07話 - 妖精の末
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
今回はちょっと短いかも……。
この世界に三つの術体系が存在するらしい。
一つ目が、『励術』。二つ目が、『方術』。最後が『占術』。
励術は、肉体強化や五感の強化、治癒能力の強化などで、総じて肉体の内側に作用するものである。
方術は、火水風土を利用した自然の威力を形にしての行使、また結界の構築・展開など、肉体の外側に作用する能力である。
最後の占術は、未来を予知したりその者の善し悪しを導いたり逆に、その者の過去を手繰るなど、世界に作用する能力である。
総じてこれらを『術』と言い、この世界の一般常識である。
俺と冬が知らないと言い、麗華さんが酷く驚いていたのも、そのためである。
また、この『励術』、『方術』、『占術』は基本系であり、これらには幾つかの発生系が存在する。
有名なところでは励術の上位版である『功術』。これは肉体の修復や、怪我の治癒などである。励術が自らの肉体にしか作用しないのに比べ、この功術は他者の肉体に作用させることが出来るのだ。
さらには方術の上位である『火術』、『水術』、『風術』、『地術』等。これらはそれぞれ四大の火水風土に特化した術である。
そして、この世界の住人は皆この術を行使する力をもっている。
この村でいえば、洸樹さんや翁波さん、木裏さんは励術師。桜さんは方術師、麗華さんは占術師。
……。
人によってその力には強弱があり、実際に行使できる術も異なるが、持っていて当然の能力なのだ。
また、世界にはこれら『術』に属さない『異能』も存在するが、異能は相当に稀少な能力であり、今までの歴史で六人だけいたそうだ。
……。
もし、この場に冬月がいれば、帝国の生物兵器『妖精』と共和国の生物兵器『罪業』との関連性を見つけ出して、いろいろと気づいていただろう。
……。
術とは妖精の持っていた力であり、異能とは罪業が持っていた力。
妖精は自らの生命力を費やすことで術を行使する。
罪業は自らの生命を特化させることで異能を行使する。
……。
尤も、雄矢は帝国空軍から技術研究局に移籍した身であり、術法についても異能についても全く無知の門外漢。その上、研究員ではなく竜機神のテストパイロット。知るわけがなかった。
……。
策の細部を煮詰めるため、麗華さんからこの世界の術について教わっていたのだ。
「へー……。んじゃ、洸樹さんや翁波さんは肉体強化でどれくらい戦えますか?」
やはりそこが気になる。
「そうだな、ジェヴォーダン程度であればまず負けないだろう。もちろん一対一ならば、だがな……」
「なるほど……」
此度の作戦は実に単純、「やられる前にやれ!」というものだ。
だが、この作戦を実行するに当たっては個々の戦力を正確に把握していなければならない。
青年兵たちは戦いとは別に任務を授ける、そのため洸樹さんや翁波さん達がどれほど戦えるのかが重要だ。
……。
ふと疑問に思い。
「そういえば」
と、前置きしてからついでに聞いてみる。
「方術師という桜さんは、どの程度いけますか?」
「桜も似たようなものだ、一対一ならばまず負けないだろう。尤も、方術師が最も活躍するのは遠くからの火力攻撃だ。上手く使えば、それ以上の戦果を望むことも可能だ」
「……へぇ」
……。
この辺りを表している地図を正面に広げ、作戦の詳細を語っていく。
ジェヴォーダンの住処を狙って火責めにすること、その逃走ルートに罠を仕掛けて数を減らすこと、そしてタイミングを見て群れの頭に奇襲をかけること。
「森に火をつけるのか……」
「ええ。心苦しいですが、背に腹は還られません」
洸樹さんの渋い声に、返答を返す。
衛星『アーカーシャ』の光学機器や観測機器で調査したところ、ジェヴォーダンの住みかをある程度予測できたのだ。
ならば、この情報を有効活用しない手はない。
尤も、洸樹さんたちには輝夜から聞いた話しを基に推測した、と言ってあるが。
「その後、方々に罠を仕掛け、逃走ルートを誘導、後に頃合を見計らって俺たちで攻撃します」
「……俺たち?」
洸樹さんの不思議な表情に、ええと頷く。
「洸樹さん、翁波さん、木裏さん、桜さん、それに……俺です」
「なに!雄矢殿、君は戦えるのか?」
洸樹さんが目を剥いて聞いてくる。麗華さんも驚愕で固まってしまった。
どうやら、俺は洸樹さんたちの中で相当なもやしっこ認定を受けているらしい。
……失礼な。
「一応戦えますよ。尤も後方援護が主ですけど」
……。
そう。実は俺も戦えないわけではないのだ。
俺の特技は技研の長たる教授仕込みの工作技術と……。
「俺は、後方から援護射撃で奇襲を援護します」
長距離からの狙撃なのだ。
正確に言うならば、「超高精度な射撃能力」である。
なぜか知らないが俺は昔から射撃能力が異常に高かったのだ。
戦闘機に乗っている時も、地上で射撃訓練の時も、未だかつて唯の一回も的を外したことがない。
そして、その能力が尤も発揮されるのが、超長距離からの精密狙撃なのだ。
近~中距離戦闘ではどうしても射撃能力だけでは対処できない事態が発生してしまうため、CQBなどの近接戦闘は得意ではないが、自らの射撃能力を十全に発揮できる狙撃ならば、俺に敵はいない。
幸いにも、『GAIA』の内部には火器類や爆発物等の地上戦で使われるような武器が多々収められている武器庫が存在する。
教授曰く、「備えあれば、憂いなし」とのことらしい。
……弾薬の製造機器まであったのには言葉を失ったが。
まぁ、個人的な見解を言うのなら、竜機神を建造するにあたって教授が個人的な趣味を全開にしたらしいから、その結果なのだろう。
……。
他にも医療用のカプセルベッドやら居住用の一室があったりするが今は考えないでおこう。あくまで教授が輝いた結果なのだから……。
……。
言葉を続ける。
「遠距離から攻撃できる武器が手元にあるので、それで援護します」
「武器?」
「ええ。冬が持っていたようなやつですよ」
洸樹さん、桜さんと始めて接触したときに冬が持っていた武器の類似品であることを示す。
「……おお!なるほど!」
「実物は後ほどお見せします」
洸樹さんの反応に苦笑しながら、言葉を続ける。
「作戦はこの後すぐです。下手をすればジェヴォーダンは今夜にでも動くでしょう、ならばことは早いほうがいい」
まだ、太陽は天頂で輝いている。今なら夜行性のジェヴォーダンに奇襲を掛けられるだろう。
「兵は神速を尊ぶ」
「……?」
「戦の常道。作戦を決めたのならそれを実行するのは早いほうが良い、という意味です。準備なら村全体で取り掛かれば直ぐです、これ以上の被害を出さないためには、打てる手は直ぐにでも打ったほうがいい。どうでしょうか?」
洸樹さんの目を見て問う。
返事は力強い頷きと、声。
すなわち……。
「うむ!あいわかった。直ぐに準備に取り掛かろう!」
力強い肯定だった。
……。
作戦に必要な物資を伝えて、最後の詰めを終える。
「……では、先程言ったとおりに準備をお願いします。後、若い人たちにも作戦の説明を。彼らの協力も必要不可欠ですので」
「わかりました」
「応!任された!」
前者は麗華さん、後者は洸樹さんだ。
一つ頷き、宣言した。
「では、行動を開始しましょう。俺たちの勝利のために!」
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いよいよ厨二臭が ( ̄ω ̄;)