18話 - 前日談
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
「では詩桐さん、摩耶さん、よろしくお願いします。貴方達の働き次第でこの戦の行く末が決まります。此方も一日でも長くもたせるだけもたせましょう」
「ああ。任せてくれ」
「任されたよ、雄矢」
「既に現地では冬が根回しを行い、手勢を整えています」
「ほう。作戦が決まってまだ二日と経っていないのに随分と手際がいいもんだな」
「元々あった伝手を使っただけですよ。ただ、そこを整えただけ。手際ではなく効率が良かっただけです」
「大したもんだよ」
「ああ」
摩耶さんと詩桐さんが感心したように呟く。
と。
「兄さん、武運を」
背後にいた綴さんが自らの兄に言葉をかけた。
その中にはどれほどの感情がこもっていたのか。
少なくとも、新参の俺が聞いて直ぐに理解できるものではなかった。
「……ああ」
そして兄も頷く。
「任せなよ、お嬢。こいつはあたしが命にかけて守り抜くさ」
「うん。お願いね摩耶、必ず生きて戻ってきて」
自らの兄の言葉に重なるように放たれた信頼できる人の言葉に頷く。
「任せな」
麻耶さんがにやりと笑うと、宣言した。
「じゃあちょっとばかり、肥えた豚の屠殺に行って来るよ」
陽が落ち、闇が訪れる逢魔が時。
詩桐さんと麻耶さんを中心とする反抗勢力の先鋭は砦を発った。
生きて再開が出来るのは、この戦に勝利したときのみ。
兄と家人を見送る綴さんの瞳は深い憂いを帯びていた。
「……はぁ」
ため息が止まらない。
作戦会議の後、自らに宛がわれた部屋に向かう道中である。
「……疲れた」
思わず本音が漏れた。
兄と別れて口数の減ってしまった綴さんとキャンキャン咆えるのが癖なポメラニアンのような來さんが相手では、気を使う+対応に苦慮する、のダブルコンボで俺のHPがガリガリと削れていったのだ。
作戦会議という名の会議の最中に何度気合の鉢巻が発動したことか。
「……はぁ」
ため息が止まらない。
初めて顔合わせしたときに麻耶さんが來さんを張り倒した理由がよく理解できた。
「……はぁぁぁ」
深い深い、奈落のように深いため息と共に先程の光景を思い返す。
◇◇◇
「やはり納得いかん!!」
会議が始まって開口一番。來さんが咆えた。
來さんは金色の短髪に中肉中背の青年である。
一見はそこらに居るようなチンピラにしか見えないが、実のところその体は鍛えられているもののそれであり、けして非力なわけではなさそうである。
尤も、剣士隊の長である麻耶さんとは違って來さんは術師隊の長であるらしいが。
ともあれ、返答しよう。
僅か以上の嫌な予感と面倒ごとを予感させる頭痛に耐えながら返す。
「えと、何がでしょうか來さん?」
「この作戦にだ!」
……それはまた。
思わず閉口する。
「寡兵を持って大功を上げる。そして今の俺達にはそれが必要だ。それも理解している」
「はあ」
「今回の作戦も検討した、文句のつけようが無いくらい完璧だった。作戦の立案から実行まで。見事だったよ」
「「……」」
俺を含む來さん以外の人間が頭上に疑問符を浮かべながら首を捻る。
……來さんは何を言いたいのだろうか?
「雄矢…………殿、貴殿が今回のことに関してかなりの苦労を負ってくれた事は理解している。詩桐様や綴様のために苦労してくれたこと、深く礼を言いたいくらいだ」
「……では、…………今回の作戦の何処に不満が?」
この作戦自体は否定していない、そして曲がりなりにも感謝もしてくれているらしい。
……はて?
しかし、來さんは息を大きく吸うと、大声で宣言した。
「現場の指揮を貴殿が取ることだ!」
「ええと……」
「戦というのは命を懸けて戦士達が戦う場所だ」
……いや、それは知っていますが。
「それをぽっと出の素人に仕切られる」
……あー……、一応軍人ですが。それも元という字が付くが一応上級士官……。
「これ以上の屈辱はない」
「……はぁ」
「しかも、戦の空気を知らない素人に戦陣を任せるというのは自殺行為に等しい」
來さんは一度言葉を切ると、綴さんに向けて言葉を投げる。
「綴様! どうか俺に命令を下さい! このような素人ではなくこの俺に! 「我が軍を指揮し、勝利せよ」と。必ずや我が軍に勝利を約束します」
……おや?
どうにも來さんの言葉に少し熱が篭っている気がする。
「綴様! 俺はおれ自身の手で勝利を掴みたいのです、そして綴様や詩桐様に勝利を送りたいんです!」
…………うむ?
