02話 - 新たな生活
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
筋骨隆々の偉丈夫は洸樹、そしてつき従っていた娘は桜と名乗った。
本人達の自己紹介によると、このあたりを縄張りにしている少数部族の族長とその娘らしい。
どうにも、一帯の族長会議からの帰り道に襲われたらしい。
護衛もいたらしいが皆、賊にやられて亡くなったとのこと。
……。
「では、雄矢殿は記憶喪失なのか?」
「どうにもそのようで……」
頭をかきながら苦笑する。
自己紹介を求められたとき、冬と話し合いお互い記憶喪失ということにしたのだ。覚えているのは自分の名と冬が俺の従者ということだけ、となっている。
「見れば、二人とも見たことの無い衣服を纏っているし、冬月殿が使っていた武器も初めてみる。もしかして違う大陸から流されてきたのかもしれないなぁ」
「……はぁ」
「まぁ、安心しろ」
がははと豪快に笑うと、洸樹さんは俺の背をばんばんと叩いてくる。
「お前達は俺たちの命の恩人だ。記憶が戻るまで面倒を見てやるよ!」
……。
どうにも悪い人ではなさそうだ。
……まぁ、暑苦しくはあるが。
「…… ( ̄ω ̄;)」
馬に揺られること約三時間。
正直、この世界の人間の感覚を舐めていた。
「…………ケツが痛い!!」
馬で直ぐに着くというからには、精々長くても二、三十分程度だと思っていたのに。
「よもや三時間とは!」
くそう!
「これがカルチャーショ……」
「とりあえず静かにしてください、マスター。マスターのその無意味な愚痴は心の奥底にでも捨てておいて下さい」
……。
思わず涙が流れたことは内緒だぜ。
洸樹さんと桜さんの村は、草原と森林の境目辺りにあった。
周囲には田畑、そして木造がメインの家屋。
……極東の大昔の風景だな。
「ここがわしの家だ」
洸樹さんが案内してくれたのは一回り大きな木造の家屋だった。
居間らしき部屋に通されたのでそこで待つことにした。
(さて、どうなるのかね?)
(別に、どうにもならないのでは?洸樹様曰く、面倒を見てくれるらしいのですが、気に入らなければこの地を出て行けばいい。別に拘束されているわけではないのですから)
(……それもそうか)
……。
と。
コンコンッ。
ドアがノックされる。
「あ!どうぞ」
「……失礼します」
そういって入ってきたのは、一人の女性だった。
「二人を助けていただいて、本当にありがとうございました」
そう言って頭を下げた女の人は麗華と名乗った。
どうにも、洸樹さんの妻で、桜さんの母親らしい。
大人の女性らしいたおやかな腰つきや、肉感的な体がなんとも目の毒だ。
「いえ、気づいてしまったからには……」
「それでも感謝します。本当にありがとうございました」
再度、頭を下げてくる。
心の底から洸樹さんを愛しているのだろう。
その瞳には、感謝の念で満たされていた。
「夫から、お二人は身寄りが無いと聞きました」
「え?あ、はい。どうにも……。気がついたときにはこいつと二人で草原に立っていたので……」
流石に、時を越えたなどと言っても信じてもらえはしないだろう。
と、麗華さんが優しく聞いてくる。
「まぁ!そうですか……。何か覚えていることはないのですか?」
「すいません、特には……」
「……同じく」
俺、冬の順での答えだ。
「そうですか……。何か覚えていれば私の占術でたぐることも出来たのですが……」
?
