01話 - 故郷へ
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
闇が明ける。
視界一面に広がったのは何処までも理解不能な光景。
……見上げれば空に浮かんでいる巨大な大陸、見下ろせば何処までも続くくすんだ紺碧の海。
……。
「なんだあれ?つーかここどこ?」
思わず口から疑問が漏れた。
……。
俺の疑問に答えるかのように、冬の落ち着いた声が聞こえる。
「マスター。私達はどうやら重力子の暴走に巻き込まれて次元のゲートに吸い込まれたようです……」
「……?」
「余りにも高密度な重力が次元を食い破り、虚数空間への道を開きました。……ところでマスター、私が時空間干渉制御能力を備えていることは知っていますね?」
「ああ、教授が言っていたな」
「はい。虚数空間に吸い込まれた瞬間、『ダイヤモンド』で身を護り、時空間干渉制御能力を使用して現実世界に帰還を図ったのですが、どうやら大幅に時間軸がずれてしまったようです……」
「……?」
……時間軸?
今一会話の意図が理解できない。
「マスター」
「う?」
「良い知らせと、悪い知らせがあります。どちらから聞きたいですか?」
……。
「わ、悪い知らせからで」
「……分かりました。どうやら帝国と共和国の戦争ですが、帝国が勝利したようです」
!
「……そうか。……祖国は勝利したのか。…………ん?しかし、それの何処が悪い知らせなんだ?」
……。
「帝国技研が宇宙に打ち上げた多目的軍事衛星『アーカーシャ』をご存知ですか?」
「『アーカーシャ』って確か……」
「はい。帝国のデータバンクのバックアップも兼ねています。ですので、そこにアクセスして情報を得ました。どうやら共和国は私達の手によって重要な兵站・兵器生産基地を失い、後の半年後に降伏したようです」
「そうか、俺たちの働きは無駄じゃなかったのか……」
「しかし、降伏を認めなかった共和国上層部が重力爆弾『グラディアス』をあるだけ世界にばら撒きました」
「なんだと!?」
「どうやら道連れにすべてを滅ぼすつもりだったようです」
ドンッ。
思わず握り締めた拳叩きつけてしまった。
「戦争の長期化といい。世界の道連れといい、共和国の愚か者どもはいったい何を考えて生きているんだ!?」
「『アーカーシャ』への最後のアクセスは約五千年前が最後になっています。『アーカーシャ』の監視映像には、重力爆弾によって世界が滅んでいく様が映っていました……」
……。
……。
「……………………!!!」
まて、まさか!
「では、この不思議世界は!?」
再度、コックピットのスクリーンが移している世界に目を向ける。
浮遊している大陸に、生物の気配が皆無な海原。
「この世界は!!?」
……。
……まさか。
まさか。
まさか!
「マスターの考えで正解です。良い知らせかどうかわかりませんが、伝えましょう。ここは私達のいた時代から五千年先の世界。重力爆弾によって人類が滅びかけた先の世界。時代は違えど私達の住んでいた世界です」
……。
余りのことに、思わず気絶した。
……。
「ダメだ、どのチャンネルも反応しねぇ……」
「此方もです。『アーカーシャ』の力も借りて方々に探索の手を伸ばしましたが、どこも反応しませんでした……」
「「……」」
思わず二人して黙り込む。
……。
「とりあえずは故郷の地である極東に帰らないか。といっても今は浮いているらしいが……」
そう提案してみる。故郷の地に何かがあるわけでないが……。
「……そうですね」
冬の肯定聞き、感応式の操縦桿に手を置く。
俺の思考をトレースし、竜機神の機体が極東帝国の在った方角に向く。そして、スロットルを踏み込み、加速した。
視界の端を雲が高速で後方に流れていく。
……。
「マスター。この世界についていささか調べました」
「おお。是非とも聞かせてくれ」
「はい。どうやら大陸の浮遊に関しては共和国の使用した重力爆弾が原因です。重力爆弾の連続使用でこの惑星に異常な斥力場が発生し、そのおかげで大陸が浮遊したようです。ただし重力も依然存在するため、浮遊大陸上での生活は以前の様子とあんまり変わらないようです。斥力場も大陸にしか作用していませんし……」
「……なるほど」
「下の海ですが、成分表を見る限り、生物が生存できるとは思いませんね」
コックピットのスクリーンに件の成分表が提示される。
「……これはこれは」
有害物質のオンパレードだな……。
「随分とファンタジーな世界になったものだ……」
故郷の地を踏む。
案の定、帝国首都は見る影も無く、ただの廃墟と草原になっていた。
……。
竜機神がゆっくりと俺の影の中に沈んでいく。
時空間干渉制御能力とやらで俺の影の中に異空間を作り出したらしい。
そして。
「私の本体を仕舞うと移動手段が徒歩のみになりますよ……」
俺の横の空間に、浮かび上がるように一人の少女の姿が出現した。
少女は、黒を基調とし白のレースとフリルがふんだんに使われている、いわゆるゴシック調のドレスを着ていた。
歳の頃は十六、長い黒髪を腰まで伸ばしている、そしてその瞳は真紅と藍青のオッドアイ。
冬月の人間形態だ。
「構わんよ、少し見て歩きたい……」
「そうですか……」
……。
と。
「…………私の観測範囲内に多数の人間の反応を感知しました。……それに、これは敵性反応ですね、こちらに近づいてきています」
そういって、とある方向に指を向ける。
「……そうか」
ヘルメットやパイロットスーツなどは竜機神の体内においてきた。今は帝国軍の軍服を身に纏っている。手持ちの武装は拳銃と光線銃が一丁ずつ、それにコンバットナイフが一本だ。
