14話 嬉恥ずかし初授業
入学式の翌日、私たち魔法学園の1年生は早速、ダンジョンへと向かっていた。
しかし、1年生と一括りにしても、魔法が得意な者と苦手な者がいる。そのため、私が今いるダンジョンには1年生の中でも魔法が得意な者が集められていた。
全クラス混合で行われる、ダンジョン探索。各クラス1人ずつでチームを組み、一番初めにダンジョン最深部へ到着したチームの勝利という、ゲームと訓練を兼ねた授業。
チームは教師がランダムで決めたものであり、大抵が初めましての人となる。
私は緊張で胸を高鳴らせながら、教師から指定されたチームメンバーを一人ずつ確認する。
まず、私の一番近くにいるおどおどとした茶髪の女子生徒、ヒュルアさん。
そして、私の右前あたりにいる、眼鏡をかけた気真面目そうな男子生徒、ユイラくん。
最後に、何の特徴のない、背景のモブのような黒髪の男子生徒、フェリナズくん。
私を含めた4人は、教師からの指示とあって一応はまとまっているが、そこに団結しようという意思はなく、ただ、形式上だけの即決チーム。
重苦しい雰囲気が広がる中、私はどうにかこの空気が崩せないかと、笑顔を浮かべ続けるが、空気がガラッと変わるような雰囲気はない。はぁ、私はどうしたらいいんだ。
「――最後に、何か問題があればすぐにダンジョンの外へ脱出するようにしてください。それでは皆さん、安全第一で出発しましょう!」
悩んでいるうちに教師の説明が終わったらしく、生徒が続々とダンジョンへと入っていく。
「君たち、僕らも早く移動するぞ」
ユイラくんが眼鏡をくいっと上げながら、まるでチームのリーダーのような振る舞いで私たちにダンジョンへ入ることを促す。
「あ、足を引っ張ってしまったらすみません……」
「俺もあまり役に立てないとは思うけど、精一杯頑張るからよろしくな」
ようやく口を開いてくれたヒュルアさんとフェリナズくんに、私はぺこりとお辞儀をしてからダンジョンへと歩んでいった。
薄暗いダンジョン内でもわかるほどぶるぶると震えているヒュリアさんを心配しながら、チームのことをガン無視しながらずんずんと歩いていくユイラくんとはぐれないよう、気を配る。
絶対に一人でダンジョン攻略した方が気楽だし効率的だ、という考えを何とか振り払いながら、いつ魔物に襲われても大丈夫なように警戒心を強める。
「キャッ!!」
「わ! 大丈夫!?」
ほんの少しだけヒュリアさんから注意がそがれ、私はダンジョンの床の凹凸で躓きそうになったヒュリアさんを慌てて受け止める。
「す、すみません……!」
「大丈夫。さすがに薄暗すぎるものね……そうだ!」
私はヒュリアさんがさすがに危なっかしくて、右の人差し指を立てて、指先から小さな炎をともす。
本来であれば大きい炎をともしてあげたいところだが、あまりにも明るすぎると魔物が寄ってきてしまうので、今は小さな炎で我慢してほしい。
「あ、ありがとうございます……」
私の複雑な気持ちが伝わったのか、ヒュリアさんは控えめな笑みを浮かべながらお礼を言ってくれる。
「……君たち、いったい何をやっているんだ」
不可抗力で歩を止めた私とヒュリアさんに、ユイラくんは少しいらだった声で詰め寄る。
「……ユイラくん、ダンジョン攻略に焦りは禁物です。ここはみんなで協力して、ゆっくりダンジョンを……」
「君は優秀だからそんなことを言えるんだ!! 僕はどんな勝負でも必ず勝たなければならないんだ!!」
私ができるだけ穏やかな声でユイラくんを諭してみるが、それが癪に障ったよう。ユイラくんは私に憤りを隠せない様子で言葉を重ねる。
「僕は伯爵子息として優秀でなくてはいけないのに、C組に振り分けられてしまった! わかるか!? 家族の落胆の声や失望の顔。僕は家の者みんなの期待を一身に背負っているのに、このままじゃダメなんだ! もっと、誰かに誇れる自分でいなくては、存在意義がないではないか!!」
「だから、焦って勝利に固執していたのですね」
「あぁ、そうだ。くだらないと思っただろう。でも、僕にとっては大事なことなんだよ!!」
「いえ、くだらないことではないと思いますよ。向上心を持って物事に挑めば、いつか成果があらわれるものですから」
「君のような生まれ持って才能のある人物に、言われたくはない!!」
ユイラくんの決めつけるような物言いに、さすがにカチンとくる。
だが、こんなことで怒ってはいけない。怒ってしまえば、逆にユイラくんの神経を逆なですることになるだけと、わかっているから。
「私は別に、生まれながらの才能や特筆したものがあるわけではありません。私は5歳のころから魔物を倒したり、独自で剣術を研究したりして強さを求めてきました。今の私は、これまでの努力のたわものなのです」
「5歳の頃から……?」
「えぇ、毎日欠かさず、10年間ずっとね」
私の言い分に信じられないと目を丸くするユイラくんに、私はニコリと微笑みを浮かべながら追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「ま、私の場合は努力をしたという認識はなく、ただ、好きなことを一生懸命しただけですけどね。……だから、ユイラくんも責任感にとらわれず、自分が本当にやりたいことをやるのが一番なのではないですか?」
「……!!」
私の言葉にユイラくんは泣きそうな表情になり、私は彼が嬉しなきなのか悔し泣きなのか判断できず、「大丈夫ですか!?」と慌てずにはいられない。
「あぁ……ありがとう……!!」
大げさなぐらいにお礼をされ、私は困惑しながらも「どういたしまして?」と返す。
「すごいな、ユイラは頭が固く、なかなか感情が動かないことで有名なのに」
「そうなのですか?」
ユイラくんが泣き止んでくれるのを待っている間、フェリナズくんに話しかけられ、彼の話と目の前で泣きじゃくるユイラくんが上手く結びつかず、私は目を見開く。
「あぁ、だから君はすごいよ」
「そ、そうでしょうか……あ、そうだ!! このダンジョンの最深部は、たしかあっちでしたよね?」
「え? うん、そうだけど……」
手放しに誉められたのが嬉しくて、私はダンジョンの最深部方面に掌を向け、パッと思いついた魔法を唱える。
「ライソール!!」
「は? ちょ、ま……!!」
ドカンと派手で大きな音がダンジョン内に地響きと共に鳴り響き、軽い揺れを起こしながらダンジョンの壁が崩れていく。
「はい、これでダンジョン最深部までつながりましたよ! ……あれ?」
背後を振り返ると、ポカ~ンとした顔の3人が目に入り、てっきり喜んでくれるだろうと思い込んでいた私は首をかしげる。
「どうしたんですか?」
「……いや、何でもない。だから、その手をこちらに向けないでくれ!!」
まるで拳銃でも突き付けられたかのようなフェリナズくんの失礼な反応に、私は頬を膨らませながら手をおろす。
「……あれでも羨ましいのか?」
「いや、なんかもうどうでもいいわ……」
「あ、あれを善意でやっているのが恐ろしいです……えと、とりあえず、ダンジョンの最深部に向かいましょうか?」
三者三様の反応を見せながら、私から距離を取りダンジョンの最深部を目指す3人に、私は納得がいかない様子を見せながらも従うのであった。