耳に聞きなれない言葉が入り込んできた。
「……占術、ですか?」
「……?」
見れば冬も首を傾げていた。
「…………。占術、という言葉も覚えていないのですか」
麗華さんの顔には深い哀れみの表情が浮かぶ。
「……すいません」
「……」
冬と二人で頭を下げる。
「……いえ。占術とはその日、その時、その人の吉兆を占い、その善し悪しを導く業です。また、縁をたぐりその者の過去や故郷を辿ることができるのです」
……なんともファンタジーな。
「お二人が何かを覚えていたのなら、その過去を探すことも出来たのですが……。すいません、私の力不足です……」
麗華さんが心底悲しそうな顔をした。
「お二人とも、この村で暮らしませんか?その気があるなら住む場所を用意させますが……」
「え、でも?」
「村長とその娘を助けてくれたのです。そのくらいならお安い御用ですよ」
「……」
麗華さんの微笑が何ともいえない。
俺としては、元々は冬と二人で暮らせるならどこでもいいと考えていた。
「夫も、二人がここで過ごすのなら協力は惜しまないと言っていました」
……。
「どうでしょうか?」
(……マスター)
(ん。分かっている。これは願っても無いチャンスだろうしね)
これ以上の条件を求めるのは、流石に無理だろう。
村長から庇護のある地なら、……そう悪い条件ではない。
座ったまま、冬と二人で頭を下げる。
「すいません。もしご迷惑でなければお世話になります……」
……。
「がははは!そうか、そうか。めでたい、実にめでたい」
洸樹さんが豪快に笑っている。
今は、夕食の席だ。
床に並べられた料理の数々、どうやら俺たちの歓迎会を催してくれたらしい。
川魚の丸焼きに、山菜のサラダ、米、それに何らかの肉。そしてお茶。
どうやらこれらの料理の作り手は麗華さんと桜さんらしい。
……。
(おほ!女性の手料理♪……じゅるり)
(……)
(憧れの女性の手料理!ビバッ……)
(黙りやがって下さい)
(…………………………………………冬月、さん?)
固有チャンネル内に、帝国技研の変人集団ですら裸足で逃げ出すほどに低い声が流れた。
(ええ、そうですとも。私は今までマスターに料理なんてしたことありませんよ。ええましてや私が作ったら機械の手料理ですから。でも仕方ないじゃありませんか。私だって、ネットで検索したり、技研の女性職員の会話を聞いたりして手料理を作ってみたかったんですよ、でもそんな機会なんて無かったんですから。何?マスターは私に皮肉っているんですか?そうなんですか?暗に、私に手料理を作れと要求しているんですか?そうなんですか?そうなんですね!?)
(…………あ、あの、冬月さん……)
(ええ所詮私は機械ですよ。でも教授曰く、私は女性人格ですよ。なら私の作った料理だって女の子の手料理になるじゃないですか。ええ、すいませんでしたね。今までそんな事も気づかなくて!!いえ、私だって手料理を作ろうとしたことはあるんです、でも、それを持っていく勇気がなくて、それで処分に困って教授の口に突っ込んだら教授が泡を噴いて卒倒するし、それ以来、私が料理をしようとするとどこからか技研の職員があらわれて邪魔しますし。こんなことなら、帝国技研の研究所を制圧してでも手料理を作っておくべきでしたあ!!マスターの馬鹿ああああああああ!!!)
(……orz)
とりあえず、今までにないほどに冬がカオスな状態になっていた。
俺と冬の間の固有チャンネル内に異常な程に冬の愚痴(?)や文句が流れてくる。
どうやら感情が暴走状態らしいのだが、……現実の表情がピクリとも動かないのが、実に恐ろしかった、とだけ記しておこう。
……。
「お待たせしました…………って、どうしたんですか!?」
「うむぅ、なにやらいきなり目を回しおってのう……」
「雄矢様!?」
順に、麗華さん、洸樹さん、桜さん。
麗華さんと桜さんが追加で料理を持って来たのだが、おれはその場でグロッキー状態だった。
……。
ちなみに冬は、澄ました表情で茶を啜っていた。
……オンナッテコワイ。
「では、我らの新たな仲間に乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
洸樹さんの声に、陶器の杯を掲げて麗華さん、桜さん、俺、冬が唱和した。
……。
ところで一つ講義をしよう。
世の中には、「料理のさしすせそ」というものが存在する。
これは歴代の偉大な東洋の料理人達が長い時間をかけ、実践的にも、科学的にも証明した一つの偉業である。
さは砂糖、しは塩、すはお酢、せは醤油、そは味噌。
これらは料理に加える調味料の順番を示しており、俺のいた時代では、冬月の生みの親である、あのものぐさな教授ですら知っていた事柄だ。
「「……」」
……。
なにを言いたいかだって?
