13話 結局、ケーキは12個食べた
その後、リゼリアは教師に連行され、学園長室へと消えていった。
一方、私はシャイリンと関わってもいいことはないと判断し、早急に彼女と別れ、一人で寮へと向かった。
「ひっろ~い!!」
3年間世話になる寮の部屋に入るや否や、私は感嘆の声をあげる。
ふふふ、設備の整った学園生活は、それはもう楽しいものであろう。
「……と、その前に荷物の整理を済ませて、パーティー会場に向かわなきゃだよね」
独り言をつぶやきながら私は貴族令嬢にしては少なめの荷物を部屋に設置されていたベッドの上に適当に投げ置く。整理整頓は苦手なんだよね、私。
「着替えは……良いか。どうせみんな制服だろうし」
ゲーム内のスチルを思い出し、私は制服のまま廊下へと出る。というか、まともなドレスも持っていないから、制服以外の正装を求められても困るんだけども。
「……ダンジョン行きてぇ」
学園は生徒を守るためにいくつかの校則が設けられているのだが、その校則の中に、授業外でダンジョンへ生徒だけで探索してはいけないというものがある。
すなわち、私のダンジョン探索欲は、今後授業でのダンジョン探索以外では鎮められないというかなりの鬼畜使用。あぁ、ヤダヤダ。
廊下を歩きながら悶々と考えていると、気がつけば学園に設置されている広いパーティー会場の入り口へとたどり着いていた。
軽く見回してみても、生徒はみんな制服を着ているようで、私は少しだけ安堵する。
「姉さん! こっちこっち!!」
ルイシュアは大きな声を出しながら軽く手を挙げ、私は長身で見つけやすいから便利だなぁと思いながらルイシュアの元へ駆け寄る。
「お待たせ」
「全然大丈夫。むしろ予想よりも早い気がしたけど……。もしかして、荷物の整理をしていない、とか?」
「ソ、ソンナワケナイジャナイ」
顔をそむけながら否定してみてもバレバレだったらしく、ルイシュアは冷たい目で私を見つめる。……なんだか最近、ルイシュアに事あるごとに冷たい目で見られている気がするんだけど、気のせいかな?
「そういえば、シャイリンさんとは別れちゃったんだ」
「あら? まさかルイシュアはシャイリン様と一緒が良かった?」
口元に手を当て、ニマニマしながらからかうようにしてルイシュアに尋ねるが、ルイシュアに「別に?」ときょとんとしながら答えられてしまい、全然面白くない。あんたは攻略対象なんだから、シャイリンに少しは惹かれろよ。
「あ、そうだ。パーティーにはごちそうが沢山出るけど、好き勝手に食べないでよ? あくまで姉さんは侯爵令嬢として、上品にふるまうのを心掛けてね?」
「……はぁい」
「なんでちょっと不屈そうなの」
せっかくパーティーへ行くのに、どうしてごちそうを自重しなければならないのか。まぁ、ルイシュアには迷惑をかけたくないから、今回はルイシュアの言うことに従ってはおくけど。
「ま、僕に迷惑をかけなければそれでいいよ。さっきみたいな騒ぎは起こさないでね?」
「……別にさっきの騒ぎは私のせいじゃないのに」
さすがに今のルイシュアの言葉は不服で異議を申し立てたのだが、ルイシュアは特に気にした様子もなく、すたすたとパーティー会場へと入っていく。
……前言撤回。めちゃくちゃにごちそうを食ってやる。
「うま~!!」
イチゴのショートケーキを上品に一口サイズに切り分け、だらしない顔で頬張る。
私の監視役のルイシュアは、なんとしてでもお近づきになりたい女子生徒に囲まれ、侯爵令嬢らしからぬ行動をとる私を注意することができない様子。
はぁ、誰にも邪魔をされない至極の時間。こんな時間がずっと続けばいいのに。
「――おい、少しいいか? スティラ嬢」
……ですよねぇ、フラグ立てまくってましたもんねぇ。そりゃあ、絡んできますよねぇ。
内心イライラしながら、私に声を掛けてきた人物の方へ顔を向ける。
「あら、これは殿下。ご機嫌麗しゅう」
