第6話 国を動かす人たち
プライベートでどんなに落ち込んでいても仕事は待ってくれない。
出勤すれば相変わらずの膨大な仕事量、えげつない残業時間、神経をすり減らして言葉一つ一つを選んでいく。
それは今まではただの仕事だった。
やらなきゃいけないからやってただけ。
でも俺たちがやっているのは文字通り日本を動かす仕事。
そこには人の生活や人生が存在している。
俺はそれらをもちろん知ってるつもりだったけど、見てなかった、いや見ようとしてなかったのかもしれない。
ひとつの法案でたくさんの人の人生が決まるなんて考えてると、身が持たない。
ただの記号、ただの仕事として割り切った方が心は楽だった。
でもそれでいいのだろうか。
改めて自分の仕事について、俺は考えるようになった。
職場では斎藤とは相変わらずだった。
この関係になってもうすぐ一年半だ。
斎藤の仕事振りは相変わらず容赦ないけど、今ごろになって斎藤はこの仕事が好きなんだなと思った。
国のため、国民のため、そこに軸を置いて全くぶれない。
だから官僚の忖度や無責任な発言にはしっかり釘を刺すし、逆に真剣に頑張りながらも躓いてる人にはきちんとフォローをする。
…ファンが多いわけだ。
ある日、同期LINEで飲みの誘いがあった。
これは同期でも男同士で組んでるグループで、気兼ねなく集まろうと言うものだった。
ただこの会をよく主催するのが、新島だ。
新島は飄々としていて、少しヒヤリとする場面もある。
官僚だから場はわきまえるけど、飲み会ではたまにエグい発言もする。
この時も話題に上がったのは女性官僚の話だ。
あの人は胸が大きいとか、三角関係でもめてるとか、まあゴシップ好きのスピーカーといった位置付けだ。
その新島の口から斎藤の名前が出た。
「矢野、最近斎藤と仲良くね?」
「…いや、そんなことないよ。同じ課だからよく喋るけど」
「そうか?なんか距離近いなって思うことあるけど」
ちょっと冷や汗が出る。
気を付けてるつもりだけど、勘づいてる人もいるのかもしれない。
新島は酒が入ったせいか饒舌になった。
「斎藤って前から思ってたけど、あいつ絶対エロいと思う」
思わずピクリ、と眉が動く。
それに続いて他の同期たちも適当なことを言っていく。
「あー、俺もそれ思った」
「ああいう仕事に厳しい女って、触れなば落ちんタイプじゃね?」
「案外、誘ったら乗ってきたりして」
「いや、この間、推進課の課長が誘ったら秒殺だったらしいよ」
「あの人既婚者じゃん」
あくまで男同士の軽口だ。
でも俺は思わず持っていたビールのジョッキを、ダン!とテーブルに叩きつけた。
それに一気に場が静まり返る。
「え?矢野、どうした?」
「…別に」
俺の顔色が変わったのを察したのか、その場の話題は別に移った。
お前らに何が分かる。
あいつの仕事量がとんでもないことは、お前ら知ってるだろうが。
何の苦労もせず、やってのけてると思ってんのかよ。
そこからは無言でビールを飲み続けた。




