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03話 - 新たな職業

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。


ようやく続きが投稿できた。

 朝一で洸樹さん、麗華さんに例の家屋に案内してもらう。

 だが。

「ここが俺達の家、か……」

 完全の木造。

 コンクリートも使われてなければ、強化プラスチック、建築用の軽量金属も使用されていない。昔ながらの極東の木造家屋である。

 一目で心が折れたのは言うまでも無いだろう……。


 と、俺が意気消沈していると麗華さんが質問を投げてくる。

「そういえば、冬月さんは何処にいったのかしら?今朝から姿を見ないのですが……」

「そうだのう、あの娘子なら雄矢殿のそばを離れるとは考えにくいのだが……」

「……」

 順に、洸樹さん、麗華さん、俺である。

 ふと昨日の記憶が蘇る。



 ……。

 ひかれた硬い布団に身を横たえ、さあ寝るぞ、と目を閉じた瞬間だった。

「マ、マスター!!助けてください!」

 と冬が部屋に飛び込んできたのだ。

「お?どうし……」

 た?とは続かなかった。

 なんと冬の衣服が乱れていたのだ。さらに紅くなっている頬。

 その様子は、さながら手篭めにされかけた乙女といったところで……。

「…………どうした?」

「桜さんに!襲われそうになりました!」

「……」

 一瞬思考が完全に停止する。

 冬月の言葉が理解できなかったわけではない。

 上気した頬、乱れた衣服、この焦りよう……。

 むしろ理解できてしまったからこそ、思考が停止したのだ。

「えと?襲われた?」

「そうです!ひっ、桜さんの反応がっっっ!マ、マスター私はとにかく一旦消えますので、どうにか誤魔化しておいて下さい!」

 という言葉を最後に、その姿が薄れて虚空に溶けた。

 俺の影の中にある本体に戻ったのだろう。

 と。

 パンッ、と軽くも響く音と共に扉が再度勢いよく開け放たれる。

「……えと」

 予想通り桜さんだった。

 正確には、冬同様に衣服が乱れて頬が微妙に紅い桜さんだった。

 冬との違いは、その立ち位置が捕食者か被捕食者かということ……。


 桜さんは俺を睨みつけると。

「雄矢様!」

「うえ!は、はい!」

 微妙に桜さんの目が血走っている。まさに肉食獣の目。

 もしやこのようなお人を、肉食系女子……。

「冬月様がここに来ませんでしたでしょうか?」

「……え」

「隠すのは余り賢明とはいえませんよ!」

 正直、怖い。

 なによりその身から湧き上がるように漏れ出ているピンク色のオーラが微妙に怖すぎる。

 しかも、竜機神の観測能力が桜さんの左右の手に異常なエネルギー反応を感知した。

「さあ!答えてください!さあっ!」

「えと、知らない、かな……」

 語尾に向かうほど声が小さくなってしまう。

 その反応に、桜さんが睨みつけてくる。

 ギロリッ!そんな擬音が現実で聞こえてしまいそうなほどである。

「……本当ですか?」

 その声は正に地獄の亡者のようで。

「…………!!(コクコクッ)」

 その恐怖に思わず声が出なくなってしまった。

「………………………………………………………………………………。……本当に?」

「…………!!!(コクコクコクコクッ)」

 その反応にどうにも、納得しきれなかったのか。

「少し、失礼しますね」

 と部屋のあら捜しを始めた。

 ……。



「雄矢殿?」

「雄矢さん?」

 洸樹さんと麗華さんの声に思考が現実(いま)に引き戻される。

「ええと、その……」

 苦笑いの表情を浮かべながら、どうにか言葉を紡ぐ。

「冬は少し調べたいことがある、と言って。近くの山に向かいましたよ」

 一応嘘はついていない。

 事実、冬月は例の岩塩を実際に調べたいといって今朝方出掛けていった。