なんと私なんかに声を掛けてきたのは、この国の第一王子兼まほ王のメイン攻略対象のティルセラ。嫌な予感がしつつ、私は笑顔を繕って挨拶をするが、ティルセラは良い顔をしない。
「先ほどの騒ぎの一件に君が関わっていると聞いてな。シャイリンを傷つけようものならば、容赦はしない」
ティルセラの言葉に良い気持ちはしなかったが、ティルセラのシャイリンに対してかなりの好感を持っているであろう発言におや? となる。
「殿下が思っているようなことはございませんのでご安心ください。詳しくはシャイリン様にお訪ねするのをおすすめします」
私がそう助言をすると、ティルセラは顔を真っ赤にさせながら「い、いやでも……」と、何故だか渋る。
「……しょうがない、スティラ嬢からの助言だ。無下にするのも悪いよな」
一人うんうんと頷きながら、ティルセラは会場の隅っこで暗い顔をしているシャイリンの元へと向かう。
何がティルセラをあそこまで夢中にさせるのだろうと疑問に思いながらも、あそこまで正直な反応をされれば応援をせざるを得ない。
「ちょ、姉さん! 僕が困ってたら助けてよ!!」
「あら? 可愛い女の子たちに絡まれていたから、てっきり嬉しいのかと」
「そんなわけないでしょ!!」
ニマニマとティルセラとシャイリンを見つめながら本日5つ目のケーキを頬張っていると、女子生徒から何とか逃げ出してきたルイシュアに捕まってしまう。
「何をニヤニヤしながら見ているかと思ったら、殿下とシャイリンさんじゃん。あの二人、仲良かったの?」
「さぁ? 殿下に今度聞いてみれば?」
きっと喜ぶだろうし、と付け加えた私の言葉の意味がよくわからないらしく、ルイシュアは小首をかしげる。
「そんなことよりも、ルイシュアは何か食べないの?」
これ以上この話は意味をなさないだろうと、私が話を逸らして先ほどから気になっていたことを訪ねてみると、何処からかタイミングよくお腹の鳴る音が聞こえ、私は笑い声を禁じ得ない。
「しょ、しょうがないじゃん! さっきから美味しそうな匂いに囲まれてるのに、ずっと我慢してたんだからさ!」
顔を真っ赤にしながら言い訳を並べるルイシュアに、私はさらに笑い声を上げながら「はいはい、早くなんか食べなよ」と軽くあしらう。
「わかってるよ……あ、姉さん。そこの肉をとってくれない?」
「パーティー前はあんなに私にいろいろ言ってたのに、ずいぶんがっつり食べるじゃない」
「いいじゃん、別に!!」
ぷくっと膨れるルイシュアにごめんごめんと軽く謝りながら、お望み通り、私のすぐ近くのテーブルに置かれた、良い焼き色のついた分厚いステーキ肉を皿に盛りつける。
「ほい、どうぞ」
「……ありがとう」
照れ臭そうにお礼をしながら皿を受け取るルイシュアに、「うむ」と私は満足げに頷きながら、新たなケーキを手に取る。
「まだ食べる気?」
「いいのよ、別に。要は誰にもバレず、なおかつ何も問題を起こさないように食べればいいだけでしょ?」
「まぁ、そうだけど……」
さすがに食べすぎでしょ、と言われる前にルイシュアをキッと睨みつけ、無言の圧で押し黙らせる。
「普段は適度に運動をしているんだから、これぐらい食べないと逆に足りないのよ」
小さいころからの習慣のおかげか、私は前世で大っ嫌いだった運動にも嬉々として取り組むようになり、一般女性の平均食事量では足りないと医者に告げられるほどにもなったのだ。
なので私は、自分で言うのもなんだがたくさん食べる割にはそれなりにシュッとしているほう。ただ、脱いだら筋肉がかなりついており、貴族令嬢の体つきには到底見えないけど。
「ま、とにかくルイシュアも私を見習ってたくさん食べなさい。女の子には、そっちの方がモテるんだし」
「それは個人の好みとかがあるんじゃないかなぁ」
私のありがた~い意見にケチをつけながら、ルイシュアは大口でステーキを頬張るのであった。




