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最終話 東大、外務省、そして

斎藤と俺が一緒にいるのを見られてた…


職場では気を付けてたし、外で会うのも近場は避けてた。


でもいつ見られても、おかしくなかったのかもしれない。


逆に飯田でよかったのかも。






「飯田に?」


シャワーから出てきて濡れた髪を拭きながら、斎藤は聞き返してきた。


「うん、あいつは口固いから多分大丈夫だと思うけど」


「ふーん…」


斎藤の反応が読めない。


職場の連中に知られるって斎藤は絶対嫌がりそうだから、何を言ってくるだろう。


そもそも同期飲みでキレたのがバレたきっかけだったとしたら、それは俺のせいだ。



「まあ、しばらくは気を付けようか」


斎藤は淡々と言った。


「バレた人には仕方ないけど、めんどくさいことは避けたいし」


「そうだよな、ごめん…」


「なんで矢野が謝るの?」


「いや、何となく」


あの飲み会でキレたことなんて斎藤に言えない。


とりあえずしばらくは、職場でも最低限しか関わらないことにした。


もともと課もフロアも違うから会う機会も少ないし、すれ違っても目を合わせず会釈だけ。


これなら大丈夫だろう。




…と思ってたら皮肉なもので、それから仕事で斎藤と絡むことが多くなった。


課が違うのに、ここまで仕事が重なるのは珍しいと思う。



この間も、ある会議で一緒になった。



「矢野課長補佐、この件、現時点の情報だけで判断するなら、もう少し様子を見るべきです。現場からも追加情報が来てますし」


「斎藤課長補佐、確かに短期的にはその方が安全ですが、今止まったら半年後に競合国に先行されるリスクが高いです。あえて先に動いて布石を打つべきだと思います」


斎藤は完全に仕事モードの目で俺を見てくる。


「布石を打つのはいいですが、現地情勢が不安定です。今のままでは失敗したときの責任が大きすぎます」


俺もそれを真正面から受け止める。


「だからこそ、リスクを分散させる方法を考えます。今のうちに動かないと、逆に安全策が取れなくなります」


「……では、最低限の安全網を確保した上で、部分的に前倒ししましょう。それなら責任の所在も明確にできます」


「いいですね、それで行きましょう」



もともと斎藤と俺は仕事のスタンスが違う。


斎藤は現在のリスクを出来るだけ潰す「今」を重視するタイプ、逆に俺は長期的な効果のためなら現在のリスクは多少は飲むタイプ。


もちろんこれには正解はない。


ぶつかるときはぶつかるけど、うまく噛み合えばお互いの妥協点を見出だして建設的な答えを効率よく出せる。


恐らくこれが重宝がられてるようだ。




「矢野さんと斎藤さん、相性いいですよね」


政策課の事務官、白井さんに声をかけられる。


「え…」


「なんだか阿吽の呼吸と言うか、矢野さんが政策課におられたときも思ってましたけど、最近特に見えないところで通じ合ってるような…」


「…」


言葉につまる。


結構ビジネスモード貫いてるつもりだけど、やっぱり勘づかれるんだろうか。


白井さんはこうやってあっけらかんと言ってくれるけど、大半がきっと気づいても何も言わない。


ちょっと冷や汗が出てきた。




───────────────────



「白井さんにも言われたんだ」


「うん、もしかしたらもう察しのいい人は分かってるかもしれない」


「私も堀江さんに仲がいいですねって言われたよ」


「堀江さんにも?」


これで少なくとも三人は勘づいてる。


いや去年の同期飲みの時も新島に距離が近いと言われたから、確実なのは四人か。


知れ渡るのも、もう時間の問題かもしれない。



キッチンの冷蔵庫の方に行く斎藤に、言葉をかける。


「…仕事では隙を見せてないつもりだけど、プライベート興味津々なやつ多いしな。人の口に戸は立てられないし」


特に斎藤は、普段からいろんな意味で男女問わず注目の的だ。


俺は頭を抱えた。



そんな俺をよそに斎藤は、さらっと言った。


「…まあ、バレたらしょうがないか」


え?


予想外の斎藤の言葉に驚く。


「いいのか?」


「だからしょうがないって」


えらくあっさりしてるな。



「…まあ、このまま知れ渡ったら」


手に持っていたペットボトルをテーブルに置いて、俺の首に手を回してくる。


「籍でも入れる?」


「…マジで?」


「嘘」


どっちだよ。



「…まあ、最近ちょっとありかなって考えてるのは本当」


斎藤はスッと視線をそらした。


「矢野とはずっと一緒にいたいって思うから、籍入れたらめんどくさい噂は消えるかなと思って」


この言葉を俺は喜んでいいんだろうか。


え?と言うか俺、逆プロポーズされてる?



斎藤は改めて俺を見てきた。


「…法的なパートナーって考えたらありかなって思ってる。矢野はどう?」


「それは…」


断る理由なんかねえよ。



「…俺でいいのか?紀子」


すると斎藤は今まで見たことがないくらい、ふわっと笑った。




「悠樹だからいいんだよ」


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