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08話 - 奇襲

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。


納得いかなくて、何回も書き直していたら間が空いてしまった……。


m(_ _)m

 空は明るく時は未だ表の世界、天頂には黄金の太陽が輝く。

 木々豊かな森は陽の光を弱めながらも、消して殺しきることは出来ない。

 風は涼しく、ともすれば心地よい風に身を委ねてしまいたくもなりそうである。

 碧い森は多くのものを隠す、その命育む森の恵も、新たに命生まれいずる揺籠も、……そして命を刈り取る狩人の牙も。

 ……。

 そして、その森の周囲に今まさに火の手が上がり始めた。



 周囲は岩肌。

 離れた地には火の手が上がり始めた、深緑の森。

「……風向き、天候共に問題はなしです」

 ここに居るのは俺――雄矢に洸樹(こうぎ)さん、翁波(おうは)さん、それに桜さんの四人だ。

 麗華さんは村で待機。

 木裏(きり)さんは若い青年へいたちの指揮だ。

 流石に先代の村長というだけあって、中々に熟達した指揮ぶりだ。

「さすがは木裏。完璧なタイミングだな……」

 俺の横で翁波さんも感歎の呟きをもらしていた。


「さて、こちらも準備です。ここに来るまでに幾つかの罠を張りました、おそらくは罠から逃れたジェヴォーダンは眼下を通るでしょう」

 下げていた狙撃銃を片手に眼下を示す。

 眼下には岩肌が目立つ山道がある。

 火計の位置、ジェヴォーダンの習性や行動パターン。様々な要素を計算し導き出した答えの結果が眼下の山道なのだ。


 ちなみに俺が手に持っているのは竜機神の内部から持ってきていたモノだ。

 外見としてはバレットM82に酷似している。

 尤も、外見はともかくとして、中身は帝国技研が丹精を込めて作り上げた芸術品だ。

 威力も飛距離も従来のものとは桁が違う。

 竜機神と契約し、全身にナノマシン処理などの強化手術を受けた強化兵にしか使用できない。唯一無二(ワンオフ)

 内部に積む弾も、装甲貫通弾(アーマーピアス)と炸裂榴弾を用意している。


「俺が合図したら、下に向かって突撃してください。俺は援護及び、群れの頭の始末に専念します」

「「応!」」

 戦士二人は一言で応じ、桜さんは丁寧な頷きで応じた。


 ……。

 ジェヴォーダンの体躯がどれほどの堅牢さを誇るかは分からないが、一応念には念を。

 カチッ。

 炸裂榴弾が込められている弾倉を銃身に填め込む。

 用意した策を動かすための鍵だ。


 銃身に備え付けのスコープを覗き込めば、眼下の路が拡大されて見える。

 ついで、スコープのズーム機能などや赤外線機能なども確認をする。

「……よし」

 一応冬には連絡を入れてある。

 ……もう少しばかり時間がかかるらしいが。

 ……。


 一度スコープから目を話すと、衛星(アーカーシャ)にアクセスした。

 アーカーシャの観測機器には森の中で奔り回っている獣の群れが確認できる。

 火計は森を囲むような形で発生させている。唯一この路に逃れる位置だけに火の手が上がっていない。

 また同時に獣の嫌がる臭いも一緒に焚いている。

「……ふう」

 再度スコープを覗く。

「……」

 深呼吸をし、精神を統一する。

 全ての雑念を捨て、精神を無我と呼ばれる境地にまで持っていく。

 表すなら、明鏡止水。

「……」



 意識の全てを森に向ける。

 周囲では洸樹さん翁波さんが剣を片手に固唾を飲んでいる。

 桜さんも緊張気味だ。


 と。

「来る!」

 咆哮が轟き、森からジェヴォーダンの群れが雪崩れてきた。

 その先頭には。

「な、なんだ!あれは!?」

「むっ!」

 翁波さんと洸樹さんの驚愕の声だ。


 群れの先頭には、他のジェヴォーダンの二倍近い体躯の黄金の獣がいたのだ。

 ……あれが、輝夜(かぐや)の言っていた。

 などと、感想を漏らす。

 だが、感想とは別に俺の中の冷徹な部分が作戦を遂行するための引き金を引いた。

 ダァンッ!