 もっとも、その本音は間違いなく今も村の中を探し回っている桜さん(ハンター)から身を隠すためだろうが。

「ほう。山にか……」

「はい。その内に戻ってきますよ」

「うむ。あの娘の実力はこの俺がよく知っている。特に問題はないだろう」

 洸樹さんが大きく頷き、この話題は一先ず終りを告げた。


 家屋は木造の一階建て。

 構造として部屋は二つだけ。広間とその横にある小さな土間だ。

 土間の中には竈や水場。どうにも井戸から引っ張ってきているらしい。

 居間の中には囲炉裏、居間の床は畳が敷かれていた。

 屋外には厠と土蔵、驚いたことに簡単ながらも屋根つきのお風呂があった。

 後に聞いた話しでは、村の衆が俺たちのために気合を入れて準備をしてくれたらしい。

 実にありがたいことだ。


「へぇ。ずいぶん丈夫に作ってあるんですね……」

 家屋を検分しての言葉である。

 大黒柱も相当に良質な木材を使用しているし、壁のものも負けず劣らずに丈夫なものを使用している。

「うむ。村の衆がずいぶんと気合を入れていたからな」

「……ありがとうございます」

 身一つでこの世界に来てしまった身としては嬉しい限りである。

「当分の食料も私たちが工面しましょう。とりあえず、中には暫くの間暮らせるようにと様々なものを運び込んでおきました」

 とは麗華さんのお言葉。

「何か困ったことがあったなら、私たちに仰ってください。必ず力になりましょう」

 そういった麗華さんの後ろでは洸樹さんも、うむうむと力強く頷いていた。

 二人の好意が本当に身にしみる。

「ありがとうございます……」

 心の底からの言葉と共に二人に頭を下げた。


 さて、と。

「まずは、どうするかだな……」

 洸樹さんと麗華さんが去った後である。

「当面の食料は心配しなくてもいいとしても、流石に無職はないしなー……」

 働かざるもの食うべからず。

 いい言葉である。

 冬と二人で調味料や香辛料の販売をするとしても直ぐに始める、というわけにはいかないだろう。

「……ふむ」

 ……そうだな、時間もあるし。

「畑でも耕すか」

 最低限の自給自足ぐらいはしたい。

 ちょうど窓の外には使用許可が出ている畑もある。

 それに最低限の農具は貰い受けた、とくに困ることはないだろう。

 周囲から馬糞や牛糞、もしくは油粕なども分けてもらえば言うことはなしだ。

「後で洸樹さんか麗華さんに聞いてみるか」

 とりあえずは、着ていた極東帝国軍の上着を屋内に放り投げると、ズボン、Tシャツというラフな格好に変身する。

 そして鍬を片手に。

「いっちょ耕しますか♪」

 畑に向かって出陣した。



 ―――冬月―――


 とりあえず、朝一で再度顕現すると即座に洸樹様の屋敷を出た。

 目下のところ、桜様に会わないのが優先事項だ。

 会ったら間違いなく食べられてしまう。もちろんいろんな意味で、だ。

 ゆえに。

「……このあたりですね」

 調査という名目で、行方をくらませたのだ。


 とりあえずは岩塩の確保である。

 内部の有害物質に関しては、『オブシディアン』のナノマシンを利用すれば除去できる。

 昨日本体に戻った後に、『オブシディアン』の新しいプログラムを開発した。

 具体的には「対象範囲内の有害物質の完全除去」で。

 ……。

 そのまま、マップデータの示すとおりに浮遊・移動を続けて、おおよそ三十分ほど。

「ありましたね」

 目の前には壮大な水晶の渓谷が広がっていた。


 帝国技研の軍事衛星『アーカーシャ』で調べた箇所には確かに膨大な量の岩塩があった。

 綺麗な硝子のような水晶の渓谷、目の前の渓谷の全てが岩塩なのだろう。

 しかし。

「人の気配が微塵もなのはいささかばかり、不思議です」

 そう、この時代に調味料を売れば一財産である。

 ならば目の前の光景は宝の山だ。

 確かに目の前の岩塩には有害な物質が含まれているが、それも試行錯誤すればいずれは除去が可能なものだ。簡単な方法であれば水に溶かし煮詰めるだけでその殆どは除去できる。