よくよく見ると來さんの瞳に熱がある。
そして、その熱は綴さんに向かっている。
「でも、雄矢さんが今回の指揮を執るというのは兄さんと麻耶が話し合って決めたことよ。私もそれに賛成した。今更変えられないわ」
「ですが、このような下賎な輩に!」
來さんが、ともすれば憎しみともとれるような苦々しい感情を込めた瞳を向けてくる。
「ダメよ、來。これはだけは一存では決められないわ」
「しかし、綴様! 俺は綴様のために働きたいのです!」
………………お?
今までの來さんの言葉とその態度に、ふいに気づいた。
正に頭上に豆電球がピカンッと光ったような感じである。
「あのような者ではなく、この俺を!」
來さんが懲りずに自らを、と綴さんに訴える。
……ははあ。
……。
唐突だった。
「いい加減にしなさい!」
パシンッ。
軽い音共に綴さんが來さんの頬を張る。
懲りずに訴えて来る來さんにいい加減に頭にきたのだろう。
「なっっっっっっ!!!」
「これはもう決まったことなのよ!」
驚く來さんに綴さんが睨みつける。
「それにこの作戦はもう動き出している。貴方個人の考えで変えるわけには行かないのよ! それが分からないなら貴方はここには必要ないわ!!」
「……な、……え、あ」
綴さんの手厳しい言葉に來さんが我に返る。
來さんが落ち着いたのを見計らって、綴さんがいつものように声を掛ける。
「貴方がやる気があるのは分かるし、有能なのも知っている。でも今回の筋書きを書いたのは雄矢さんであり。この作戦の流れを理解できるのは雄矢さんだけなのよ」
「……そんな」
「ここは彼に従いなさい、來」
「う、っく」
有無を言わさない綴さんの言葉に來さんが黙り込む。
と、今までこの場に居て黙していた男性の一人が声を上げた。
「今回はお前の負けだ、來」
「…………橘様」
來さんに声を掛けた男性は橘という剣士隊の参謀であり、詩桐さんについていった摩耶さんの副官である。
「お前の気持ちも分かる、だが、そこの御仁は我が主である詩桐様と我が隊の長である摩耶が認めたのだ」
「……」
「ここは引け」
暫く黙り込んでいたが。
「すまなかった、貴殿に従おう」
「………………いや」
來さんは俺に頭を下げると黙って席に座り込んだ。
自らの主である綴さんと格上であるだろう橘さんの言葉に折れたのだ。
……。
だが。
……憎しみを込めて睨まないでくれよ。
◇◇◇
「はぁ」
暗い廊下で再度ため息をつく。
來さんはその後、作戦会議がおわるまでずっと睨み続けていたのだ。
目には憎しみに近い感情を込めて。
「内憂外患、か」
ぽつりと言葉が漏れる。
予定なら、近日中に郷亜は兵を動かすだろう。
そのようにも工作をした。
先程の綴さんの言葉の通りに、もはやことは動き出している。
失敗は許されない。
特に來さんが率いる術師隊は今回の作戦の目玉だ。
出来るだけ仲良くしておきたい。
だというのに。
「あれは、ちょいと問題だな」
恋は盲目とはよく言ったものだ。
……恐らく來さんは問題を起こすだろう。
それはある意味確信に近い予感。
「……はぁぁ」
深く長いため息が漏れた。
と。
「雄矢さん」
とんっ、と背中に何かが飛びついてきた。
「お! どうした願?」
「迎えに来たんだよ」
俺の背でえへへと可愛らしく笑った少女は、俺が拾った三姉妹居の末っ子だった。
「うん、問題ないね」
手元に呼び出していた携帯端末や機器を竜機神の内部に送り返す。
「一応、飲んでもらっている薬が効果を表してきているよ。蛍さんの体がもう少し元気になったら本格的な治療に入るよ」
蛍さんに合わせて処方しておいたカンフル剤が効果を発揮してきてるのか、蛍さんの体調は日々良くなってきている。
もう少し体調がよくなったなら、後は一気にナノマシンで生体修復を行う予定だ。
「お姉ちゃんは助かるの?」
俺の背に引っ付いている願が心配そうに声を出すが。
「おう! 当然。任せとけって」
断言し、頭を撫でてやる。
「……迷惑をかけます」
そう言って頭を下げたのは目の前に座っている女性――蛍さんだ。
「気にすんなって」
ししと笑う。
「これは俺が勝手にやっていることだ、別に感謝して欲しいわけじゃないのさ」
笑いながら今度は蛍さんの頭を撫でてやる。
「……あ」
「何れは立って走れるようにもなるさ。もう暫くの辛抱だよ」
「……はい///」
真っ白な頬が紅く染まっていく様は微妙に面白い。
おおう、可愛いのう。
目の前で絶世の美少女が頬を紅く染めてはにかむ様子は見ごたえである。
……。
尤も。
