表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は断罪回避に尽くします  作者: 夜桜 舞
1章 幼き日の悪役令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/13

10話 悪役令嬢の大切なもの

入学前実力調査から、すでに1週間ほどが経過した。

一方の私はというと、この1週間、真っ暗な自室に引きこもっていた。


どうしてかって? そんなの、簡単だよ。……絶望していたから。


自分の意思とは関係なく人を傷つけようとして、自分の意思とは関係なく、ゲーム内のスティラのセリフを口にした。


怖かった。もしかしたら、ルイシュアにも同じ態度をとって傷つけてしまうと考えたら。恐ろしかった。どれだけ強くなっても、ゲームのように誰かを傷つけてしまうと思ったら。


自分のために手に入れた強さが、他人を傷つけてしまったらと考えたら、部屋から出たくなくなってしまったのだ。


私の考えは甘かった。心のどこかで私は、ゲームと違う行動をとれば悪役令嬢として生きていく必要はなくなると思っていた。


……でも、その考えは間違っているのかもしれない。先日の出来事は、その事実を突きつけられてしまったようで、私はどうすればいいのか分からなくなってしまった。


行動あるのみとがむしゃらに鍛えていたころのような心の強さは、もう私にはない。

しょせん、私はゲームの中のプログラムされた人物ではなく、今を生きているのだ。ゲームのスティラのような強メンタルを持てるわけなどない。


これまでの私は、良くも悪くも自分勝手だった。だからこそ、自由に行動できていたのかもしれないけど。


ゲーム通りに弱いままでいれば、自分の力不足を嘆きながらゲームの舞台である学園入学に挑めたかもしれない。

でも、今は私の意思関係なしに悪役令嬢としての行動をしてしまえば、ヒロインですら私を止めれるかはわからない。

そして、だれかれ関係なく傷つける、本当の化け物に成り下がってしまうかもしれない。


……もう私に、生きている価値なんてないのかもしれないな。


「――姉さん」


マイナス思考に陥っていると、ドアの向こうから小さく私を呼ぶ声が聞こえた。


「姉さん……ねぇ、ドアの向こうに、姉さんはいるの!?」

「……っ」


ルイシュアの悲痛な声で、だんまりを決め込もうとしていた私は息をのむ。


ゲームの悪役令嬢と攻略対象が交わるわけにはいかない。

ルイシュアがゲームの内容通り攻略対象としての道さえ歩んでくれれば、彼の今後の人生は順風満帆なのだ。わざわざゲームの闇である悪役令嬢の私と関わる必要なんてない。


優しさ? 違う、これは私の単なるエゴ。私のせいでルイシュアに不幸になってほしくないという、自分よがりな思い。


それでも、私はせめてお姉ちゃんとして、ルイシュアの幸せを導いてあげたい。たとえ、自分がどれだけ悪役になろうとも。


だから、今ここでの私の選択肢で一番正しいのは、ルイシュアを突き放して少しでもゲーム内容の状況と近づけること。大好きなルイシュアに、少しでも嫌われること。


「……そんなこと、できるわけないじゃない」


どこまでも心の弱い自分に呆れながら、私は扉の向こうにいるルイシュアにそっと話しかける。


「大丈夫よ、ルイシュア。私はここにいるから」


せめてルイシュアに心配をかけないよう、泣きたいのを必死にこらえながら、いつも通りの声音で話す。


「……嘘つき」


しかし、長年一緒に暮らしてきたルイシュアには、見栄っ張りな私の真意には気づいてしまったらしい。ほんと、変な所で目ざといんだからさ。


「……僕はずっと、姉さんのことが大っ嫌いだ。いつも一人で突っ走って、うるさいくらいいつもけらけらと笑ってさ。んで、誰かの助けなんて求めようともせず、いっつも一人で解決しようとして。ねぇ、姉さん。姉さんにとって、僕はそんなに頼りない? もっと僕のことを頼ってよ。僕は姉さんの、自慢の弟じゃなかったのかよ!?」


押し黙る私をいいことに、ルイシュアは涙声でこれまで心のうちに秘めていたのであろう気持ちを一気にさらけ出す。


「姉さんは何が不安なのかはわからない。姉さんがどんだけ怖がっているのかも理解できない。でも、僕はもう、姉さんに初めて会ったときみたいに、ただ手を差し伸べられてるだけじゃない。ずっと、誰かの助けなしじゃ生きられないような人間じゃないんだ!!姉さんよりもずっと大きくなって、頼りになれるような人間になった! でも、一番頼ってほしい姉さんに頼られなきゃ、意味がないじゃないか!!」


私はこれまで、勘違いをしていたのかもしれない。ルイシュアの中にはもうすでに、初めて出会ったころのおどおどとした少年は消えて無くなっていたと思っていた。

でも、実際のルイシュアはどこまでも子供で、必死に強がっているだけだったらしい。


……うん、やっぱり。こんな優しい子を私の断罪へと突き進む道を、一緒に歩ませてはだめ。

だから私は、変わるんだ。この大切で泣き虫な弟を、もう二度と泣かせないように。ルイシュアは笑顔が一番似合うのだ。

もう、彼を拒絶しようなんて思わない。そして、決して私は断罪への道は歩まない。


うじうじ悩んでいたって仕方がない。当たって砕けろ、行動あるのみ! そちらの方が、私にはふさわしいのだ。


「ごめんね、ルイシュア。私、間違ってた」


この1週間の自分を捨て去るように、私は頬を叩いて自室のドアを開ける。


まるで私の心の中を現していたかのような真っ暗な部屋に、明るい光がまっすぐに突き刺してくる。


これからは、自分も、自分の大切なものも傷つけない。絶対に、絶対に。


そして、私はもう、悪役令嬢としては生きない。私は私として、スティラの人生を全うするのだ。


そんな私の決意に気づいたかのように、ルイシュアは私を見て目を見開く。


「姉さん……いますぐ風呂に入った方がいと思う」

「もうヤダ! 1週間ぶりのお姉ちゃんになんてことを言うのよ~!!」

「ギャ―! 抱き着くんじゃね――ッ!!」


キャッキャと1週間ぶりの弟ではしゃぐ私に、ルイシュアは呆れた表情を浮かべるが、その瞳は、とても穏やかに私のことを見つめていた。


ふふ、いろいろ言ってたけど、やっぱり私のことが大好きなんじゃん。



たしかに、不安なことは沢山ある。きっとこれからの人生には、部屋に引きこもっていた方が良かったと思ってしまうほど、つらい出来事があるのであろう。


しかし、私はもう、決して逃げるなんてことはしない。


ルイシュアを含めた大切なものや、何より自分のために、断罪への道や困難道のりにも、全力で抗ってやるんだ。


そう決意する私の目には、いつもよりも世界が輝いて見えた。……まぁ、ただ単に、1週間ぶりに真っ暗な部屋から出たから、そう見えているだけだと思うけどね!

これにて第一章は終了。次回から本格的に物語が始まります。

この作品が少しでも気にいった方は、ブックマークや☆☆☆☆☆で評価をしてくださると、作者はとても喜ぶようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