 という轟音と共に銃身に凄まじい反動が掛かる。

 並みの人間であれば、今の一撃で肩が砕けていただろう。

 だが、その甲斐はあった。

 銃口から音速超で飛び出した炸裂榴弾が岩肌に突き刺さる。

 竜機神の計算能力を利用し、しつこくしつこく計算し導き出した箇所だ。


 榴弾は岩肌に突き刺さると、巨大な爆発を引き起こした、……結果。

「おおっ!」

「ぬっ!」

「……すごい」

 三者三様で驚愕の声を漏らす。

 そう、榴弾が爆発した次の瞬間、岩肌が崩れ、小さくない山崩れを引き起こしたのだ。

 黄金の獣とその周囲は巻き込まれなかったが、それでもその後の後続の殆どは巻き込まれたのだ。


「今です!行ってください!」

 三人に号令を下す。

 木裏さんや村の青年衆を使って森に火をかけ、榴弾で山崩れを引き起こす。

 全ては今この瞬間のためだけ。

 俺の令を聞き、洸樹さんと翁波さんが剣を片手に突撃していく。

 僅かに遅れて桜さんが駆ける。

「……信じています」

 それだけ呟くと、再度スコープを覗き、引き金に指をかけた。



 ―――洸樹―――


 残っているジェヴォーダンは群れの長を含めて二十頭を超える程度。

 やって、やれないことはない。

「翁波!」

「応!」

 村の戦頭(いくさがしら)がただ一言にて応じ、剣を片手にジェヴォーダンを始末に掛かった。


 わしも翁波も既に励術で身体能力強化を発動し、肉体を気の鎧で覆っている。

 また剣も気の膜でコーティングをかけて、刃の切れ味を底上げしている。

 獣の類程度にはそうそう遅れは取らない自信がある。


「はあっ!!」

 剛剣一閃。

 高速で奔った剣は狙いを外すことなく、ジェヴォーダンの胴体を両断した。

 剣が奔る度に、ジェヴォーダンが切り裂かれていく。

 舞うように、されど力強く。

 剛剣の一閃が輝くたびに、獣の断末魔が響き渡った。


 再度、先程同様の轟音が二度響き渡る。

 雄矢殿の武器が発する音だ。

 同時に、黄金の獣が真横に跳躍する。

 次の瞬間、大地が爆ぜる。

 恐らくは雄矢殿の攻撃を避けたのだろうが、そのような感想を言う暇もない。

 此方も多数の獣を相手に一杯一杯だ。

 と。

 ■■■■■■■■!

 黄金の獣から常識外れの大音量の咆哮が響き渡り。

「なっ!」

 同時に、巨大な衝撃波の塊が大地を抉り、森の木々を吹き飛ばしながら雄矢殿の居る方向に進撃していった。

 だが。

 ドォンッ!

 衝撃波の塊は途中で爆炎を噴き上げて、消失した。

 恐らくは雄矢殿が打ち消したのだろう。

 さらに畳み掛けるように、連続して轟音が響き渡る。

 ……。

 ……だが。


 ……。

「……嘘でしょう」

 強化された五感は(むすめ)の呆然とした声を拾う。

 黄金の獣は残像すら残す超高速で……否、神速の機動で雄矢殿の攻撃の全てを回避したのだ。



 ―――藤宮 雄矢―――


 目の前で洸樹さんと翁波さんが無双している。

 剣一本で次々とジェヴォーダンを屠っていく様は正にゲームの世界である。

 ……。

「……いや、……あんたら。それ、流石にチートすぎじゃね?」


 とりあえず、当初の予定通り群れの長を仕留めることにする。

 ゆえに、時を置かずに黄金の獣を狙撃したのだが……。

「……………………………………………………、は?」

 信じられないものを見た。


 なんと、狙撃銃から放たれた超々高速の弾丸を回避したのだ。

「……………………………………………………、ねぇわ」

 思考停止は一瞬。

 即座に引き金を引き、第二射を撃ち出す。

 だが、あらかじめ弾道を予測していたかのように、避けられた。

 ……。

 とりあえず、呆然と一言。

「……おい」


 と。

 ■■■■■■■■!

 大気を震わす巨大な咆哮が響き渡り、衝撃波が迫る。

「……遠距離攻撃まであんのかよ」

 ……笑えねえなぁ。

 衝撃波に榴弾を叩き込み無効化する。

 衝撃とは即ち振動。故に振動は振動で相殺できる。

 初歩の科学だ。

 爆音が響き渡り、迫った衝撃波を散らした。

 ……。


 しかし、俺の目は見逃してはいなかった。

 黄金の獣は、引き金を引く直前には既に回避行動に入っていたのを。

 外したのではない、外されたのだと、分かる。

 ……。

 瞬間「短期未来予測(プレコグ)」という言葉が頭の中を()ぎる、が。

「ちっ」

 軽い舌打ちを打ちつつも、引き金を引く。

 初弾を避けられるのを予測し避けた先に次弾を、最後に予備として次弾を避けるであろう先に三弾目を。

 ダダダンッ!