 ……。

 このとき冬月もその主たる雄矢も知らなかったことだが。

 この時代、この岩塩は内部の有害物質も含めて毒と知られていた。

 以前にこの岩塩を多量に口に含んだ者が亡くなるといったことがあったのだ。

 二人はその内部に有害物質があることや、塩の致死量というものを知っていたが……。

 この時代この世界の人間がそんなものを知っているはずが無いし、その除去方法など夢のまた夢である。

 ゆえにこそ、これだけの宝の山が一切の手付かずで残っていたのだ。

 さらに付け加えるのなら、この地には……。


「っ!敵性反応!」

 周囲に張り巡らせておいた警戒線に敵性反応が引っ掛かる。距離はあるもののものすごい速度で此方に近づいてきている。

 同時にガシャンガシャンという音も。

 即座に小規模の『ガーネット』を展開し自らの身を隠す。

 その直ぐ僅か後に。

「……これは!?」

 のっそりと現れたものを見て、思わず目を丸くしてしまった。


 10mを超えるであろう巨体。

 鈍い銀色をした金属質の甲殻。

 人体などあっさりと切断してしまいそうな二振りの巨大な鋏。

 その巨体、超重量を支える八本脚。

 その姿は記憶に在るものとは遥かに違うが、まさしく。

「……蟹?」

 にしか見えなかった。


 即座にその蟹(?)をスキャンし調査する。

 内部の肉質はおおよそ私たちのいた世界の蟹と大して変わらない。けれどその甲殻の強度や肉質から判断できる馬力は、文字通りの化け物(モンスター)である。

 この世界の武器はせいぜい粗末な金属製の武器か桜さんが使っていたような不思議なエネルギー攻撃だけだろう。それに比べた場合……。

「……」

 蟹(?)は渓谷を一瞥し、何もいないことが分かると、ガシャンガシャンと音を立てながら去っていった。

「どうやら、マスターの言葉を笑えなくなってきましたね……」

 以前マスターはこの世界をファンタジーと評したことがあった。その時は、なに馬鹿をなことを言っているのですか、と突っ込んだものだが、どうにも正しかったようだ。

 急ぎ、『アーカーシャ』の広域探査で生態系及び、生存生物を調査してみれば。

「……」

 出てくる出てくる。

 洸樹様達のような人間はもちろんのこと、犬、猫、鳥、魚、虫。そして、先程のように化け物と呼ぶにふさわしい異形の生物の数々。中には明らかに人間の手に負えないような物騒な生物まで確認できた。