はははは、決まっているじゃないか。
……つまりは。
「ま……」
ドスンッ!
ずい!と言い切る前に横合いから、痛烈な一撃がわき腹を抉った。
(言いたいことは心の底から理解できますが……。我慢してください、マスター)
(………………………………Aye)
正直に言って、料理がゲロまずだった。
いや、食べられなくは無かった、が。
……味が薄かったり素材の生臭さやえぐみがそのままなのだ。
様々な調味料の料理を味わい、様々な食材の料理を味わった俺の舌には罰ゲーム以外の何ものでもなかった。
というより、俺たち現代人の舌ならば間違いなく「不味い」の一択だろう。
というか、それ以外の選択肢すら見当たらない……。
……。
横で冬が、「これなら私の料理の方が……」などと呟いていた。
もし、ここに教授がいれば全力で言っただろう、「それはない!流石にない!!」と。
……。
食後、洸樹さんが申し出てくれた。
「ここから離れた村の外れに空き家がある、そこを与えよう。好きに使うといい」
ついでに麗華さんが補足してくれる。
「今、村の衆に家屋の補強と清掃を頼んでいます。明日の朝には出来ていると思うので案内しましょう」
「ありがとうございます」
「近くに畑もあるから、そこも自由に使うといい」
これは洸樹さん。
と。
「すいません、ここの生活は基本自給自足なのですか?」
冬がこの村の三人に質問を投げかけた。
「先程ここに来るまでの道中で通貨の存在を確認しました、ですがどうやって稼いでいるのでしょうか?」
……そんなところも見ていたのか。
「……ふむ」
洸樹さんが豊かな顎鬚を摩る。
「自給自足というのはあながち間違いではない。基本の食料は自給自足、狩か収穫だ。もしくは通貨や自作の収穫物での物々交換だなぁ。通貨は稼ぐには、街に行って商いをする」
「なるほど。……街というのは?」
「ここから馬で二日ほどのところに、ここら一帯を治める藩主の城下町だ」
「…………なるほど」
「もし、商いをするというのならその方法も後ほどお教えします」
再度、麗華さんが補足してくれる。
「ありがとうございます」
……。
冬が効率よくここで生活するための方法を聞きだしていく。
俺がここで暮らすと言ったから……、恐らくはそのためだろう。
……。
……ありがとな、冬。
会話が終り、就寝の時間がやってきた。
食事の片付けやなどは麗華さんがやってくれた。
俺達二人は、お客さんということで早々に客間に案内されたのだ。
ちなみに、俺と冬は同じ部屋である。
……。
「マスター、私に少々の考えがあります」
布団を引き、いざ寝るぞといったところに冬から提案の声が飛んできた。
いつの間にか、周囲には時空間干渉制御能力を応用した次元の壁が展開されている。
恐らくは遮音のためだろう。
「ん?なんだい?」
「はい。実は……」
一度、間をおいてから改めて声を出す。
「マスターさえよろしければ、私達で調味料や香辛料の生産と販売をしませんか?」
「……ほう」
「マスターは今日の食事で感じることがありませんでしたか?」
冬の問いに心の底から絶叫した。
「ありすぎじゃ!」
……。
「では、どうですか?」
「……」
「……」
……ふむ、と考え込む。
正直この提案は割と悪くない。
未来?まぁ、ある意味未来に近い過去、の知識がある俺達は調味料や香辛料の生産は上手くいくだろう。
なにより、あのような食事は二度と食いたくない。最低限、料理のさしすせそぐらいは用意したい。
「……ふむ。冬がそういうからには当てがあるのだろう」
にやりと笑う。
「はい」
と、此方も楽しそうに微笑んだ。
「『アーカーシャ』で一帯を確認したのですが、これを見てください」
と、冬の手の中に、ここら一帯の立体映像が浮かび上がる。
ついでに立地や土中の成分、性質などのパラメーターも。
「ここと、ここを見てください。そして、先の会話から聞くに、私達に与えられる家屋はここです」
「……ほほう」
……これはこれは。
実にいろいろと出来そうな条件だ。
「きれいな水とはけの良い土地、そして適度に広い家屋。いいね」
「さらに、少し離れますが……。これをご覧下さい」