 狙撃銃での高速三連射トリプル・クイックドロウ

 だが。

「………………え?これ、なんてドM仕様?」

 それでも、完全に見極められた後に避けられてしまう。

 ……。

 口からは白い何かが飛び出そうになった。


 とりあえずは弾倉が空になるまで撃ちつくすが、掠りもしない。

 今までの経験から、これは無理だと分かる。

 早い話、黄金の獣は完全に俺の射撃能力の上を行ったのだ。


 既に接触まではカウント10を切っている。

「やるっきゃねーか」

 狙撃銃から手を離すと、背腰部に括りつけてあったコンバットナイフを引き抜く。

 切れ味より、頑丈さを重視した一品だ。

 右手のナイフを目前に持ってきて半身に構える。

「……」

 俺の近接戦闘能力はそれこそ一般の帝国兵にすら劣る。

 俺が帝国技研に引き抜かれたのはエースパイロットであった空戦能力と、竜機神などの相性の関係であって、そこに近接能力の有無は関係なかった。

 技研でもそこを改善するようなことはいっさいやっていない。

 ゆえに、構えたナイフは完全に偽装(フェイク)だ。

 本命は……。



 岩場の上を黄金の獣に先行するかのように走る。

 少なくとも、この化け物をあの三人から引き離す必要がある。

 あの三人ならば少なくとも、あの場に残したジェヴォーダン程度にはやられないだろう。それに、これから行う行為は他人、とりわけこの世界の住人には見せられない。

 途中、何度か攻撃されるが避けるかナイフで受けるかして、どうにか切り抜ける。

 俺様の身体能力舐めるなよ、と言ってやりたかった、が。

「っ!」

 正直なところ、そのような余裕は欠片もない。

 一撃一撃が異常に重いのだ。

 その上、こちらの挙動を完全に見切っているような動きで攻撃をしてくるので、正直完全回避は無理。

 攻撃される度、俺自身の体力が確実に削られていた。


 ……。

 何十度か目の攻撃を捌く。

 既に俺の全身は、獣の鋭い爪で切り裂かれ滲んだ血で真っ赤だ。

 だが、その痛みが逆に俺を冷静にさせる。

 ……やる、か。

 洸樹さん達からも相当に離れた。

 これならば万が一俺がシクっても冬が駆けつけられるだろう。

「……」

 止まり、構え、振り向く。

 意識の全てを目の前の獣に集中する。

「さぁ、ラストダンスと洒落込もうぜ!」


 ……。

 黄金の獣が地を蹴り、駆ける。

 ……。

 攻防は僅か一瞬。


 左上から叩き込まれた爪の一撃をナイフで防ぎ、同時に真横から叩き込まれた爪を腕を犠牲にして防ぐ。が、半瞬後にその巨体に相応しい大きな口で胴体を丸齧りにされた。

 胴体が完全に噛み砕かれなかったのは、腐っても強化兵であったからだろう。

 ……。

 口から大量の血を吐き出し、筋肉が千切れ、胴の骨が砕かれていく激痛の中。

「……決まった、か」

 血反吐を吐きながらも、笑い、宣言した。



「俺の勝ちだ」

 ……。

 次の瞬間、黄金の獣の体がずれた(・・・)


 ……。

 竜機神の時空間干渉制御能力で空間をずらしたのだ。

 獣の体ごと。

 表すのなら、即ち時空間干渉制御能力による『空間切断』。

 ……。

 それは画用紙に描かれた絵を、画用紙ごと破るようなものである。

 対象の強弱大小には一切合切関係ない。

 ただ、空間ごと「ずれた」という過程が発生し、結果「ずれた空間に沿って断たれた」という結果が発生したのだ。

 唯一の難点を挙げるとすれば今回の業は、あくまで空間を対象にして発動しているゆえ、黄金の獣の足を止める必要があったということ。

 冬ならば動き回っている相手であろうと関係ないのだろうが、生憎と俺は生身のままでは『GAIA』の力を細かくは使うことはできない。練習をすれば使えるようになるのだろうが、今はその限りではない。

 ……。

 ゆえに、自らの存在を囮にしたのだ。


 目の前で俺に齧りついていた獣の体がバラバラになる。

 空間切断の結果だ。

 回避は出来たとしても、当たったのなら防御不可能な一撃。

 文字通り、「俺の勝ち」だろう。

 尤も。

「……かっ、はっ」

 俺の胴には大小無数の穴が開いているし、血も先程から止まらない。

「……終わった、か」

 死を目の前にして苦笑が浮かぶ。

 いくらナノマシン処理を受けた強化兵とはいえども、体内の重要な臓器を多数破損し、血も大量に外に出ている状態では助かる見込みは薄い。

 むしろ、未だ死なずに意識を保っていられるのが不思議な状況だ。


 ……。

 意識に一瞬の空白が生まれる、気づけば大地に倒れ付していた。

 ……冬は泣くなぁ。

 全身が寒く。視界が暗く染まっていく。

 ……。

 残すことになる冬には心のそこから申し訳ない。

 そして、巻き込むだけ巻き込んで早々に退場してしまうゆえ、他の者達にも申し訳ない。

 ……。

 心残りがありすぎる。

 ……。

 ……まぁ、戦争の為と言い、あれだけ手を汚したのだ。

 このまま何事もなかったかのように平和に暮らせるとは思っていなかった。

 ……獣の餌になり掛けるとは、俺に相応しい最後かもしれないなぁ。

 ただ、巻き込んでしまった皆には本当に申し訳ない。

 それだけが本当に心残りだ。


「……わりぃ」


 終りを目の前にして、静かに目を閉じた。




 ……。


 故にこそ。


 雄矢の身を護るようにして広がった紅蓮の炎翼を見逃してしまった。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。

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