「何お姉ちゃんに色目使ってるのよ! この、変態!!」
「げふぅっ!」
直ぐに三姉妹の次女――祈に真横から蹴り倒されることになったのだが。
「祈ちゃん、はい」
「ありがと、願」
「お姉ちゃん、これ」
「ありがとう」
「はい、雄矢さん」
「おう、サンキュ」
願が皆に器を配っていく。
基本この砦の人は食堂で食事を取るのだが、蛍さんが動けない以上残していくわけにはいかず、俺と祈願姉妹の三人は蛍さんの部屋で食事を一緒にしているのだ。
「回ったな、それじゃ」
「「いただきまーす!」」
「「いただきます」」
前者二名は祈願姉妹、後者二名は年長組み。
「前と比べれば夢のようだね」
「うん」
願の言葉に祈が頷く。
姉妹の言葉には辛い過去がうそであるかのような明るさが満ちていた。
「あっ。これ、美味しい! お姉ちゃんも、はい」
「あらあら、うふふ」
蛍さんが笑いながら願から蒸かし芋を受け取る。
「あっ! 私にも頂戴!」
「はい、祈りちゃん」
「ん」
願の箸につままれた芋を祈りがパクリと咥える。
「あ、本当だ! これ美味しい!」
「うん、後で作り方を聞いてみようよ。今度お姉ちゃんや雄矢さんに作ってあげますね」
「ええ、待ってるわ」
「おう!」
そこには一つの家族の形があった。
目の前で妹のような少女達が笑い、それを母親のような少女が笑顔で笑っている。
……いいもんだな、こういうのも。
ふとそんな感想を抱く。
と。
「……父親のような笑顔ですよ」
俺の思考を読んだのか、蛍さんが小さな声でからかってくる。
父親なんて柄でもないが、こういうのもいいかもしれない。
少しだけ、そう思った。
だけど、直ぐに。
「俺には父親は無理だな」
「……あら、そうですか?」
「もしも、自分の娘が嫁に行く、なんてことになったら何をするかわからん」
「……あらあら」
「だから、駄目だな」
深い苦笑しながら、一つの記憶が脳裏をよぎった。
以前、まだ帝国に居た頃のことだ。
技研の同僚の娘が結婚するということがあった。
同僚自身は年いってから授かった娘を溺愛していた。
それこそ目に入れても痛くないくらい。
そして、娘に結婚の話が持ち上がった時、彼は反対した。
それこそ、暴れ牛すら逃げ去ってしまうような勢いで反対したのだ。
まぁ、結局の所娘に押し切られる形で結婚を了承したのだが。
「くくく、いい思い出だが。……………………………………、わが身になると笑えんな」
結果として、結婚式の夜に技研全員がその同僚に酔い潰されたのだ。
あまりにも悲しむ彼に技研のメンバー達はこんなこともある、といって笑って酒を勧めたのだ。
そして付き合いで飲んだのだが、彼の悲しみがそのまま酒の量にでも出たのか付き合った全員が潰された。
あの物ぐさな教授ですら、引っ張り出された挙句に潰された。
もうやめてと叫ぶ教授の口に冷めた目で酒瓶を突っ込んでいく同僚には戦慄したものである。
ちなみにこれが世に名高い帝国技研の四大喜劇の一つである。
「……あらあら、貴方の元に生まれる子は苦労しそうですね」
「ふん」
「……ふふ」
蛍さんのからかいはその後も止まらなかった。
夜。
欠けた月が天頂を降り始める頃。
窓を開き、夜の空に想いを馳せる。
恐らく、この戦いは厳しいものになるだろう。
強大な敵に不安要素を抱えた内部。文字通り内憂外患。
竜機神の力を使えばことはたやすくすむ。
しかし、この戦いはこの世界の人間が自らの手で勝利を掴まねばならない。
具体的には詩桐さんであり綴さんでもある。
俺と冬に出来るのはそのお膳立てをすることぐらい。
俺の観測能力内には長女に抱きついて寝ている次女と三女、今なお書類をめくり事務仕事を続けている当事者、そしてこの砦にいる人々がいる。
出来れば、この者たちには笑える未来が来て欲しい。
ふと、誰とも無く呟いた。
「……我らの行く道に、運命の祝福あれ」
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ポケモンという名の廃人生産装置の洗礼が直撃した神楽です……。
……。
い、いやっ、内定者の説明会とかがあったのは本当ですよ!
ほ、本当なんだからね!
ただそこにポケモンという名の(ry
……。
ゴホンッ。
久しぶりの作者です。
この作品を見捨てなかった読者の皆様、ありがとうございますです、はい。
これからはマメに更新をしていこうと思います。
では、ドリュウズの厳選が残っているので、コレにて……。
え、こりてない?
HAHAHA、ポケモンという(ry