……」
そこで私はハッと我に返り、自分がとんどもないことをしでかしてしまったことに気が付き、言葉に詰まらせる。
「ご、ごごごごめんなさ――」
「皆さん……! 魔物のスポナーを駆除しました……!! これでこのダンジョンはクリアです……!!」
私がフェリナズくんに勢いよく謝ろうとすると、タイミング悪くフュリアさんが私たちに声を掛け、ダンジョン攻略を完了したことを知る。
「よし、それじゃあもうこのダンジョンは用済みだ。さっさと退散するぞ」
ユイラくんの言葉に素直に従い、できるだけ多くの生徒を抱えながらダンジョンの出口を目指す。
あぁ、フェリナズくんに謝るタイミングを完全に逃してしまった……。私はいったい、どうすれば……?
ダンジョンから脱出し、全生徒の無事が確認できると、教師は今回の結果は後日改めて伝えると私たちに伝え、現地解散となった。
「――先ほどは大変申し訳ございませんでした!!」
私は謝罪するタイミングは今しかないと思い、額を地面に押し当てながらフェリナズくんに誠心誠意の謝罪を試みる。
いや、こんなことではだめだ。いっそのこと、腹でも掻っ捌いた方が……。
「ハハっ。な~に気に病んでんのさ。お前は自分を貫き通すんだろ? たしかにさっきの突拍子のない行動にびっくりはしたけど、お前らしくて俺は良いと思う。……あ、もちろん、嫌がる人もいるだろうから、自重した方がいいとは思うけどな」
「フェリナズくん……!!」
しゃがみ込みながらニヤッと笑みを浮かべるフェリナズくんに、私は感動して思わず顔を上げる。
「とりあえず立ち上がれよ。さすがに他人からの目が痛い」
「あ、ありがとうございます!!」
私がゆっくりと立ち上がると、ヒュリアさんがびっくりした顔で私たちに近づいてくる。
「お二人とも、いったいどうしたのですか……!?」
「あぁ、実はいろいろあってな」
ヒュリアさんにフェリナズくんはこれまでの出来事を大まかに説明する。
「な、なるほど……。そんなことがあってレミラクシャ様をお許しできるとは、ビルティクヤ様はお優しいのですね……!」
「……うん?」
ビルティクヤ……どこかで聞いたことのあるような名前。でも、私が聞き覚えのある名前なんて、ゲームの登場人物と、小さいころに叩きこまれた、公爵家の名前ぐらいだろう。
……あれ?
そういえば、アリメシア王国の有力公爵貴族の内に、ビルティクヤみたいな名前があったような……!?
「……フェリナズくんの家って、あの、ビルティクヤ公爵家のことですか……?」
私がフェリナズくんに恐る恐る問いかけてみると、フェリナズくんは心底不思議そうな表情を浮かべながら、「え? そうだけど……」と答える。
「!! ビ、ビルティクヤ家のご子息様とは気が付かず、これまでの失礼な態度、誠に申し訳ございませんでした!!」
フェリナズくん……いや、フェリナズ様のお言葉を聞き、私は顔を青くさせながら再度、頭をガバッと下げながら謝罪をするのであった。




