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第2話 犠牲の選択

神羅儀かむらぎ神社の宮司の息子ですか?」


五菱の担当者から急用があると言うことで、珍しく電話が掛かってきた。


「はい。男性の応募書類は即破棄しているんですが、たまたま破棄処分を担当していた社員が神羅儀神社の近所の出身でして、その息子さんとも同級生だったらしいです。その方の出身中学があの辺りなので間違いないかと」


神羅儀神社の直系…


面白いかもしれない。


「ご報告ありがとうございます。その方の詳しい情報を教えていただけますか?」



─────────────────────




「それは面白い偶然ですねえ…」


堀江課長はいつもの微笑みを浮かべながら頷く。


堀江課長は曲者が多い官僚のなかでも、特に食えない人だ。


でもこの人が祷雨に賛成してくれたから、ここまで計画が進んだというのが大きい。


財務省とのコネも強いから、予算も思いの外すんなり通った。


「もう一人追加で派遣するのは許可しましょう。せっかくの機会ですし」


「ありがとうございます」


「しかし…」


堀江課長はそう言いながらちょっと表情を崩した。


「いいですねえ。私もシオガに行ってみたいです。本物の龍を見てみたいなあ」


「龍がお好きなんですか?」


「私の世代は、結構好きな人多いと思いますよ」


「…?そうなんですか」


しばらくして堀江課長は、緩んだ表情をもとに戻した。


「それではシオガで、ご活躍を期待していますよ。斎藤さん」




────────────────────



「ああ、あの世代はもろドンピシャかも」


「そうなの?」


矢野は自分の腕を枕にしながら喋った。


「ちょうどあのあたりは、アニメのドラゴンウォーズとか、ブルードラゴンとかドハマリ世代だよ。同期入省の人たちが集まると今でも盛り上がってるし」


「ふーん…」


「まあ、同期の繋がりの強さは官僚あるあるだけどさ。俺たちもだけど」


「そうだね」


「それよりさ…」


腕枕をほどいて、矢野は覆い被さってきた。


「来週からシオガだろ?半年会えないんだからさ、…もう一回やろうぜ」



─────────────────────




件名:国会想定問答(祷雨計画関連)について


矢野さん


お疲れ様です。シオガの斎藤です。


昨日共有いただいたQ&A草案、ざっと拝見しました。大筋は問題ありませんが、

・3ページ目の「巫女選定基準」

・5ページ目の「異世界側との通信手段」

について、実際と乖離があります。以下、修正案を追記したファイルを添付しています。


また、祷雨計画に関しては、あくまで“既存予算内での技術検証”という建付けを前面に出す形が、予算委での質疑対策としても有効です。


お忙しいところ恐縮ですが、必要に応じて法務課とも擦り合わせのうえ、修正案をご確認いただけますと幸いです。


斎藤




件名:Re:国会想定問答(祷雨計画関連)について


斎藤さん


お疲れ様です。矢野です。


草案のご確認、ありがとうございました。

ご指摘いただいた箇所については、早急に修正のうえ改めてお送りいたします。

お手数をおかけしますが、ご確認のほどよろしくお願いいたします。


また、シオガ赴任から2ヶ月が経ちましたが、祷雨計画の進捗状況について可能な範囲でご共有いただけますと幸いです。


引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。



矢野




─────────────────────



早川さんたちは知らないけど、実はシオガと外務省とは電話線が繋がっている。


回線は古いけど電話で通話やZoom会議もできるし、Word添付のメールでのやり取りも問題ない。



正直私はシオガでやることが多くないので、こうやって本省の仕事に時間をさくことができる。


祷雨否定派はシオガで遊んでるんじゃないかと陰口を叩いてそうだけど、その連中を黙らせるためにもまめな連絡と作業は必須だ。


矢野の言う通りこちらに来て2ヶ月たつが、早川さんは龍と関係が築けないと悩んでいた。


それでもあれだけの龍声紋を持っているなら、時間の問題だろう。


そう思っていたら案の定数日後、夕食のときににこにこしながら


「斎藤さん、私メイリンや龍たちと仲良くなれました」


と報告してきた。


とりあえず第一段階は突破した。




……と思ってたのに。


「祷雨を行う自信がありません」


祷雨実行直前の会議で、早川さんはこう言い出した。


「龍の命が犠牲になるんですよね?私には無理です」


…誰が吹き込んだんだろう。


いつかは知らせないといけないと思っていたけど、タイミングは慎重に図ろうと思ってたのに、余計なことをした人がいたらしい。


まだ祷雨をやってみて失敗だったら仕方がないけれど、逃げられることだけは避けたい。


そんなことをされたら、今までの苦労が水の泡だ。



「命の線引きの基準はなんですか?」


今から思えば、かなり追い込んでしまったと思う。


早川さんは思考停止して完全に固まってしまった。


まずい、これからどうやってフォローするか…と頭を巡らせていると、救世主が現れた。


ハウエン国のサーカップ国王が祷雨の直訴に来たのだ。


土下座までされて早川さんは追い込まれている。


もう少し。


もう一押し。


すると早川さんは、いつもよりワントーン落ち着いた声で「分かりました」と答えた。




「祷雨を行います」




ここまで数ヵ月、早川さんを見てきたけど、彼女は真面目で責任感が強い。


自分で決めたことなら最後までやり遂げるだろう。例え途中で悩んでも。



とりあえず胸を撫で下ろした。


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