「ま、行くだけ行ってみるかね」
そう言って、歩き出した。
……。
俺の体は冬との同調率を上げるために全身にナノマシン処理を含めた様々な処置が施されている。
その過程で搭乗していなくても竜機神の力が使えたり、自分の五感や身体能力を強化できるのだ。
視界を強化し遠方の光景を確認する。
……。
確認した光景では二頭の馬とその乗り手を盗賊らしき集団が追跡していた。
……とりあえず。
「……俺は、いったい何時の時代に来てしまったんだ」
思わず、突っ伏した。
俺のいた時代は高性能な戦闘機が飛び、ともすれば冬月のような特殊機が空中でドッグファイトを繰り広げた時代だった。
レーザー等のエネルギー兵器など当たり前。
……。
なのに、目の前では盗賊らしき集団が馬を巡らせ、粗末な片手剣を片手に追い回していた。
「…………これが、カルチャーショック……」
「どうでもいいのですが、助けないのですか?」
主人たる俺の精神的ダメージを「どうでもいい」の一言で済ませた心強い相棒が、先頭を走って逃げている二人を指す。
「………………ああ。助けようか……」
なんかいろいろと、どうでも良くなってきた。
「……では」
と言って、冬は俺の懐からハンドガンとブラスターを取り出す。
「?」
「マスターはどこか茂みにでも隠れていて下さい。どうせ、役に立たないのですから」
そう宣言し、空間転移で消えてしまった。
……。
……。
……。
「俺はどうせ、軍人としては三流ですよーだ」
とりあえず、不貞腐れてみた。
―――桜―――
「父上、もう少しで我が領地です。そこまで……」
「否!そこまでもたん!わしが殿を務める、お前の術で奴らを穿て!」
「そんな!ここまで来て!」
「こやつらはただの賊でない。おそらくはどこかの部族の差し金であろう。このままでは二人して無駄死に。お前だけでも生きるのだ!」
「……っ、しかし!」
「くどい!!お前も、この村長・洸樹の娘なら覚悟を決めよ!」
「……父上」
「……わしは良い父親ではなかった。だが、お前を愛していた、それだけは違わぬ!」
「……」
「後のことは、麗華が全てを執り行ってくれる。…………さらばだ。……行けい!」
「…………う、……うわぁぁあああああ!!」
手に火球を作り出すとそれを賊の先頭集団に向けて、投げようとする。
その瞬間だった。
ダンッ!キュンッ!
二つの音が響き渡り、先頭を走っていた賊が二人馬から転げ落ちた。
「え!?」
「ぬ!?」
私と父上が驚きの声を上げる。
と。
頭上から漆黒の影が舞い降り、私の後に着地する。
「我が主の意思により、助力に参りました」
漆黒の長髪に、色違いの瞳、そして御伽噺にでてくるような装いをしている。
そしてその両手には、黒と銀の塊を握っていた。
「私の名は、冬月と申します。ご助力いたしますが、いかが致しましょうか?」
「お主、何者だ?」
流石に歴戦の猛者、父上は私より遥かに早く立ち直る。
「とある方の従者をしている者です。今は、我が主がお二方を助けたいと仰ったので、その願いを叶えるべく参上しました」
「……我々の味方でいいのだな?」
「はい」
「「……」」
父上と、冬月と名乗った少女の視線が交錯する。
僅かな時間が流れ、やがて。
「その助力、謹んで受けよう」
父上がそう宣言した。
「ありがとうございます。では、このままの速度で走って下さい」
そう言うと、そのまま馬の背から後方に跳躍した。
少女の言った通り速度を落とさぬまま走り、その戦いの様子を見た。
一方的な戦いだった。
少女が手に持った黒と銀の塊を煌かせる度、賊は血を噴き、体の一部を消し飛ばされ地に沈んでいった。
相手の馬や、賊の体を足場に宙を華麗に舞う。その様子はさながら天女様の舞を見ているかのようだった。
……。
時間にして十分も無い。
百を超えた賊の集団が一人残らず地に伏した。
―――藤宮 雄矢―――
近場に転がっていた石に腰を下ろして雲ひとつない空を見上げる。
「何時の時代も空は青いもんなんだなー……」
正直に告白しよう。
……。
俺は現実逃避していた。
……。
「ん?」
視界の端に映し出されたレーダーに何者かの接近が観測される。
一人は冬。のこり二人は筋骨逞しい偉丈夫に背の高い女性だ。
……終わったか。
元々、片手剣なんて使う奴らに拳銃と光線銃を防げるはずも無い。
さぞや簡単に片付いたことだろう。
「マスター、二人を助けましたよ」
「ご苦労さん」
(で?なんかついて来てるけど?)
(マスターに一言お礼が言いたいそうです)
(あ、そう)
固有チャンネルで会話しながら、別にいらないんだけどねー、などと口の中で呟く。
「お主がそこの娘を遣わせてくれたものか?」
「……一応」
初対面の感想は、どうにも暑苦しいヤツ、だ。
「助かった、ありがとう」
女性と一緒に頭を下げる。
「いや……。見つけたからには、ね」
特に助けてどうこうしようという考えは無かった。
と。
「何かしら礼がしたい、この後時間があるなら我が家に来ないかね?」
「いや、べ……」
つに構いません、とは続かなかった。
冬から固有チャンネルで会話が飛んできたのだ。
(マスター、ここは受けておきましょう……)
(うん?)
(我らには身寄りがありません。ならば、このような縁は繋げておくべきです)
……。
(……そうか。…………そうだな)
心の中で苦笑し。
「お受けしましょう」
そう返した。
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