12話 スライディングセーフ!!
入学式後に各自の教室でやることといえば、そう、自己紹介。
ゲーム内でもさらっとナレーションで紹介はされていたのだが、なんと私たちの世代は黄金世代と呼ばれ、優秀な人材が集まっている世代らしい。
それゆえか、私たちのクラスメイトには異様に公爵家の人間が多く、彼らにこき使われる未来しか見えないという絶望的な状況である。
それだけならばまだいいのだが、私がルイシュアの姉だと判明すると教室内にどよめきが起こったのだけは許しがたい。なんでや、そっくりだろ。
……まぁ、それはともかく。
教室で今後の説明などを終え、私はいったん、3年間過ごすこととなる寮へと向かう。
魔法学園は寮制であるため、しばらくは屋敷に帰ることはなくなる。
すなわち、今の私はとっても晴れやかな気分だ。あのご機嫌取りたちに囲まれながら生活する必要がなくて、とっても嬉しい。
本来であれば寮でゆったりとしたいところだが、今日の夕方からは入学パーティーもあるため、ルイシュアと寮で荷物の整理をした後に待ち合わせをすることにした。なんでも、パーティーに私一人を放っておくと問題を起こしそうで怖いらしい。失礼だな。
「じゃ、またあとでね」
「うん。またあとで。くれぐれも大人しくしていてね?」
寮へ行くだけなのに失礼だなと思いながら、私はルイシュアと平和に別れ、彼の指示通り、大人しく寮へと向かおうとする。が……。
「ん?」
階段の一番上にシャイリンがいるのを確認し、私は不安でついつい彼女を見入ってしまう。
――何もないといいんだけど
私のそんな気持ちをあざ笑うかのように、シャイリンは何かに導かれるように、ふらりと階段の方へ前のめりに倒れ込む。
「キャ――ッ!?」
シャイリンの悲鳴が聞こえると同時に、ほとんど反射的に、私は階段に向かって駆けだしていた。
「姉さん!?」
私の突然の奇行に慌てた声をあげるルイシュアだったが、そんなの気にしている場合じゃない。
ゲーム内で階段付近にいたはずのティルセラは見つからず、その他の生徒も、突然の出来事に瞬時に行動できていない。
今、シャイリンを助けられるのは私だけなのだ。
……しかし、このままでは間に合わない。魔法を使おうにも、私の炎魔法じゃただ単にシャイリンを丸焼きにするだけ。
こうなれば、新品の制服を犠牲にする覚悟の元、あの技をするしかない!!
スライディングじゃボケ――ッ!!
あ、もちろん脳内で叫んだ言葉だよ。さすがに現実でも言ってたらただのやべー奴だからね。
と、色々考えながら、私は前世の体育館でよくやったスライディング技術を応用して、学園内の床を驚くべき速さで滑り、階段下へ急いで移動する。
「キャッ」
短い悲鳴と共に私のお腹の上にシャイリンが倒れ込み、私は咄嗟に、彼女の体をギュッと抱きしめる。
「大丈夫!?」
「へぇ? は、はい……」
私がシャイリンに押し倒された状態で、彼女のの無事を切羽詰まった声で訪ねると、シャイリンは何故だか呆気にとられた顔で私を見つめる。
うわっ、至近距離のシャイリンとか破壊力が高すぎる。そんなつぶらな目で見つめられたらどこかに穴が開いてしまうと錯覚に陥っちゃいそう。
……いや、さすがに押し倒されている状態でいろいろ考えるのはまずいか。
しばらくシャイリンと見つめ合ったところで我に返り、私はシャイリンを支えつつ、上半身を起こす。
「す、すすすすすすすみませぇん!!!!」
シャイリンもようやく私の上に乗っているのを自覚したのか、何度も何度も謝りながら立ち上がり、私はそんな彼女に大丈夫と伝えながら、何事もなかったかのように立ち上がる。
「姉さん!! 何してんの!?!?」
私に掴みかかる勢いで私たちの方へ駆けよってきたルイシュアの表情は、怒りと安堵を含んだ表情をしていた。
「……なんで怒ってんの?」
「はぁ!?」
私がルイシュアに思ったことを聞いてみると、それが癪に障ったようでルイシュアはさらに怒りをあらわにする。
「えと、ご、ごめんなさぁい! 私がドジをしちゃったばっかりにぃ……」
姉弟喧嘩一歩手前な私たちの様子を見て、おろおろしながら謝るシャイリンに、私はにこっと自分でも自覚のできるぐらいの含み笑いを浮かべる。
「いえいえ、貴女は何も悪くないですよ。そもそも、何もない所でこけるなんて、そんな摩訶不思議なこと、あるわけないじゃないですか!」
私はわざとらしく大きな声を出しながら、いまだ階段の上でたむろしている集団の方へ目を向ける。
「ね? リゼリア様?」
「!?」
私の目の向けた集団の中央にいた長身の金髪の令嬢が、ピクリと肩を揺らす。
ネリシャナ伯爵家のご令嬢、リゼリア・ネリシャナ。彼女は私たちと同じB組の人間であり、一応ゲーム内にも登場している、スティラの取り巻きの内の一人である。
そんな彼女が、階段の上にいるシャイリンを突き飛ばしたのを、私は見逃さなかったのである。
「同じクラスの生徒ということで、リゼリア様の意見も聞きたいですわ!」
わざと注目が集まるようにしてそういえば、リゼリアは答えないわけにはいかない。
「……そ、そうですわね…………そんな薄汚い平民を突き飛ばすなんて、よほどの暇人が行ったんでしょうね……!」
「あらあら? 私は誰かがシャイリン様を突き飛ばした、なんて言ってませんよね?
……ふふ、もしかして、貴女がシャイリン様に怪我をさせるために、彼女を階段から突き落としたのですか?」
「……!! ち、違いますわ!! スティラ様の言い分的に、誰かがその平民を突き落としたのだと、そう勘違いをしてしまっただけですわ!!」
「まぁ、たしかに、そう考えてもおかしくはありませんね」
「で、でしょ……」
「で・す・が。私、ばっちり見ちゃったんですよねぇ。貴女がシャイリン様を階段から突き飛ばしたところを」
「僕も見た。というか、この場でシャイリンさんに注目していたほとんどの人が、リゼリア様がシャイリンさんを突き飛ばしたのを確認できたほどの大胆な犯行だったね」
「そ、そんなぁ……! 誰も私になんて注目していませんよぉ!!」
「ううん。君が思っている以上に、貴族にとっては平民って物珍しいものだからね。だからこそ、今こんな風に、悪意にまみれた貴族の一人が、君に危害を加えようとしたわけだし」
「わ、わたくしはやっていませんわ! 平民ごときに危害を加えようとしていたなんて、貴方がたの言いがかりじゃない!!」
伯爵令嬢として、ここで自分の犯行がバレるわけにはいかないのであろう。
この場にいる生徒のみんなの同情を買えるよう、若干震えた声でリゼリアはそう主張する。
しかし、ルイシュアの言う通り、シャイリンに注目をしていた生徒たちはリゼリアの犯行をしかと目にしたのであろう。
必死になって無実を訴えるリゼリアに、冷たい目を向ける。
「さ、これ以上は醜いだけ。さっさと認めなさいな、自分の行いを」
私がリゼリアにとどめを刺すようにしてそういうと、リゼリアはぐぬぬと唸りながら膝をつく。
「わ、わたくしが……やりました」
「――おい、これは何の騒ぎだ!?」
最後まで往生際が悪かったなぁと思いながら、騒ぎを聞きつけた教師に、今起こった出来事を事細かに語るのであった (主にルイシュアが)。