山中の一部が示される。
その成分と土中に埋没しているもの見て、驚愕を覚える。
「……っ、これは!岩塩か!」
「はい。成分表を見るが限り、有害物質も多分に含まれていますが、私達の知識と技術なら十分に除去が可能です……」
「……」
「ついでに此方もご覧下さい」
そう言って、表示されたのは別の地の平面画像だ。さらにそこの一部を拡大する。
そうして画像の中央に映し出されたのはとある根菜類。
すぐに、その植物のデータが表示された。
始めて見る植物だ、名を……。
「……甜菜?」
「是。砂糖の原料です」
肯定と一緒にとんでもない事実を告げた。
「っ!砂糖!」
冬が再度頷く。
……。
……すでに「さしすせそ」の「さ」と「し」が揃っているのか。
「「……」」
なるほど、ね。
にやりと笑みが浮かぶが、どうにも止められない。
「災い転じて福となす。これならあの料理を無理してでも食ったかいがあったというものだ……」
くくくくく、と笑いが零れる。
この時代、この世界には調味料や香辛料といったものが存在しない。ならば一財産を築けるだろう。
「是。少し遠出することになりますが、胡椒などの香辛料もすでに見つけてあります。さらに言うなら、この世界には未だに手付かずで浮遊している大地、島が無数あります。そこを胡椒の栽培地にすれば……」
「……くくく」
「ふふ、商いの基本は独占と占有、そして技術の秘匿ですよ♪」
……。
思わず。
「お主も悪じゃのう、越後屋よ……」
「いえいえ、お代官様ほどでは……」
「「……」」
なんて会話が飛び交った。
やがて。
グッ。×2
レッツ、サムズアップ!
と。
「これは、桜様ですね……」
フォンッ。
僅かな空気の流れと共に、次元の壁が解除される。
直後。
コンコンッ。
慎ましい感じで、扉がノックされる。
「どうぞ」
「……失礼します」
俺の許可で入ってきたのは、案の定桜さんだった。
―――冬月―――
……。
「すいません、こんなところまで連れ出してしまって……」
「構いません」
目の前で桜様がかしこまっている。
……。
私とマスターの部屋を訪ねてきた桜様は「私に話しがある」、と私を連れ出したのだ。
……なんの用でしょうか?
こんな夜遅くですし、マスターも心配しているでしょう。
どうにもいまひとつ頼りない、愛すべき主人を思い浮かべる。
一応、私とマスターは連動しているし、私の見聞きしたものはマスターも知ることが出来る。逆に、私はマスター専属の竜機神として、マスターの体調やその精神状態なども確認できる。
……。
とはいえ、桜様からの話しとやらは少々ばかり予想が出来ない。
……なにか粗相でもあったでしょうか。
と、記憶を手繰る。
しかし、桜様はそんな私の思考を綺麗に凍結させる言葉を投げつけてきた。
「冬月様!私は…………、私はあなたが、好きです!」
「………………………………………………………………………………え?」
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以下、竜機神<Ds-X09 GAIA>の兵装名称
機体基本能力
・時空間干渉制御能力
機体基本兵装
・『ローズクォーツ』
・『クリソベリル』
・『スフェーン』
・『ジェード』
・『アズライト』
・『スピネル』
・『カーネリアン』
・『オブシディアン』
機体特殊兵装
・『ラピスラズリ』
・『カルセドニー』
・『ガーネット』
・『ダイヤモンド』
後付追加兵装
・『セラフィナイト』
・『サーペンティン』
・『ルビー』
・『サファイア』
・『エメラルド』
分かる人は分かりますが、全て宝石の名前ですwww
現時点では
・肩部高出力エネルギー砲塔『アズライト』
・腰部電磁投射砲『スピネル』
・最終兵装・戦略級ナノマシン放射制御装置『オブシディアン』
・複翼式高出力特大型スラスター『ラピスラズリ』
・対物理防御用電磁複合装甲『カルセドニー』
・対エネルギー兵器用特殊フィールド『ガーネット』
・絶対防衛圏『ダイヤモンド』
・大型ビームライフル『サーペンティン』
が作中で書かれています。