 ……。

「……ふう」

 どうにもため息が漏れてしまった。

「これでは確かに人気が無いはずですね……」

 あのような化け物がいると分かっている以上、毒と認定されている物質を取りにくるなど絶対に考えないだろう。

 どうやらここはあの蟹(?)の餌場であったようだ。どうやって知るのかはわからないが、ここに何者かが入り込むとあの蟹(?)が出てきて人を襲うのだろう。

 事実先程のスキャンで、あの蟹(?)の鋏や口からは相当に時間が経っているが生物の血の反応が出た。


「まぁ、私があの程度に負けるとは思いませんが……。あれはあれで使えるので放置しておきましょうか」

 ここを独占したい以上、あの蟹(?)は都合がいい。

 ふふ、と黒い笑みを浮かべると。

 近場の岩塩を削り取り、新しく構築した異空間に放り込んだ。


 ……。

「どうにも、調味料・香辛料を売るだけではなく、狩人(ハンター)としても生計が立てられそうですね♪」

 マスターの影の中に存在する私の本体が軽く身動(みじろ)ぎした。



 ―――藤宮 雄矢―――


 時間にして大体六時間近く畑を耕していた。

 地面をほぐし、畝を作る。

 そんな作業をひたすらに繰り返す。

 いくら戦闘面は未熟とはいえども、これでも軍人の端くれである。体力と根性には大分自信があった。


 とはいえども。

「……腕が痛い」

 普段使わないような筋肉を酷使したためか腕に鈍い痛みが走る。

「今日はもう、無理」

 鍬を洗い仕舞い、家の中に転がり込もうとする。

 と。

「お疲れ様です♪」

「麗華さん」

 そこにはお盆の上に急須と湯のみ、それに餅のようなお菓子をのせて、それを手に持った麗華さんが立っていた。


「ずいぶん頑張っていましたね」

「ええ、まぁ……。といってもまだ何を作るかは決めてないんですけどね。ただ、なんとなく働かないのもあれだし、畑ぐらい耕しておこうかと……」

 麗華さんは、くすりと穏やかに微笑すると。

「立派な考えですよ。その若さで大したものです」

「いやあ、それほどでも」

 どうにも恥ずかしくなって、お盆の上の餅を齧る、と。

「お!」

 中々に美味い。

 餅のしっとりとした感触に、自然の甘みを感じる。

 ……これは枝豆?

「……ずんだ餅、みたいなものかな?」

「え?ずんだ?」

「あ、いえ、なんでもありませんよ。中々に美味しいですね、これ」

「ええ♪私のお手製なんですけど、桜も洸樹も美味しい美味しいって言って食べてくれるんですよ♪」

 麗華さんの笑みは本当に幸せそうで、活気に満ちていた。


 と、都合がいいのでついでに尋ねてみることにした。

「そう言えば、ここには調味料ってどんな物があるんですか?」

「……ちようみ、りょう、ですか?」

「調味料。簡単に言えば料理の味付けや、汁物の味付けなどに使う物です」

 暫く考え込むが、やがて、手をパンと打ち鳴らす。

「…………。……ああ!」

 評するなら、頭の横で豆電球がペカッと光ったような感じだ。

「そういうことですか。そうですね、甘みを付けたいときは果物の搾り汁を加えたり、塩気を付けたいときはイムリの葉を加えたりします」

 いむり?

 果物の搾り汁は分かるが、いむりとはいったい?

 と、此方の顔でそれが分からないことを察したのだろう。

「イムリとは塩気を強く含んでいる植物ですよ、少し待っていてください」

 と立ち上がり家を出ていった。

「……?」


 暫くして戻ってきた時にはその手の中には2、3枚の青々とした葉が握られていた。

「これです。齧ってみてください」

「……ふむ」

 鼻を近づけ臭いをかいだ後、思い切って口に含んでみる。

 と。

「◇◎▲♪#Σ☆★!!」

 声にならない声で絶叫した。

 強烈な塩気が舌を直撃したのだ。

「しょっぱーーー!」

 俺の反応がよほど面白かったのか、麗華さんが軽く声を上げて笑う。

「おえ!うえ!」

「これを細かく刻んだりして、料理に入れるんですよ」

「説明はともかく、茶を下さい!」

「ふふふ、どうぞ♪」

 その後暫く俺の舌は死んだ。


 まぁ、とりあえず。

「実際には塩みたいなものは無いんですかね?」

 会話を再開する。

「イムリの葉を大量に煮詰めてそれを固めれば塩になりますが、そんなものは最高級の贅沢品で、私たちのような者には……」

「……そう、ですか」

 竜機神の解析能力を利用して「イムリの葉」とやらをスキャンする。

 ……なるほどね。

 どうにも、イムリの葉とやらは土中の必要成分を集めて、植物体内で塩化ナトリウムに近い物質を生成するようだ。

 ……これが「()」か。

 ……。

「……ん?」

 ふと気になったので尋ねてみた。

「他にも、味噌、お酢、醤油とかは?」

 近いものぐらいないのだろうか、という希望を込めて。

 しかし、返ってきた返事は。

「……えと、なんでしょうか、それは?」

「……」

 実に無常なものだった。

 ……。

 ですよねー……。


 その後、暫く麗華さんと他愛ない会話を交わした後に解散となった。




 ちなみにその後、帰って来た冬月と桜さんの間で壮絶な鬼ごっごが発生したが、それはまた別のお話である。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


冬月さんが黒いです!

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